第16話 妹

 僕はその休憩室きゅうけいしつでしばらく待機たいきするながれとなった。

 うしなったアランは、担架たんかせられ、医務室いむしつまではこばれていた。


 休憩室の椅子いすすわりながら、僕は自身じしんのひらを見つめる。

 べつに、中二病ちゅうにびょう発症はっしょうしたからとか、そういうわけではない。

 アランに向けて、木刀ぼくとうろしたときの、あの攻撃こうげき威力いりょくについて、かんがえをめぐらせていたのだ。


野球やきゅうでいう、バットの素振すぶりをしたくらいのいきおいで、木刀を振り下ろしただけだったのだが……それでも中々なかなか攻撃力こうげきりょくだったな。われながら」


 …………。


 確信かくしんをさせられる。

 あのステータスとスキルは、本物ほんものだ。

 本当に、僕はチート能力のうりょくを手に入れたのだ。


 そして――しかし、とも思った。


強力きょうりょくちからがゆえに、むずかしさというものもありそうだな……」


 一歩いっぽ使つかかた間違まちがえれば、僕は凶悪きょうあく存在そんざいとなってしまう。

 それくらい、強いステータスを所持しょじしている現状げんじょうだ。


当面とうめん目標もくひょうは、力の制御せいぎょなのかもしれない」


 そんなことを、つぶやいた時だった。

 コンコン――と。

 休憩室のとびらがノックされる。


「――はいりますね」


 女性のこえともに、みじかりそろえられた茶髪ちゃぱつに、黒縁くろぶち眼鏡めがねをかけた、ヴィオラさんの姿すがたが見える。


失礼しつれいします」


 そう一礼いちれいし、彼女は僕のとなりの椅子に着席ちゃくせきした。


「このたびは、騎士きしアランの暴走ぼうそうませてしまって、たいへんもうわけございませんでした」


 なぜかヴィオラさんのほうから、僕にあやまってきた。

 僕は、口を動かす。


「いえ。ヴィオラさんは、何も悪くありませんよ。100パーセントの確率かくりつで、あの騎士が悪いと、僕は思っています」

「そんな事は、ありません。私の上長じょうちょう迷惑めいわくをかけたのですから、5パーセントくらいの確率で、私たちの方にもがあります。のこり95パーセントの確率で、あのクズ騎士きしが悪いとは思っていますけど」

「クズ騎士……?」

「あの人のうらのあだです。本人ほんにんは、認知にんちしていないようですが」

「……なるほど。やはり、あの男は、裏ではきちんときらわれていたんですね」

毎年まいとし年末ねんまつひらかれる、きらいな騎士きしランキングでは、不動ふどうの3ほこっていますからね」

「…………」


 なんだ? そのイベントは……と思いながらも、僕は言った。


「あれで、3位なんですか?」

「あれで、3位です」

「あれよりひどいのが、あと2人いるという事ですか?」

「そうなります」


 くに直属ちょくぞくの騎士……。

 魔境まきょうなのだった。


 それにしても――と、ヴィオラさんが声を出す。


「ナオキさまは、おつよかたなんですね」

「……まあ。すべて、スキルだのみの強さではありますが」

「それでも、強いことにわりはありません。能力のうりょくは、才能さいのう努力どりょくかさねですが、ナオキ様は、才能の比率ひりつたかいというだけです。結果的けっかてきにすごいのですから、素晴すばらしいことなのだと思います」

「……たしかに、そう言われれば、そうかもしれません」

「ちなみに、話は変わりますが……」

「何でしょう?」


 ヴィオラさんは、口を開ける。


「私のいもうとは、元気げんきにしてますか?」

「ヴィオラさんの妹……?」

「サラのことです」

「サラ……え?」

「サラは、私の妹にたるんです」

「……そうなんですか?」

「ええ」

「サラさんって、ギルドにつとめている社畜しゃちく女性じょせいの、あのサラさんのことですか?」

「そうです。あの仕事しごとバカのサラのことです」

「……まさか、ヴィオラさんの妹だったとは」


 おもわぬ事実じじつなのだった。


「サラさんは、元気ですよ」

「それは、かったです」

「でも……」

「でも……何でしょうか?」

「仕事の割合わりあいらして、仕事以外の時間じかんをもっとやしたら、さらに元気になると僕は思っています」

「……ナオキ様は、良い人なんですね」

「そんな事は、ありません。ただ、過剰かじょう労働ろうどうたりまえおこなわせるなかが、嫌いなだけです」

「サラが、ナオキ様と出会であえて、良かったかもしれません」

「……それは、どういう事ですか?」

「つまりですね……」

「つまり?」

「…………」


 ヴィオラさんは、っすぐなひとみで僕を見続みつづけ、そして――


「いえ、何でもありません」


 結局けっきょく、彼女の言葉の意図いとは分からず、話は終わった。


 ――そして。


 廊下ろうかを、たったったっと勢いよくける音がひびいてくる。休憩室の扉がバンっ! と音を立てて、けられた。


「す、すみませんっ!」


 そう大声おおごえを出してきたのは、見覚みおぼえのあるかお人物じんぶつ――騎士アランの部下ぶかの一人だった。

 彼は、僕たちに報告ほうこくをする。


「アラン様が、お目覚めざめになられましたっ!」


 ヴィオラさんが、返事へんじかえす。


「そうなんですね」

「そ、それでっ」

「何か、ありましたか?」

「アラン様が、こう言い始めたんです。――異世界人いせかいじん不意打ふいうちをつかれ、暴力ぼうりょくるわれた――と。そのむね王族おうぞくかたつたえ、そしてソネナオキの有罪ゆうざい指摘してきし始めましたっ! 完全かんぜんに、被害者面ひがいしゃづらになっておりますっ!」

「…………」


 僕と、ヴィオラさんの声がかさなる。

 二人して、おなじ言葉をはっしたのだった。


「「あのクズ騎士……」」


 また、面倒めんどう事態じたいこりそうだった。

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