第17話 村長は元ギルマスだった

 二つの円盤を操りながら周辺を探索すると、少し離れた先に煙があがっているのが見えた。

 多分、人がいるのだろう。

 少し歩いて到着すると、柵に囲まれた集落があった。


 集落といっても、柱と木の枝を乗せた簡易な屋根だけの家ばかりだ。

 円盤を袋に収めて入口の見張りに声をかける。


「町に誰もいなかったので人を探してここに来ました。」

「何しに来たんだ。」

「王都で医師をしていたのですが、ほかの町がどうなっているのか様子を見に来たんです。」


 俺は医師の認定証を見せたが疑われている様子だ。


「街にはシャドウキャットが相当な数いたと思うが、大丈夫だったのか?」

「シャドウキャットは全部倒しました。100匹くらいいましたけどね。」

「なにっ!お前は医師ではないのか?」

「Aランクの冒険者でもあります。これが冒険者証です。」

「名前が違うでは……Rって、お前シングルなのか?」

「はい。」

「ちょっと待て、村長を呼んでくる。」


 少し待たされたが、50代くらいの男がやってきた。


「お前か、シングルの医師でAランクの冒険者というのは。」

「はい。レオといいます。」

「……確かに医師として認定された冒険者がいると情報は入っていたが、それが君なのか?」

「多分、俺しかいないと思います。」

「薬師も兼ねていて、薬を調合できるとも聞いたんだが。」

「ええ。リュックを町においてきたので、今は持っていませんが。」

「そうか、俺はこの町で冒険者ギルドのマスターをしていた。今じゃ、そんな仕組みはないがな。」

「シャドウキャットは退治しましたので、町に戻りませんか?」

「だがな、今のメンバーでシャドウキャットを討伐できるメンバーは少ないのだよ。あれが集団で襲ってきたら守り切れんのだ。」

「半月くらいならいてもいいですよ。その間に体制を整えたらどうですか?」

「今夜、村の皆に意見を聞いてみよう。それと、病人も多いのだが、薬を分けてもらうことはできないだろうか?」

「いいですよ。これから戻って取ってきましょう。」


 俺は町に戻り、リュックに入れておいた砂を大きなツボに入れて村に引き返した。

 万能薬もひと瓶追加してある。


 症状の思い3人の家をまわり、治療していく。

 そのあとは村長の家で集まってきた病人を診た。

 半分ほどに減った万能薬は村長に渡しておく。


「こんな貴重なものをいいのか?」

「ああ、遠慮なく使ってください。」


 村に泊って行けといわれたが、俺は町に戻った。

 だが、広場には10人ほどの男が集まっていた。


「なんだお前は?」

「2日前から、ここで寝泊りしているんだが。」

「ここは俺たちの町だ。」

「リーダーがシャドウキャットを退治してくれたから、やっと戻ってこれたんだ。よそ者の好きにはさせねえぜ!」

「へえ、それは奇遇だな。俺も2日前にシャドウキャットを100匹ほど始末したばかりなんだ。」

「ざけんな!ちょっと待ってろ、リーダーを呼んでくるから。」


 その時、俺の寝ていた宿屋から男一人と女2人だ出てきた。


「見てみて!宿屋でジュエリーサンド見つけちゃったよ。こんなに大量に!」

「ほかにも何か隠してあるかも知れねえからお前らも手分けして探してみろ。」

「すまんな。そのツボは俺のものなんだ。返してくれないか。」

「ああん、なんだお前は。」

「リーダー、こいつがシャドウキャットを対峙したのは自分だって言ってるんっすよ。」


 その時だった、エコーロケーションが動物らしき存在を感知した。

 対象は2匹。だがこいつらに気づいた様子はない。


「気をつけろ、シャドウキャットが2匹残っている。」

「「「なに!」」」 「「「どこだ!」」」


 全員が狼狽えながら武器を構える。


「とりあえず、俺の武器は返してもらうからな。」


 俺は女の持つツボから砂を浮き上がらせ観点させる。


