第10話 アソコに指

 俺に声をかけてきた男は、キツネ目の男だった。


「ちょうど探索系が足りねえんだ。よかったら一緒にやろうぜ。」

「興味ない。俺はソロ専門だ。」

「見たところ、王都は初めてじゃねえのか。少しの間だけでも土地勘のある俺たちと行動してみちゃどうだい。」

「必要ないと言ってる。」

「はん。後で泣かないようにな。」

「心配無用だ。」


 俺は別の依頼を手に取ってカウンターに向かった。


「これ、詳細を聞きたいんだけど。」

「はい。こちらは貴族からの依頼ですね。トリネリ草というのがあるらしいんですが、その採取依頼になります。」

「トリネリ草のサンプルはあるんですか?」

「それが、誰も見たことがないらしく……。」

「依頼主に会うことは可能でしょうか?」

「はい。貴族街の46番地ですから、直接行って大丈夫ですよ。」


 俺は簡単な地図を書いてもらい、貴族街の依頼者の屋敷へ向かった。

 地図があるのに30分かかってしまった。もしかして、俺って方向音痴?

 

 門番に訪問以来を告げて中へ案内してもらう。

 応接室は落ち着いた雰囲気に整えられていた。

 貴族らしからぬ質素な中に緑を基調としたセンスのある配色だ。


 少し待つと、執事に先導されて40才くらいの女性が入ってきた。


「お待たせいたしました。ミライ・フォン・アラーナ夫人でございます。」

「冒険者のレオと申します。ギルドに出された依頼のことでお邪魔しました。」

「おそれいります。何とかトリネリ草を見つけていただきたいのですが……。」

「それが何か分かればお力になれると思うのですが、お持ちの情報をお話いただけないでしょうか?」

「主人の話では、ウロコ病というものの治療薬らしいのです。」

「ウロコ病ですか……。」


 聞いたことはないが、病名から察することはできる。


「主人によれば、ほとんど症例のない奇病で、城の資料室で見つかったのは過去に2例。それも150年前の記録だというのです。」

「その時の記録に出てくるのがトリネリ草というわけですね。」

「はい。西の沼地に生える白い花の草というだけで、その根を煎じて薬を作るという記録だけで、その記録がどこで書かれたものかもわからないんです。」

「確かなのは、沼地に生える白い草という情報だけですか。」

「はい。お恥ずかしいのですが、すべての冒険者ギルドに依頼を出して探していただいているのですが、いまだに見つかりません。」

「患者さんを診させていただくことはできますか?」

「えっ?」

「申しておりませんでしたが、僕は医師でもあります。こちらが認定証です。」

「……えっ、シングルの医師が、なぜ冒険者を……。」

「冒険者が本職で、まあタマタマ医師局長に見出されて医師の認定をしていただきました。」

「まさか……、昨夜主人から聞きました。万能薬なる薬で石化病を克服された方が、異例の認定を受けられた……と。」

「多分、その本人です。」


「申し訳ございません。主人は薬事局の課長に就いております。医師局のお力を借りるのは、私の一存では……。」

「……医師局と薬事局との間に確執があることは聞いています。本来は患者さんを最優先に考えるべきなのに、残念なことです。では、ご当主をお待ちしたいのですが……まだ時間はかかりそう、あっこれから城に行って会ってきます。」


「それで、城にいく簡単な方法は……。」

「えっ?」

「まだ、王都にきて日が浅いものですから……。」


 夫人から聞いたところでは、白い石のある角は右に、緑の石がある角は左に進むのだという。城から出る時は逆に進む。

 言われた通りに進むと5分で城に着いた。

 俺は薬事局を訪ね、アラーナ課長を呼び出した。


「初めまして、冒険者のレオといいます。」

「薬事局課長のアラーナです。それで、シングルの医師様が何のご用ですかな。」

「い、いやだなぁ、冒険者のレオですよ。」

「私も、昨日列席していたのですよ。アールさま。」

「コホン。今の僕は冒険者として伺いました。トリネリ草の件で。」

「ふう、家に行かれたのですね。それで?」

「お嬢様を診させてください。」

「冒険者だというのなら、要件は薬草の採取だけだ。娘を見せる必要はない。」


 俺は万能薬を取り出してテーブルにおいた。


「トリネリ草でなくても、効く薬があるかもしれません。」

「うっ、まさか例の……。」

「そういうことです。医師としての治療を拒むのなら、冒険者として薬を提供することもできます。患者を救うためなら、僕の肩書なんて関係ない。冒険者に治療させられないというのなら、あなたが処置しれば」いい。」

「なぜ……。」

「必要なのは患者を助けることで、それを否定するなら医師も薬師も存在する必要はない。」

「だが、君は薬事ギルドの誘いを断ったではないか……。」

「ああ、あそのこギルマスが欲しかったのは名声だけでしたからね。」

「万能薬の買取も拒否したではないか。」

「この薬にそんな価値がついたら、一般の国民には使われなくなりますよ。」

「では、なぜ薬事局には入ってこないのだ。」

「欲しいって言われてないですからね。」

「なんだと!」

「治療したいから万能薬が欲しいって、誰か俺に言いましたか?」

「……そんなバカな……。」

「娘さんの治療のために必要なら差し上げます。どうぞお持ち帰りください。」


「本当にいいのか?」

「どうぞ。ただ、石化病のように根源が体内に潜んでいる可能性もあります。」

「この薬で一時的に改善されても再発すると……。」

「それを見極めるための診察です。」


「ふう。私も腹をくくる時か。」

「そんな大げさなことではないですよ。」

「いや、医師R殿とウロコ病患者の往診に出向くと局長に言ってくる。」

「えっ?」

「それと、必要な万能薬を薬事局にも提供してもらえることになったとな。」

「はい。それは大丈夫です。」


 俺はアラーナ課長と屋敷に戻り、お嬢さんの部屋に入った。


「石化病と同じ感覚です。この病は魔物が体内に巣食ったことによる症状と言えます。」

「魔物の居場所は分かるのかね。」

「患部の中心は下半身で、特に臀部での症状がひどいです。」

「尻か……。」

「すみませんが、俯せになって下着をおろしてください。」

「お、おとうさま……。」

「彼は若いが信頼できる医師だ。指示に従いなさい。」

「……。」


「……、間違いありません。肛門から10cmほどの位置にいます。お嬢様、ハンドクリームはお持ちでないですか?」

「あ、そこ……。」

「少しいただきますね。」

「な、にを……。」

「課長、おしりを少し持ち上げてください。」

「おとう……さ……。」

「こうかね。」

「行きます!」

「いやぁーーーーーーぁ!」


 ハンドクリームを指にたっぷりと塗り、俺は肛門に指を突き刺した。

 もちろん患者さんのだ。

 そこから少しだけ触手を伸ばして魔物を吸収した。

 スキル”ウロコアーマー”手に入れた。


 そして患部に万能薬を塗っていくと、徐々に滑らかな肌色に戻り、弾力を取り戻していく。

 患者さんはワナワナと震えている。


「じゃあ、仰向けになってください。」

「よし、体を回して……」


 介助していた課長さんのメガネが、パチンという音と共に飛んだ……。

 俺と課長さんは部屋を追い出され、前部への塗布はメイドさんが行っている。


「治療行為なのだから、本来は私かR君が行わなければならないのだが……。」

「旦那様、私だったら二人にグーパンチを叩き込みますわ。17才の娘に対して、いきなり肛門に指はいけませんもの。」



【あとがき】

 アナルに指……変態ではなく、治療行為です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る