第23話 誕生の仮説
リュックに入っていたジュエリーサンドは全部使えるようになった。
獣系をどんどん吸収して、体を成長させていく。
5才くらいで人型に変身して、両手で円盤を操作する。
サーベルタイガーを切り裂き、正体不明の黒い球体を破壊して吸収するとスキル”雷撃”を得た。
円盤の制御力をあげて体は超硬化で防御する。
15才の体を作ってから、岩山の窪みを出る。
ここからは、超高速を使い、移動しながら狩りをしていく。
リュックに入れてあった着替えを取り出して服は着たのだが、靴はない。
そのため、ティラノサウルスのようなドラゴンの皮を切り、糸車で縛って靴にした。
不意打ちでなければ、このあたりの魔物は問題なく狩れた。
次は空の魔物だ。
足を伸ばして触手で翼竜を切り裂き、円盤をドリル状にして四角いキューブも粉砕する。
キューブからは”浮遊”を手に入れた。
そして、そいつが現れた。
赤い瞳、蝙蝠の翼、黒の上下を着た人型のそいつは、多分悪魔だ。
円盤が直撃しても復元し、スピードも俺より早い。
触手は千切られ、力も圧倒的だった。
手刀で首を着られた俺は、岩山に叩きつけられて沈黙した。
これでは、まだ勝てない。
奴が飛び去ったのを確認して、体を再構築していく。
幸いなことに、やつを掠めた触手で吸収はできた。
手に入れたスキルは”復元”と”音速”・”分身”の三つだ。
そこからは、ひたすらに獲物を狩ってスキルを磨いていく。
あのスピードを超え、あの力を凌駕し、あいつを滅ぼさないとこの世界を調べることもできない。
浮遊と音速を組み合わせて、地表を超高速で移動する。
その速度域で方向を変え、反転し上下へ移動する。
円盤やドリルの制御も向上させて、複数を確実に操作できるようにする。
この繰り返しだった。
次に奴が姿を見せた時も、じっと隠れてやり過ごした。
そうして鍛錬を重ね、自分で納得できるレベルに到達した。
やがて、奴が姿を見せた。
まずは、探りで円盤で切り付ける。
ヒットしたかに見えたが、分身だった。一度くらった攻撃は通用しないってことか。
右側に現れた奴の貫き手をスウェーで躱して肘打ちを入れる。
同じく肘でブロックされたので、頭突きを入れたらヒットした。
奴のバリエーションにはなかったのだろう。
よろめいた奴にマイクロ波を照射して、瞬間的にフローズンに切り替え、、凍り付いたはずの体に回し蹴りを叩き込む。
パキンという音とともに左腕が粉々に吹き飛んだが、瞬時に復元されてしまう。
この攻撃も未知だったのだろうが、次は効かないだろう。
さて、次はどうするかと一瞬の間をあけたら、声がかかった。
-ナニモノダ-
「えっ?」
-オマエハ、ナニモノダ?-
「人間だよ。」
-ネンワ ダ、アタマノナカデ、ハナシカケレバ ヨイ-
-コンナ カンジ カ-
-アア。オマエハ、オレノシッテル、ニンゲント チガウ-
-ダガ、ニンゲントシテ クラシテル-
-ソウカ。ココデ ナニヲ シテル-
男の名前はザジと名乗った。悪魔ではなく、魔族だという。
俺は人間の世界に帰る方法を探しているというと、転移の能力使いを知っているという。
紹介してほしいと言ったら、対価を求められた。
交渉の末、今着ているタンクトップで了解を得た。
『サラ、客人を連れてきた!』
ザジについて家に入ろうとした瞬間、凄まじい殺気に襲われた。
『初見の変態を家に入れるほど私は安い女ではない!』
『まあ、そういうな。面白い人間を連れてきたんだ。』
『お前の目は節穴だろう。それのどこが人間なのだ。』
『まあ、能力は人間離れしているが、見た目は人間だろう。』
『ソレのどこが人間だというのだ。ソレの本質は冥界の肉塊だ。』
『ちょっと待ってください。冥界の肉ってどういう事ですか!』
