第20話 アークドラゴン

 ノエル父娘との再開は嬉しかったが、俺はサガの町に向かった。

 この道を通るのは2回目だ。

 点在する人家で、人が生き残っているのは1割程度だった。


 多くの家は破壊されることもなく残っている。

 だが、この家屋も年を重ねて朽ちていくのだろう。


 今は、街中にも空き家がたくさん存在する。

 わざわざ、人里から離れた場所に移住しようと考える人は少ないだろう。


 サガの町にはA3ダンジョンもある。

 あのワダツミが棲むダンジョンだ。

 だが、今の俺ではまだ無理だろう。

 円盤でも、あのウロコは切り裂けそうにない。


 サガの町は活気があった。

 ほかの町と比べても人が多い。

 そして、驚くべきこちに、サガでは貨幣が流通していた。

 それもサガ独自の金貨である。

 従来の金貨よりも一回り大きく、多少がさばるのだが、それでもオリジナルの金貨である。


 サガの大通りは、普通に店が開いていた。

 他の町で見られるような屋台ではない。

 品ぞろえは災害前と違うのだろうが、それでも色々な品物を販売している。

 領主の裁量なのだろうか。


 俺も、ブーツを買い替えたかったのだが、何を持ち込めば換金できるのだろうか。

 俺は靴屋で聞いてみた。


「ブーツを買いたいんだが、この町で金に換えるのはのは何が効果的なんだ。」

「ブーツだと金貨3枚なんだけど、そうですね、イノシシなら3頭。それか、質の良い魔石2個くらいですかね。」

「金貨3枚分だな、わかったありがとう。」


 イノシシもお手頃なのだが、運ぶのが手間になる。それならばと、俺はA3ダンジョンに向かった。

 A3の地下4階層にあった中継所は無人だった。

 2枚の円盤を従えた俺は、余裕で下の階層に潜っていく。

 地下10階層のラプドラの速度も全く苦にならなかった。

 そして俺は地下13階層に到達した。

 この階層には、アークドラゴンやアトラス。グロスデーモンとサラマンダーといった高品質の魔石をもった魔物が多い。


 気が付いたらリュックがいっぱいになっていた。

 どうも、夢中になると時間を忘れてしまう。

 魔物を吸収しているので腹も減らない。

 そこでスキルのことを思いました。

 アークドラゴンの肉をカットして、炎魔法で表面を炙りマイクロ波で加熱する。

 ここのダンジョンは空洞型なのでガスが停滞することはなく、火も使えるのがありがたい。


 アークドラゴンの肉は美味かった。

 マイクロ波で調理した肉はローストビーフみたいで、レアっぽいがしっかり熱は通っている。

 特にアゴの下と腰のあたりが美味だった。

 俺は加熱した肉を大きな葉っぱで包み、糸車でリュックに固定して持ち帰った。


 町に戻ると、入口の横に座り込んでいる二人の女の子がいた。

 身なりから見ると、裕福ではない感じだった。


「どうかしたのか?」

「お父さんが帰ってこない……。」


 二人の話によると、父親は猟師で、昨日の朝出た切り帰ってこないという。

 母親は大災害で亡くしており、ほかに身寄りはないらしい。

 放ってもおけず、家までついていって肉を食わせてやる。

 

「ドラゴンの一番美味い部位だぞ。」


 二人は、こんな肉は食べたことがないと、夢中だった。


「肉はまだ、いくらでもあるからな。俺はお前たちの父親を探してきてやる。」

「ありがとう、お兄ちゃん!」


 そういえば、お兄ちゃんと呼ばれたのは初めてのような気がする。

 俺が相手してきたのは、年上ばかりだったからだ。

 二人は3才と4才の姉妹だという。

 空腹を満たした二人を寝かしつけ、俺は父親の匂いを追った。


 父親の匂いは、森の中に続いている。

 30分ほど進んだところで、無残に食い散らかされた遺体を見つけた。

 その3人分くらいの残骸の中に、姉妹の父親も含まれていた。


 円盤を使って穴を掘り、残骸を埋めてやる。

 残っていた匂いから、犯人はダークベアーだと分かる。

 立ち上がると3m近くなる大型の肉食獣だ。


 3人の残していった荷車を引いてクマを追跡し、簡単に仕留めて荷車に載せて帰る。

 途中でイノシシやウサギも追加した。

 ”心停止”を使ったので、毛皮に余計な傷はなく、地抜きも最低限の切り込みで済ませてある。

 

