第15話 夜襲

 ミシェルは旅立った。

 二人になったことで、一人では出歩けなくなったのは確かだ。

 そしてシェリーは大胆になってきた。


 風呂にも一緒に入るようになったし、寝床にももぐりこんでくる。

 だが、勃起することはなかった。

 それどころか、そういうシチュエーションになってもドキドキすらしなかった。

 キスもしたし抱き合うこともあったが興奮することはなかった。


「私じゃ……ダメなの?」

「そういうんじゃないんだ。ただ、今の俺は感情が死んでる感じ……。」

「試してみていい?」

「ああ。俺だって、そういう気持ちになってみたいとは思っている。」

「うん。」


 勃起はしないが、体を制御して固くすることはできる。

 そして、挿入した。

 指ではなく、肛門でもなかった……。


 お互いに初めてだったが、シェリーは大胆だった。

 そして、勃起することはなかったが、俺たちはお互いをより身近な存在と感じていた。


 外に出かける必要もなく、俺たち二人はこのエリアでの生活を楽しんだ。

 そして、とある日の深夜、森から出火し、半分が焼かれてしまった。

 沢の水では消火には不足しており、木を切り倒して炎症を防ぐしかなかった。


 その数日後、夜襲を受けた。

 充実した装備を見ると、王子配下の集団だろう。

 50人が一気に襲ってきたが、問題なく切り伏せていく。

 だが、時間がかかってしまった。

 俺が50人を相手にしている間に、もう50人が家に侵入し、シェリーを殺されてしまった。

 悲しみも怒りも感じなかった。

 ただ、奪うことでしか生きようとしないこいつらに。絶望に近いあきらめを感じていた。

 