俺は思わず家の中に入って叫んでいた。
『なんだ、自覚はないのか。』
『いえ、思い当たる部分はあります。』
『お前の本質は、生を受ける前の待機状態の肉だ。なぜ魔界にいるのかは知らんが、冥界に帰れ。ここはお前のいる場所ではない。』
『俺は、自分のことを何も知らないんです。教えてください、俺は何なんですか!』
『ふう、仕方ない。とりあえず入れ。その前に何か着てくれ。』
俺はウロコアーマーで上半身を覆った。
タンクトップはザジが着ている。
家の主は、サラという青い髪をした少女だ。
ザジと同じ魔族で、褐色の肌をしている。
『私も、そこまで冥界のことを知っているわけではない。』
『はい。知っている事だけで結構です。』
『先人の残した記録によれば、人族や魔族など人系の存在は、冥界で肉体を与えられ、心や体を種族にあわせて構築し、この世に生を受けるのだという。』
『それは、魂に肉体が与えられるということでしょうか。』
『イメージはそういう事だと思う。』
『与えられる肉体というのは何ですか?』
『魂を入れる肉の塊らしい。生まれる前なので生きているとは言えず、死んでいるわけでもない。生と死の中間に位置する存在だと書いてあった。』
『でも、俺には死ぬ前の記憶があるんです。』
『そうなると、魂が入れられて、初期化される前の状態といったところか。それがなぜ人間の姿をして、こんな所にいるのだ?』
俺は、召喚術で人間に呼ばれたらしい事。偶然手に入れた”吸収”のスキルによって、自分で肉体を構築したことを明かした。
『なるほど、吸収で相手のスキルまで覚えてしまうというのは興味深いな。人としての初期化前だから、種族としてのキャパも存在しない。その気になれば、再現なく成長可能という事だな。』
『俺はどうすればいいんでしょう?』
『冥界に行くのが一番なのだろうが、肉のある状態で冥界に行ったという記録はないし、どこにあるのかも分からない。まあ、もし神のような存在がいるのなら、何かしら補正が入るだろう。』
『冥界と神様ですか……。』
『それまでは、好きに生きるしかなかろう。そもそもが、人族の姿をしているのは、前世が人族だっただけだろう。それなら、魔族であってもいいわけだな。』
『えっ?』
『行くあてがないのなら、研究対象として私が養ってやろう。お前に生殖能力があるのか気になるしな。』
『ちょっ……。』
『性別だって、どうせ前世の記憶で男になっているだけだろう。女にだってなれるんじゃないのか?』
『あっ……。』
試してみた。魔族の女性をイメージして……。
『ほう。こうまで簡単に変身するとはな。どうだ、感じるか?』
サラさんは乳首を触ってきた。
『触られている感触はありますけど、苦痛や快感を感じることはありません。』
『おい、何か着てくれよ。』
私は服をイメージして体の外側を覆った。
『一度人間の世界に戻りたいのですが……。』
『そういう事か。』
サラさんはいきなりキスをしてきた。
私はサラさんの唾液を吸収し、”転移”のスキルを得た。
ほかにも、魔道具開発の様々なスキルや、魔族固有のスキルを手に入れた。
『どうかしら?』
『大丈夫です。ありがとうございます。』
『結構多量の魔力を使うから、私なんか一発でヘロヘロになっちゃうけど……。』
『多分平気です。』
『そうね、私の対価は、布のお洋服と下着。あと、甘いお菓子がいいかな。』
『すぐに持ってきます。ありがとうございました。』
私は肉屋さんをイメージして”転移”を発動した。
目の前にシースの顔があった。
「ただいま。」
「えっ、誰?」
魔族の女性のままだった。
【あとがき】
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