第22話 初期化された

 王都に来るのは半年ぶりになる。

 俺は以前訪れた焦点を尋ね、アンヌさんに取り次いでもらう。


「随分かかりましたね。」

「ああ。復興の手伝いもしてきたからね。」

「主人によると、東のワラル以外は落ち着いてきたと言っていましたが。」

「そうだね。ちゃんとした指導者がいれば、みんなまとまるんだけどね。」

「医師としての勤めは順調なんですか?」

「ああ、できることはやったつもりだよ。この王都を最後にして国家特別認定医師は引退する。」

「最後の認定医師でしたのに、残念ですわ。」

「それで、城と冒険者の残党は?」

「二つの派閥が合流して100人規模の集団を作っているようです。」

「農業とかやっているのかな?」

「今のところ目立った動きはないんですが、魔石を大量に集めて怪しげな儀式みたいなのをしているようなのですが……。」

「儀式か……、そこは確認するしかないな。アンヌさん、これあげときます。」

「えっ、万能薬?」

「もう来られないかもしれないので、持っておいてください。」



 俺は城に乗り込んだ。

 これで最後にする。

 話が通じないようなら、残念だが強制介入するしかないだろう……。

 俺には妹たちが待っている。


 城の1階と2階を回ったが、誰もいなかった。

 だが、地下に人の気配がした。

 それの大勢の気配だ。


 俺は慎重に地下に続く階段を降りて行った。

 地価の広間には、怪しげな集団がいた。

 立っている者は全員黒いフード付きのマントをかぶり、目の部分だけ仮面をつけている。

 そして、倒れている者は全員冒険者風の姿をしていた。


 これが儀式なのか?

 

「おっと、お客様がお見えのようですね。」


 全員が俺の方を向いた。


「何をやっている。」

「これはこれは、国家認定医師のR様ではありませんか。」

「「「おおっ!」」」

「どうぞこちらへ。」


 俺は広間に降りた。


「石化虫を発見し、治療法を確立された聡明なお方。」

「それがどうした。」

「では、なぜ石化虫が最初に王都に出現し、一気に国中に広まって、一気に終息したのかご存じですかな?」

「……国中をまわったが、痕跡は見つからなかった。」

「当然ですな。すべては、この城の中で行われたのですから。」

「城で……行われただと。」

はい。全ては魔法局が失敗したために引き起こされた喜劇。

「喜劇?」

「最初の失敗は、転移魔法の開発中に別の世界とのゲートを開いてしまったこと。これにより、最初の石化虫騒動がおきました。」

「石化虫は別の世界から来た魔物だというのか……。」

「最初の感染者は当然ですが魔法局のスタッフです。それと、ウロコ虫は、石化虫の突然変異見たいですね。」

「どちらも、魔法局は知っていたというのか……。」

「はい。そして、石化虫がこちらの世界では長く生きられないことや、こちらの世界で孵化した個体は卵を産めないことも分かっていたんです。」

「だからあんなに短期間で終息したのか……。」

「そうです。魔法局は魔法式の変数を変えて何度も実験を繰り返した。その中の一つが、対象エリアを200kmまで拡大してしてしまった。これが二つ目の失敗です。」

「魔法局はなんでそんな危険な実験を繰り返したんだ……。」

「功名心ですよ。転移魔法が確立できれば、自分たちは永遠に称えられると。」

「くるってやがる……。」

「他にも色々な記録がありましたよ。例えば不死と思われる肉の塊を呼び出してしまったとか。それを使って転送の実験をおこなったら、どこかに消えてしまったとかですね。」

「肉の……塊?」

「私たちは、その実験を引き継いで、色々と試しているのですが、やっと石化虫の世界に送ることが可能になりました。」

「なにっ!」


 男たちは仮面をとった。

 その顔は焼けただれたような醜い跡があった。


「このような顔にしていただいたお礼が、やっとお返しできます。ではごきげんよう。」


 足元に魔法陣が展開されていた。

 そうか、ペラペラと喋っていたのは、これを発動させるまでの時間稼ぎ!

