第二章
第16話 王都を出る
「万能薬、もらってもいいの?」
「ああ。少ないけど、体調が悪かったら無理しないで飲むといい。」
「レオさんはこれからどうするの?よかったら、町で医師の仕事をしない?」
「いや、他の町の様子も気になるから、一周回ってみるよ。」
「また、旅の薬師になるのね。」
「そうだね。石化虫が残っていないかも気になるしね。」
「王都に戻ってきてくれる?」
「ああ、少なくとも城の勢力と冒険者の勢力を潰した結果を確認したいからね。」
俺はアンヌさんと別れ王都を後にした。
ご主人のアギールさんは、外回りで出ているとのことで会えなかった。
俺はここガラル帝国の地図を確認した。
この地図は冒険者ギルドが発行していたもので、主要な町とダンジョンの位置が記されている。
今向かっている南のシンと王都の間にはA-2とA-8ダンジョンがある。
とりあえず、手前にあるA-2ダンジョンに向かおう。
当然、例によって御用聞きに伺うのだが、人が住んでいる家は1軒しかなく、老夫婦が暮らしていた。
「こんにちわ。旅の薬師ですが、何か困ったことはないですか?」
「間に合っとるよ。」
問題がないのなら何よりだ。
俺は薬草類を採集しながらA2に着いた。
分署で地図を見つけ、A2に潜る。
A2は廃坑タイプで、元々は鉱山として掘られた場所だ。
そこに魔物が湧きダンジョン化したものだ。
そのためか、物質系の魔物が多い。
物質系の魔物には物理攻撃が効きづらい。
半分以上は俺の斬撃をはじいてしまう。
しかもダンジョンなので炎系はダメで、結局氷系に頼るのだが、アイスアローやスピアは物理系となるため、俺に使えるのはコールドブレスしかない。
ここは相性が悪いかもしれない。
だが、ストーンマンを吸収した際、”圧縮”というスキルを得た。
この圧縮が面白いように効果を発揮した。
本来であれば、相手に触れる必要があるために、こちらにもリスクのあるスキルなのだが、触手との相性がいい。
そして最下層に到達し、ダイヤモンドワームという5mの長い魔物が出現した。
ここは鉱石の欠片や粉が砂漠のように広がっており、そこに生息していたのだ。
これも圧縮で倒して吸収したところ、”ダイヤモンドカッター”というスキルを手に入れた。
発動してみたところ、足元の砂を巻き上げて円盤状に回転させ、対象を切断するスキルだった。
しかも、意識に連動しており、自在にコントロールできるようだ。
多分普通の砂でも動作するだろうが、より硬度のある鉱石の砂が適しているのだろう。
俺は、鉱石の砂をリュックいっぱいに詰め込んだ。
多分、木材の加工に適したスキルだ。
訓練のため、帰りはこの円盤をコントロールしながら登っていく。
鉱石系の魔物といっても、本物の鉱石と比べれば、格段に硬度は落ちる。
帰りは完全に無双状態だった。
地上に戻った俺は、円盤のサイズを10cm程度に小さくして、コントロールしていく。
足元の小石も簡単に切断できた。
「これって、もしかして……。」
俺は円盤のサイズをさらに小さくしていくと、円盤は厚みを増していく。
円盤のサイズを1mmまで小さくすると、それは棒状になった。
それをコントロールして木の幹にあてると、簡単に貫通した。つまりドリルだ。
ドリルを使って彫刻のスキルを発動し、女神像を作っていく。
楽しくなって、路傍の石を次々と刻んでいく。
出来上がった小さめの女神像をいくつかポケットに入れておく。
人家に誰かいたらプレゼントしてあげよう。
喜ぶかどうか分からないが……。
夢中になったせいで周囲は暗くなり、すっかり夜になっていた。
ドリルを円盤に戻し、獲物を倒しながら進むとA8に到着した。
MAPを見つけて潜るが、荷物はいっぱいなので、スキルだけを目指していく。
つまり吸収だ。
A8は洞窟タイプだ。
いつものように、発光・暗視・エコーロケーションと触手でフォローしながら進んでいく。
A8のメインは虫系だった。
ジャイアントコックローチやオコロギ。皇帝アリと水棲昆虫アマンボなどを倒していく。
獲得したスキル”丸くなる”は、ダンゴムシみたいなのから吸収して、”水上歩行”はアマンボ。”認識阻害”はケロッグマンから得たものである。
南の町シンは、ひっそりと静まり返っていた。
今回の大災害の特徴は、建物や物に影響が及んでいないことである。
普通の町なのに、生物だけがいない……いや、エコーロケーションは多くの動くモノをとらえていたが、俺の前に姿を見せないのだ。
動くモノの正体はシャドウキャットという魔物だった。
一匹捕らえて吸収したところ、スキル”隠密”を入手した。
これは体色変化や音を立てない移動能力の複合スキルで、視覚だけに頼っていると発見できないかもしれない。
こいつらは無害なわけではなく、凶暴な肉食系だ。
今も俺の隙を狙っている。
こんなのが町の中に数多くいるということは、人間は全滅してしまったのだろうか。
時々飛び掛かってくるシャドウキャットを触手で切り裂き、吸収していく。
そして町から出ようとした時に、一斉に飛び掛かってきた。
だが、超高速移動を持つ俺には遅すぎた。
触手とカッターの併用は危険だった。
複数の攻撃に対応した俺だったが、触手を一本切り落としてしまった。
すぐに修復したものの、これは大事故に繋がりかねない。
俺は砂をポケットに収納し、触手だけでネコを迎えうった。
油断していた訳ではないが、右のふくらはぎに攻撃を受けた。
すぐに切断。吸収したところ、スキル”陰に隠れる”を取得した。
どうやら、完全に気配を絶って待ち伏せするスキルのようだ。
こんなので複数回不意打ちをくらえばひとたまりもない。
だから、広い場所で戦うことにした。
触手を延ばせば、物陰にいるネコも始末できる。
100匹ほどシャドウキャットを始末し、認識できる範囲からは気配がなくなった。
俺は宿屋に入って、一室を選びドアに鍵をかけて久しぶりの睡眠をとった。
3時間ほど寝たあとで、リュックをおいて外にでる。
少し多めの砂を袋に入れてあるので、それを制御して回転させる。
「さて、うまくできるかな。」
円盤の大きさを縮めてそれを二つに分割する。
「うっ、これは難しいな……。」
並べて、同じように動かすのは簡単だが、別々の動きをさせるのはなかなか集中が必要だった。
町を壊してしまいそうなので、町の外に出て練習する。
片方を縦に回して、もう片方は横にする。
一方に集中すると、もう一方はフラフラしてる。
長時間続けてもうまくいかない。
考えた末、左右の手を動かしてそれに連動させる。
最初はうまくいかなかったが、だんだんと慣れてきた。
一本の木を見つけ、少しずつカットしていく。
すべての枝を落とし、細かな模様を刻んでいく。
ダイヤのガラを刻み、表面を削ってスペードを刻む。
さらに削ってハートを刻む。
最終的には等身大の女神像を残していく。
少し大き目の岩を見つけたので、そこには女神と天使の像を刻む。
右手はドリルで左側は太目の円盤にして研磨に使う。
一日で、相当慣れてきたと思う。
夢中になると、本当に時間を忘れてしまう。
俺は練習を……というか、彫刻を切りあげて宿に戻った。
【あとがき】
いろいろなツールが手に入ってきました。
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