 ガラガラと荷車を引いて帰り、肉屋に売ったら金貨5枚になった。

 魔石も、とりあえず20個売却して金貨20枚を獲得した。


 姉妹の名前は、お姉ちゃんがリサで妹がサキといった。

 どうするか悩んだのだが、放置したら生きていけないだろう。


「お父さんは見つからなかった。帰ってくるまで、俺と一緒にいるか?」


 ふたりはコクリと頷いた。


 そうと決まれば、こんなみすぼらしい恰好をさせておくわけにはいかない。

 クリーンで体をきれいにして、髪をとかしてみられるようにする。

 そして、服屋にいって仕立ててもらう。

 ついでに、髪を纏めるリボンもだ。


 次に、靴屋に行って、俺のブーツと姉妹のサンダルを購入する。

 これも、支払いは魔石を使った。

 魔道具屋で照明・コンロ・水の道具を購入し、雑貨屋で鍋や食器を買いそろえた。

 今までは、パンや串焼きなど調理済みのものしか食べていなかったという。

 俺は、試しに、ドラゴンの肉を切り分けて肉屋に持ち込んでみた。


「アークドラゴンの腰肉だ。いくらで買い取る?」

「アークドラゴンだとぉ……、うん、確かに獣特有の匂いはないが……。」

「うま味を逃がさない特殊な調理をしてある。ワサビやエルダーのすりおろしたやつを載せて食えばいうことないぞ。」

「す、少し試食してもいいか?」

「ああ、かまわんぞ。」


 肉屋のオヤジは、飛び上がらんばかりに驚いた。


「こ、こんな肉があるとは!」


 オヤジの声が大きかったせいで、奥から女性が出てきた。


「うるさいな!ナニ騒いでるのよ!」

「あ、あんた、娘にも食わせていいか?」

「ああ、かまわない。」

「了解をもらった。これを食ってみろ!」

「なに、これ?この赤さはイノシシじゃないわよね。獣臭さもないし、馬かしら?」

「いいから食ってみろ!」

「どれっ…………、何よ、コレ!」

「ほら見ろ!お前だってそうなるだろ!」

「この柔らかさと、肉のうま味。噛んだ時に微かに感じる香り……こんな肉、ありえないわ!」

「アークドラゴンの肉だそうだ。大災害以前でも、ほとんど聞いたことがない幻といわれた肉だ。」

「それで、買い取ってもらえるのかな?」

「1キロで金貨3……いえ5枚でどうかしら?」

「お前、そんな値は……。」

「このまま葉物と一緒にパンにはさんでもいいし、ステーキにして200グラムで金貨1枚。十分採算はとれるわよ。」

「金貨3枚でいいんだが、代わりに頼まれてくれないか?」

「何を?」

「親を亡くした姉妹がいるんだ。狩りに出ている間、面倒を見てもらえないだろうか。」

「子供か……。うちも母さんが寝込んでいるし……。」

「俺は医師だ。母親を診てやろう。」


 母親は膝と腰に炎症があった。

 万能薬で治療してやったら、一晩で元気になった。


 娘の名前はシースといった。

 そばかす顔の赤髪娘で、小柄だがスリムだ。

 料理が好きで、店に出す総菜も自分でつくっているらしい。


 俺はシースの頼みで、アークドラゴンを討伐して荷車に積んで店に持ち込んだ。

 アークドラゴンの茶色い巨体は、全長で5mにもなる。

 尻尾と首をどうにか糸車で丸めて、1トンにも達する巨体を荷車で引いてきたのだ。

 まあ、最低金貨50枚での買い取りなので文句は言えない。



【あとがき】

 料理人シース登場。

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