第17話 フィル・ギルバード

 アランの部下ぶかあとをついていくかたちで、僕とヴィオラさんは医務室いむしつの中に入った。


 最初さいしょ視界しかいうつったのは、しろいベッドによこたわる、騎士きしアランの存在そんざいだ。

 ブロンドのかみと、みじかやしたひげ特徴的とくちょうてきなそのおとこは、僕を見て言葉を出した。


「お、お前……っ!」


 そして、彼は僕を指差ゆびさす。


「フィルさま……っ! コイツが……コイツこそが、わたくしをいきなりなぐってきたくだん異世界人いせかいじんになります! かおわないからとかいう理不尽りふじん理由りゆうで、何の前触まえぶれもなく殴ってきたんです! 俺がイケメンだからって、嫉妬しっとしやがって……!」


 ――だれがイケメンだ。


 と、ツッコミたくなるものの、今はべつのところに意識いしきが向く。

 アランは、王族おうぞく直接ちょくせつ、僕の非行ひこううそ)をうったえているらしいが……。

 今、彼がフィル様と言ったその人物じんぶつが、王族の一人ひとり該当がいとうするのだろうか?


 アランのちかくには、一人の青年せいねんがいた。

 若干じゃっかんあおみのかかった黒髪くろかみに、ととのった顔のぬしである、二十歳はたちくらいのをしたひとだ。


 青年は、僕を見据みすえた。


「キミの名前なまえは?」

「……曽根そね直樹なおきもうします」

「そうか……僕はフィル・ギルバード。一応いちおう、王族の一人として、たけわないくらいにつかせてもらっているよ」

「…………」


 彼がフィル様……そして、やはり王族だったのか。

 彼は、口を開ける。


「ちなみに、ナオキくん。キミに、聞きたいことがあるんだ……」

「はい」

「さっきから、アランがキミに理不尽な暴力ぼうりょくけたと、僕にうったつづけている。彼の言っている事は、本当ほんとうなのかい?」

「……いえ。アラン様が、一方的いっぽうてきに理不尽な嘘をついているだけですね」

「――と、ナオキくんは言っているが、アラン。お前は、嘘をついているのか?」

「いやいや、そんなわけいじゃないですか! ぎゃくにアイツが嘘をついているんですよ! とおり、あの異世界人は詐欺師さぎしですからね!」


 ――誰が詐欺師だ。


「僕には、彼が詐欺師の見た目をしているようには、見えないが」

「それは、フィル様が詐欺師の見た目を知らないからですよ! 詐欺師というものは、ああいう黒髪くろかみの男がおおいんです!」


 とんでもない偏見へんけんである。


「僕も、黒髪の男だけど?」

「フィ、フィル様は、い黒髪なのです!」

「ダメだ。こいつははなしにならないな」


 と、しれっと毒舌どくぜつをはくフィル。

 青年は、つぎにヴィオラさんに顔を向けた。


「ヴィオラ」

「はい、何でしょう?」

「見ての通り、アランとナオキくんの言っている内容ないようちがっているんだ。つまり、どちらかが嘘をついているという事になる。率直そっちょくに聞くけど、嘘をついているのは、どっちなのかな?」

「――アラン様です」

即答そくとうだったね。……おい、アラン。お前、また嘘をついたのか」


 ……。

 このおっさん、常習犯じょうしゅうはんなのか。


「はあ……何回なんかいとうさんには、アランをクビにしたほうが良いって言ってきたのに……」

「ちょ、ちょっとおちください!? フィル様!」

「なんだ? 言っておくが、僕にわけつうじないぞ」

「こ、今回は! 今回はわたくし、嘘をついていないんです!」

「でも、ヴィオラはアランが嘘をついていると言っているが……」

「それは……あれですよ!」

「あれって?」

「あいつら、グルなんです!」


 …………。


「「は?」」


 僕とヴィオラさんの声がハモった。


 …………。


 まあ、よく分かったことは一つだ。

 アランは、とことん僕を悪者わるものあつかいでつらぬとおそうとしているらしい。

 とてもつよ信念しんねんは、感じるが……。

 しかし、被害ひがいこうむるこっちがわからしたら、たいへん迷惑めいわくきわまりないのだった。


 僕は、口を開ける。


「ちなみに、ですが。くわしい内容を説明せつめいすると、アラン様がきゅうに自分に勝負しょうぶちかけてきて、僕がその勝負でって、勝負にけたアラン様が医務室まではこばれた。ただ、それだけの話なんです。おそらくアラン様は、僕に正面しょうめんからぶつかって敗北はいぼくしたという記録きろくのこるのが、いやなだけなのだと思います」

「お、お前っ! それっぽい嘘をつくんじゃない!」


 ――いや、実話じつわなのだが。


 というか、ぎゃくにこのクズ騎士きし虚言癖きょげんへきぎてこわい。

 都合つごうすぎる男である。


「なるほど。話は、よく理解りかいできたよ」

「り、理解できたらいけませんよ! フィル様!」

「まだ、言い訳があるのか? アラン」


 そう言って、アランをにらみつけるフィル。

 はたからても、怖いのだった。


 しかし、アランという男は、いまあきらめた様子ようすを見せない。

 顔をきつらせながらも、口を動かした。


「ち、ちがうんです! みんな、コイツに洗脳せんのうされているんですよ!」


 ――は?


「次は、どんなオリジナルストーリーをかたるつもりなんだい?」


 もう、オリジナルストーリーとか言われているし。


 それに、知らないうちに僕の設定せっていが、どんどん追加ついかされていくのだった。


「この異世界人は、催眠術師さいみんじゅつしなんですよ! それも、かなり悪質あくしつなタイプの! あやしい催眠術師という生き物は、だいたいくろひとみっているのです!」

「アラン……僕の瞳の色は、何色なにいろに見えるかな?」

「き、綺麗きれいな黒色に見えます! あっちのは、にごっています!」


 ここまでると、本当にダルいな。この騎士。

 話が一向いっこうすすまないのだった。


 そんなことを、思っていたら――だった。


「あの……」


 一人の男性が、げる。

 その男性とは……。


「嘘をついているのは、アラン様のほうになります……」


 アランの部下なのだった。


 アランは、大きく目を見開みひらかせていた。


 まさか、こいつに裏切うらぎられるなんて――と思っていそうな、驚愕きょうがくまった表情ひょうじょうかべていた。

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