第15話 僕の攻撃

 僕は、片手かたてつかんでいる木刀ぼくとうを見つめて、思った。


 ――そういえば僕は、けんただしいかまかたや、かた、どのような手順てじゅん攻撃こうげきするのが最適さいてきであるか……剣について何も知らないな。


 僕は、剣術けんじゅつ素人しろうとであった。

 だから、何となくでしか、この木刀をあつかえない。


 とりあえず、どうせ攻撃されてもダメージは蓄積ちくせきされないし、チュートリアルの気分きぶん騎士きしアランに攻撃をしようか……。

 手加減てかげんは、もちろんわすれずに、だ。


 殺人さつじん過去かこは、背負せおいたくないし。

 攻撃力306万の僕が、平均へいきんステータス2000のアランに本気の攻撃でもらわせたものなら……。


「…………」


 ほねのこるのかも、あやしいだろう。

 本気なんて、出したらダメだな。


 僕は、木刀を両手りょうてで掴んだ。

 そして、上へ持ち上げる。

 すると、アランがさけんだ。


「ま、てっ!」

「……何ですか?」

「お前は、今から何をする気なんだ?」

「それは――」


 僕は、たりまえのことを言う。


「攻撃をしようと思っていますが」

「そ、それは少し待ってくれっ!」

「なぜ、僕はあなたへの攻撃を中断ちゅうだんしないといけないんですか?」

「い、一応いちおう……」


 僕は、一旦いったん木刀をしたろし、くびをかしげた。


「一応?」

「その……確認かくにんがしたくてだな」

「確認とは?」

「お前、かね興味きょうみはないか?」

かね……ですか?」

「ああ」

「なぜ、それを確認したいと思ったんですか?」


 アランは、僕だけに聞こえる、小さな声量せいりょうで言った。


「お前が降参こうさんしてくれるのであれば、見返みかえりにかねわたしてやろうと思ってな。……あれだ。俺の慈悲じひというやつだ」

「はあ……」


 何をすのかと思えば……。

 この人は、お金の力で物事ものごと解決かいけつしようと考えているのか。


 まあ、そういう考えになるのも納得なっとくはできるが。

 彼はおそらく、ある一つの最悪さいあく未来みらい予測よそくしているのだろう。

 それは、僕に敗北はいぼくして名誉めいよきずくという未来。


 そんな事態じたいこるくらいなら、ある程度ていどかねてても良いと……そんな思考しこうになっている……。

 そんなところだと思う。


 僕は、アランの提案ていあんたいする回答かいとうを口に出した。


「お金には、あまり興味が無いです」


 アランは、ぎしりをした。

 おもどおりにかなくて、イラついているのか。


 正直しょうじきに言うと、僕だってお金はしかった。

 これから異世界いせかい生活せいかつしていくうえで、非常ひじょう役立やくだつだろうから。


 しかし、僕も周囲しゅういからいだかれるイメージは、気にする。

 この男は、かりに僕との勝負しょうぶった場合ばあいは、僕のことをうそつきとひろめ、あの虚言癖きょげんへきは俺がらしめてやったとか何とか、言ってきそうだ。

 お金をわたすという確証かくしょうも、どこにも無いし。

 だから僕は、彼の提案をまよいなくことわった。


「話は、わりですか?」

「ま、まだだっ! まだ、待ってくれっ!」

「……どれくらい、待てば良いですか?」

「俺が良いと言うまで……」


 ――だれが待つか。


 思わず、そうツッコみたくなる、騎士様きしさまの言葉だった。


「僕は、こんな勝負に長時間ちょうじかんついやしたくはないのですが……」

「俺だって、こんな勝負に――どうしよう、どうしよう――となやみたくはないっ!」


 ――全部ぜんぶ、あなたの自業自得じごうじとくだろうが。


 ツッコまさせるという分野ぶんやにおいては、優秀ゆうしゅうな騎士様なのだった。


「……くっ! どうして、こんなやつがここに転移てんいしてたんだ……!? 俺の順調じゅんちょうだった昇格しょうかく計画けいかくが、台無だいなしになりそうじゃないかっ!」


 かみをぐしゃぐしゃにかきぜながら、そんな愚痴ぐちをこぼすアラン。

 僕は、彼に声をかける。


「あの……」

「なんだ?」

「一つ、聞きたいことがあるのですが」

「聞きたいこと?」


 僕は、口を動かした。


「あなたは、僕のステータスをいつわりの数値すうちであると、言い続けていましたが……。それをまえたうえで、質問しつもんをします。なぜ、あなたは今、そんなにもあせった様子ようすでいるのですか?」

「あ、焦った様子……? 俺がか?」

「はい。とっても、焦っているように見えます」

「そ、そんなことは……」


 弱々よわよわしい声で、そう言うアラン。

 僕は、淡々たんたんと言葉を出す。


「あなたの推測すいそくどおり、僕が偽りのステータスをほこっており、じつたいした能力のうりょくわせていないのであれば、あなたはそんなにおびえる必要ひつようは無いのではありませんか?」


 アランは、さっきからはなたれる僕の言葉により、プライドがみにじられた気持きもちになったからか、きゅうに声をあらはじめた。


「だ、誰が怯えていると……っ!」

金銭きんせんえに、僕を降参させようと考えていたなんて……怯えている以外に何があるというのでしょうか?」

「お、怯えてなどいないわっ!」

「――そうですか」


 僕は、ふたたび木刀を振り上げた。

 そして、言葉をはっする。


「では――今からあなたにけて攻撃をそうと思いますが、僕が本当ほんとうは大したステータスのぬしでないと考えているあなたは、堂々どうどうと僕の攻撃をめることができますよね?」


 アランは、ひとみをビクビクと動かしながら、


「も、もちろんだ……っ」

「手加減はしますが――なないでください」


 僕は、アランの脳天のうてん目掛めがけて、木刀を振り下ろした。


 ――瞬間しゅんかん


 衝撃しょうげきまれた。

 地響じひびきがこり、上空じょうくうまですな粒子りゅうしがり、重低音じゅうていおんわたる。

 飛散ひさんした砂の粉塵ふんじんが、徐々じょじょれていくと、地面じめんよこたわる騎士アランの姿すがたが確認できた。


「…………」


 いきはしているな……。

 は、うしなっているみたいだ。


 ヴィオラさんは、一拍いっぱくおくれて勝敗しょうはいを口にした。


「しょ、勝者しょうしゃ――ナオキさまです……っ」


 そうして僕は、騎士アランに勝利しょうりしたのだった。

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