「な、何、コレ!」

「触るなよ。指なんざ簡単に切れるからな。」

「シャドウキャットはどこにいるんだ!」


 リーダーと言われた男が聞いてくる。 


「気配も掴めねえのに、よく対峙したなんて言えたものだ。」

「居場所がわかれば俺だってやれるんだよ。どこにいるんだ!」

「お前の後ろだ!」


 リーダーに飛びかかってきた一匹と、女に飛びかかる一匹。

 両方対処はできたが、リーダーには腕前を見せてもらおう。

 女に飛びかかってきた一匹を、俺はカッターの面で受けた。

 切れることはないが、シャドウキャットは頭から削れていった。血をまき散らしながら。

 女は無傷だが頭から血を浴びて半狂乱状態だ。それに対し、リーダーの方は、腹から血を流している。

 まだ死ぬことはないだろう。


「居所が分かれば倒せるんじゃなかったのか?」

「ぐっ……。」

「リーダー!」


 建物の影を移動し続けるシャドウキャットだが、俺は既に探知している。

 

「もう2匹加わった。残り3匹。」

「「「ひい!」」」 「「足助てくれ……」」


 余計な砂をツボに戻し、10cmの円盤二つを操っていく。

 影から出てきたところを切断。


「残り2匹。」


 影に潜んでいた2匹も切断した。

 慎重に周囲を探知するが、これで最後だったようだ。


「随分と頼りになるリーダーだな。俺が戻ってこなけりゃ全滅だぞ。」

「す、すまねえ。」


 俺はリーダーの傷を確認し、万能薬で手当してやる。


「それは……傷が跡形もねえ……。」

「貴重な薬を使ってやったんだ。感謝しろよ。」

「あ、あ、分かっている。」

「明日には、西へ避難していた人たちも戻ってくるはずだ。これからどうするのか相談してみるんだな。」

「……。」

「どうした?」

「あいつらは俺たちをバカにする……。」

「まあ、実力がねえんだ。仕方ないだろ。」

「俺たちは元々戦闘なんか好きじゃねえんだよ!」

「ナニ甘えてんだ。戦わなければ死ぬ。それだけだ。」

「俺は医師になりたかったんだ!あの大災害さえなければ……。」

「これを見ろ。俺は冒険者で、医師でもある。」

「そ、そんな人間がいるはずはねえ!俺は国家試験目指して勉強を続けてきたんだ。」

「まあ、医師の勉強も何かの役に立つだろうが、今必要なのは生きるための能力だ。あとはお前たちでどうするか考えろ。」


 俺はツボを持って宿に帰り、もう一度外に出た。

 当然、円盤の訓練だ。

 切断・研磨・穴あけ。

 応用で中空の円筒にして、自分の周りで回転させる技も思いついた。サンドバリヤだ。

 大勢に囲まれた時に有効だろう。


 円盤を三つに分離することもできたが、制御はできなかった。

 コントロールは十分だろう。次はスピードだ。

 手の動きに対して、反応はまだ遅い。

 完全に連動できるようにひたすら練習だ。


 地面に先端を突っ込んだまま移動させれば、整地と開墾を同時に行えた。

 石も木も草も粉砕できる。

 気が付けば、町の周囲は種まきができそうな耕作地になっていた。

 いつの間にか陽が昇ってきている。

 適度に吸収もしているので疲れはない。


 村長たちも荷車を引いてやってきた。

 大災害により、馬は壊滅状態だ。

 俺もこれまでに見たのは10頭くらいだろう。

 ……馬か……。


 俺が思いついたのは、足を伸ばして高速移動で走ることだった。

 現実問題として、伸びた足を見られるのは問題があるだろう。

 足から触手を出そうとしてもブーツがあるし、いちいち脱ぐのも面倒だ。

 それなら……腰から細い触手を伸ばして、先を鳥の足のように4本指に分岐し、体を20mほど上空に持ち上げる。

 これも練習が必要だった。

 


【あとがき】

 ダチョウ人間爆誕!

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