第21話 どういう意味ですか?

 空は、オレンジいろへと変わっている。

 僕は、王宮おうきゅうの外にいた。

 まえには、ヴィオラさんとフィルが、見送みおくりとして立ってくれている。

 フィルが、言葉をはっした。


「キミには、迷惑めいわくをかけたね」

「ヴィオラさんにも言いましたが、あの騎士きし暴走ぼうそうしただけですので、フィル様は何も悪くありません。……しかし――」

「何かな?」

「アラン様は、たしかに人間のクズでした。でも、評価できるところもありました」

「評価できるところ?」

「はい。しっかりと、睡眠すいみんを取っているところです。部下ぶかの睡眠をうば行為こういは、最低さいていという言葉にきますが、睡眠時間を確保かくほする行為そのものに関しては、とても良いことですので」


 僕は、フィルの顔を見た。


つかれ――というものは、第三者だいさんしゃから見たら、案外あんがい簡単かんたん見抜みぬかれるものですよ」

「それは、僕に言っているのかい?」

「そうですね」

「自覚は無いけどね」

「……疲れは、睡眠くしては取れないものです。どうしても寝れない時はあるのかもしれませんが、極力きょくりょく睡眠することを、僕はおすすめします」

「そうだね。検討けんとうするよ」

「…………」


 フィルといい、サラさんといい、だ。

 それは、日本人にほんじんにもふくまれることかもしれない。


 睡眠という行為を、ざつに考えている人は、意外いがいに多い。

 睡眠は、人間が進化しんかを続けていくうえで、がれることなく、のこった生命活動せいめいかつどうの一つだ。

 つまり、確実に必要な行為なのである。

 全人類ぜんじんるい、もっと睡眠を重要視じゅうようししてほしい。

 それが、僕の願いの一つなのだが……。


「ナオキくん」


 フィルが、そう声をかけた。


「何でしょう?」

「今回は、キミにりを作ってしまったと、僕は考えている」

「借りを作らせたおぼえは無いのですが」

「いや、大きな借りができたよ。僕の仲間の暴走を、キミがおさえたのだから」

「暴走を抑えた……」


 かえれば、あぶらそそぐような言動げんどうを取った記憶もある。

 がしかし、それは口に出さないでおこう。

 わざわざ言わなくても良いことのような気がした。


「今回のおれいとして、今後キミに何かこまったことがあれば、ぜひ僕のところまで相談そうだんに来てほしい。自分でいうのも何だけど、王族おうぞくの僕にできることは、それなりにあると思うよ」

「…………」


 僕は、考えをめぐらせてから、返事を返した。


「フィル様は多忙たぼうですから、僕の相談に乗るくらいでしたら、睡眠を優先ゆうせんするほうが絶対に良いです。それが、一番大事です」

「キミの睡眠愛すいみんあいは、すさまじいね」

「それなりに、睡眠の本は読んできましたので」


 フィルは、イケメンの微笑ほほえみを見せた。


「僕のことを気遣きづかってくれるのは、とてもありがたい事だけど、お返しくらいはさせてほしいかな。おそらく、キミがこのさき困ってしまうことは、あるだろうし。……であるならば、保険として、この借りはかしておく事が最適解さいてきかいだと、僕は思うんだ」

「…………」


 彼の言っていることも、一理いちりあるといえば、あるか……。


「分かりました。ではありがたく、し一つということで」

「うん、何かあったらいつでも相談してくれ。時間があれば、話を聞かせてもらうよ」


 そうして、僕はフィルとの関係かんけいが、一つ生まれた。


 次に、ヴィオラさんへと顔を向ける。

 サラさんのおねえさん……というかたもできるその人に、僕は言った。


今日きょう一日いちにち、僕の案内役あんないやくとして色々いろいろサポートをしてくださり、ありがとうございます」

「いえ。私こそ、ナオキ様へお礼をするべき立場たちばです。アラン様をやっつけてくださり、ありがとうございました」


 やっつける……。


面倒めんどう上司じょうしがいなくなることは、このうえないよろこびですので。素直すなおうれしいのです」

「なるほど……」


 まあ、そうだろうが……。


 ――ヴィオラさん。


 こそ、サラさんより真面目まじめそうに見えるものの、中身なかみはそうでも無さそうだ。

 サラさんにも、良い意味で見習みならってほしいものであるが……。

 なんて、考えていると。


「今後は、妹をよろしくお願いします」


 と、彼女は言った。

 僕は、口を動かす。


「どちらかといえば、僕がサラさんの家にお邪魔じゃましている立場ですので、すごいお世話せわにならせていただいているかたちになりますが」

「……その解釈かいしゃくは、私の言いたい意味合いみあいとはことなりますね」

「意味合い、ですか?」

「まあ、今はまだ意味を知る必要は無いですけど」

「どういう意味ですか?」


 わけが分からないのだった。


 ヴィオラさんの謎言葉なぞことばを最後に、僕はわかれの挨拶あいさつわして、王宮をはなれた。

 道中どうちゅう、思う。


「今日は、あのクズ騎士きしのせいで、どっと疲れたな」


 長い一日だった。

 でも……。


異世界いせかいの、たよりになるいが二人もできたことは、良いことだったな」


 僕は、帰宅きたくする場所へと向かう。

 今日も、ぐっすりねむろう――とか考えながら、歩いていたらだった――


「――あ、あのっ!」


 背後はいごから、少女の声が聞こえてきた。

 まだおさなさの残る、女子の声だ。


 僕は、うしろを振り向く。

 そこには、わたる空のような、水色みずいろかみを持った美少女びしょうじょが立っていた。


 長髪ちょうはつで、二組ふたくみみをらしている。

 ザ・魔法使まほうつかいと言わんばかりの衣装いしょう――うす黒色くろいろのローブを着用ちゃくようしており、両手には少女の身長しんちょうとどきそうなくらいの長さのつえにぎっていた。


 かりにあれで、魔法を使わない人間と言われたら、ビックリするであろうほどの、魔法の使つか想像そうぞうさせる格好かっこうだ。


 かおつきは、かなりレベルが高い。

 可愛かわいけいの顔で、パーツが見事みごとなまでにととのっている童顔どうがんである。

 しかし、表情はかたい……というか、口をわなわなと動かしており、ひとみもぶるぶるとふるわしていた。

 緊張きんちょう、しているのだろうか?


 そんな彼女は、目を強くつむり、そして口を大きく開けた。


「わ、私と――」


 そして、とんでもないことを言い出した。


「私と一緒に、死んでくださいっ!!!!」


「……………………」


 …………………………………………。


「…………はい?」


 現時点げんじてんでいえば、かなりヤバい少女の登場なのだった。

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