 シェリーを埋葬し、俺の荷物だけをリュックに詰めた。

 部屋におかれていた天使の置物は破壊した。

 俺の願いは届かなかったのだ。


 家と畑はそのままにして、イノシシは解放した。

 もう、何もかも必要なかった。



 俺は王都に行き、城に入った。

 見張りがいたので、襲撃者のリーダーらしき男の首を放った。


「あっ、ガラム隊長……。」


 それだけ確認できれば十分だった。

 俺は、堀の水を吸収しながら溶解液を放っていく。

 触手の先からエコーロケーションで探りつつ、動くものに溶解液を射出していった。


 白旗を振りながら男が出てきた。

 前にあった第二王子だった。


「なぜ、こんなことをする!」

「略奪しかしない人間に、生きる資格はない。」

「いや、俺たちは狩りで生活しているだけだ。」

「ならば、なぜ西の森を焼いた。俺の仲間を殺したのはなぜだ。」


 その時、後ろから矢が飛んできた。

 右肩に刺さったので、引き抜いて修復する。


「よくやった。そいつを殺せ!」


 俺は王子の顔に溶解液を吹き付ける。

 背後の敵は対処済みだ。

 そして城の中を確認した後に王子に告げた。


「生きたいのなら地を耕して穀物を育てろ。次に来た時、変わっていなかったら殺す。」


 そう告げて俺は城をあとにした。


 次に、冒険者ギルドに入った。


「リーダーは誰だ?」

「何者だ貴様!」


 俺は男の顔に、溶解液を少量射出した。

 ぎゃあと喚いて男が転がる。


 悲鳴を聞いて、20人ほどが姿を見せた。


「リーダーは誰だ?」


 全員の視線が一人の男に集まる。


「俺がAランクのラムザだが、なんの用だ?」

「奇遇だな、俺もAランクだ。」


 男の視線が一瞬泳ぐ。

 はったりだろう。まあ、腕力だけはAランクかもしれないが。


「少し前に、西の森を襲撃して70人の損害を出したな。」

「それがどうした。」

「襲ったのは俺の家だ。」


 ザッと全員が身構える。


「それで、仕返しにでも来たのかよ。」

「2日前、王子の配下にも襲われたんで、今壊滅させてきたところだ。」

「笑わせるな。お前一人で城の軍勢を相手にしただと。」


 入口近くにいた男が、ラムザに耳打ちすると顔色が変わった。


「どうやら、俺たちの手間を省いてくれたみてえだな。感謝するぜ。」

「お前たちが心を入れ替えて、地を耕すと約束すれば見逃してやろう。」

「ガハハッ、何で今さら百姓のまねごとをしなくちゃならねえんだよ。」


 俺はラムザの顔に溶解液を撃ち込んだ。

 ギャアと叫びをあげて蹲るラムザ。

 万一に備えて、物理と魔法のシールドは展開してある。


「もう一度言う、今後心を入れ替えて、地を耕すと約束すれば見逃してやろう。」

「うるせえ!やっちまえ!」


 俺は窓を叩き切って外に飛び出す。入口をスパイダーネットで塞ぎながら用水路の水を吸収し、ギルド建屋の壁をウォーターカッターで切っていき、触手で横からの力を加えてやる。

 ギルドだった建物は簡単に倒壊した。


 そのまま他の町に行こうかとも考えたのだが、元商業ギルドの状況も知っておきたい。

 俺は、一番大きな店を訪れた。 


「この集団の代表に会いたいのだが。」

「どのようなご用件ですか?」


 少し考えてから俺は口にした。


「万能薬についてだ。」

「冗談は困りますよ。あれの製作者は、大災害の中で死亡したと言われています。今更……。」

「俺がその医師Rだ。認定証もある。」


 認定証を確認したオヤジは、待っていてくれとどこかに走って行ってしまった。

 10分ほどして戻ってきたオヤジには二人の同行者があった。

 茶髪のオヤジと、同じ髪色の娘だ。どちらも生意気そうな顔をしている。親子だろうか。


「万能薬のことでと伺いましたが。」

「お前が代表なのか?」

「いえ。ガザル様に言われて確認にまいりました。」

「……今日、城の第二王子集団と冒険者集団を壊滅させてきた。」

「壊滅?」

「ああ。これで王都はお前たちの天下だろう。」

「いえ、私共はそういう集団ではございませんので。」

「お前たちが略奪や搾取をしないのであればいいが、もしそういう非道なことをしていたら俺が壊滅させる。」

「私どもは正当な商売をしているだけでございます。」

「信じよう。確認したかったのはそれだけだ。」

「あっ、万能薬の件は?」

「具合の悪い者でもいるのか?」

「はい。」

「症状は?」

「半月ほど、微熱が続いて、倦怠感が酷いと聞いています。」

「まあ、用があるわけじゃないから、希望するのなら診察してもいいんだが。」

「お願いします。」


 二人に案内されて俺は貴族街に移動した。


「代表というのは貴族なのか?」

「いえ、代表は商人ですが、奥様が貴族の方でいらっしゃいます。」


 警備のついた一軒の屋敷に入り、二階に案内される。


「奥様、医師をお連れいたしましたが。」

「どうぞ。」

「失礼いたします。」


 室内には天蓋のついたベッドがあり、女性が横になっていた。


「微熱が半月続いていると聞いたが、動けるのか?」

「トイレにいく程度は動けますわ。でも医師局の人は全員……、えっ?」

「アンヌさんだったのか。」

「レオさん、生きて……。」

「ああ。石化虫に体中噛まれたが、薬を使いまくって何とか生き延びたよ。」

「私は体調がすぐれなくて……。」

「生きていたのならよかったじゃない。」

「でも、第二王子に売り飛ばされてこの有様よ。」

「売られた?」

「夫が貴族の娘を望んでいて、城は食料を欲していたの。」

「それで交換かよ。まあ、城の連中には天罰を下しておいたから心配はいらないけど、辛くない?」

「ええ。夫は大切にしてくれるから不満はないわ。」


 サーチで確認したが、喉に炎症がみられる程度で特に異常はなかった。


「まあ、普通の薬草でも大丈夫だと思うけど、一応飲んでおきな。」


 俺は万能薬を飲ませ、少量だが瓶ごと渡した。

 部屋には、俺の送った天使の置物が飾ってあった。



【あとがき】

 安心できる生活は手に入らない。第二章 放浪編に入ります。

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