 俺は、目に入る範囲に”心停止”を発動した。


 倒れこむ多くの黒マントを見ながら、俺は黒いモヤに包まれていくのを感じていた。



 一瞬だが、俺の眼は岩山のような景色をとらえていた。

 そして、頭から食われる感覚。

 両腕を引きちぎられる感覚。

 腸を食いちぎられる感覚。

 足から引き裂かれる感覚。


 ……そして、俺は肉片となっていた。


 俺は奇妙なほど冷静だった。

 そもそも、”俺”という意識は、どの部位に宿るのだろうか。

 全部食いつくされたら、俺は消滅するのか?

 一滴の血でも、俺になりえるのか?


 まあ、そんなことを考えていても仕方ない。

 一刻も早く復活して、妹たちの待つ家に帰らないといけない。

 シースも待って……あれっ?

 そもそも、シースは家族ではない。

 あんな赤髪のそばかす娘……がさつで、食いモンにしか興味のないチンチクリンを何で意識しているのだろうか?

 解せん……。


 だが、何かがチリりと音をたてた。


 さて、状況把握だ。

 エコーロケーションは使える。

 チカラは出ないが、触手も使える。

 そもそも、俺のスキルの源泉って何なのか?

 魔力ではなさそうだ。

 生命力に近いのかもしれない。


 周辺で動くものは……とてつもなく多いが、俺に対処できそうなのはアリのような虫が2匹。

 職種で切断……できなかった。

 俺は更に20%ほどの体を失った。


 うん?あれは、リュックの残骸。

 それならば砂が詰まっているはずだ。


 俺は意識を集中して、ダイヤモンドカッターを発動する。

 反応したのは、一番小さい粉のようなのが5粒だった。

 それを回転させる。

 ゆっくり、ゆっくり、何時間もかけて回転させる。

 少しずつ速度をあげて回転させる。

 時間をかけて回転させる。

 慣れてきたら、粉を追加して回転させる。

 速度をあげて回転させる。

 そうしたら、次は制御だ。

 回転させながら俺の周りを旋回させる。

 もっと早く、もっと回転させて。

 十分な回転を得たため、標的を探す。

 さっきのアリみたいなヤツが一匹いた。

 弱そうな結合部分めがけて円盤を叩きつける。

 二つに割れたそいつを触手で吸収する。


 何匹目だろう。円盤も大きくなり、回転もあがってきた。

 触手での切断も使えるようになった。

 体の表面も硬化して大きくしていく。

 移動する必要はない。ここには十分な獲物がいる。


 円盤をドリルに変形することもできたが、アリモドキにはカッターの方が効果的だった。

 アリの次は、ミミズのようなワームだ。

 これもカッターで弱らせて吸収する。

 体を大きくして、カッターの密度もあげていく。

 少し大き目の粒も混ざるようになってきた。


 ワームからカニ。カニからネズミ。

 体を大きくして、ウロコアーマーを装備し、目も構築する。

 薄暗い空。

 澱んだ空気。

 ティラノサウルスに似た凶悪そうなドラゴン。

 疾走するトラのような獣。

 10mはありそうな蛇。


 この中に、俺を食ったやつがいる。

 今、俺がいるのは、岩山のくぼみ。

 まだ、でかいやつの目にとまるわけにはいかない。

 身を潜めながら、狩れるやつだけを吸収していく。

 

 小型の猫のような肉食獣にヤギのような獣。

 キバの鋭いイノシシに動き回る草。

 これくらいは狩れるようになったが、空を行き交う青く無機質なキューブや翼竜はまだ無理だろう。

 

 会得したスキルは”切り裂く”や”かみ砕く””巻きつく”など、あまり使えそうなものはない。

 あのキューブは期待できそうな気がする。


 

【あとがき】

 魔界。どうやったら戻れるのか。

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