第9話 シングルスペル、医師R誕生

「冒険者レオよ。」

「は、はい。」

「面をあげてよいぞ。」

「はい。」

「医師局長より報告を受けた。此度の石化病克服への活躍、国民に変わって感謝する。」

「もったいないお言葉、ありがとうございます。」

「その功績に報いるため、本日をもってそなたを国家特別認定医師および医師局付け薬師に認定する。」

「はぇ?」


 変な声が出た。みんなクスクス笑っている。


「まあ、緊張するでない。万能薬なる薬の無償提供の件も聞いておる。薬に価値が生じてしまうと、民に使われなくなってしまうとな。」

「はい。」

「個人の利益に走らず、民のことを考える。それこそが貴族のあるべき姿だとわしは思って居る。」

「……。」

「わしとしては、お前こそ貴族に相応しいと思ったのだが、医師局長が否定するのじゃよ。お前は辞退して逃げ出すだろうとな。」


 クスクスと笑い声が聞こえた。

 顔をあげられない。


「ならば、メイド付きの屋敷を与えて、王都に縛ろうと考えたのだが、それも辞退するだろうとな。」

「はい。医師局長のご慧眼には恐れ入ります。」

「残る手段は一つじゃ。お前に嫁を娶らせる!」

「えっ……。」

「そう思ったのじゃが、宰相の娘の裸を見ても動じなかったという。」

「えっ?」

「身に覚えがあろう。最初の患者だ!」


 前の方に並んでいた男性が顔を歪めている。多分宰相だろう。


「申し訳ございません。今のところその予定はございません。」

「だがなぁ、王としてお前のような人材を逃す訳にはいかんのだよ。」

「……生活の基盤を王都で作り、医師局へも定期的に顔を出すようにいたします。昨日王都に到着したばかりですので、今のところはこれでご容赦いただけませんか。」

「そうか、期待して良いのじゃな?」

「はい。ご期待に沿うよう努力いたします。」


 なんとも裏のない国王だが、この国王の下でなら面白いかもしれない。

 そんなことを考えながら城を辞した。


 王都に長居するなら、とりあえず家の確保だ。

 家を買うなら商業ギルドへ行けと教わっていたので、商業ギルドを訪れた。


 対応してくれたのはマリアンという赤髪巻き毛の女性だ。

 ややポッチャリ気味だが、色気のある女性だ。


「すみません。家を確保したいんですけど、一人暮らしで時々城へも顔を出して、冒険者ギルドにも近い場所はありませんか?」

「うーん、城と冒険者ギルドの二つを満たすなら、商業エリアですが、割高になりますよ。」

「どれくらいですか?」

「賃貸なら月に金貨2枚からで、購入だと最低で金貨35枚ですね。」

「それくらいなら大丈夫です。認定医師の収入がありますから、購入の方向でお願いします。」

「えっ、お客さん城のお医者さんなんですか……貴族には見えませんけど。」

「平民ですけど、先ほど陛下から認定証いただきましたので……これです。」

「えっ、ゴールド医師免許って、超エリートじゃないですか?」

「そうなんですか?もしかして開業するんですか?」

「いえ、普段は冒険者として活動します。」

「えっ?」

「変ですかね?」

「おかしいですよ。だってお医者さんの方が儲かるじゃないですか!」

「でも、本業は冒険者ですから。」

「ちなみに、冒険者のランクは?」

「Bランクですけど。」

「そっちも、めっちゃ優秀じゃないですか!」

「ええ、本業ですからね。」

「じゃあ、将来的な開業も考えてこちらなんて如何ですか。金貨150枚なんですが、商業エリアのど真ん中という最高の立地です。」

「じゃあ、そこでお願いします。」

「えっ、詳細は聞かないんですか?」

「だってマリアンさんのおすすめなんでしょ。そこでお願いします。」

「はあ……、じゃあこちらが契約書になります。まずはこの欄にご署名を。」

「はい。えっと、家は医師としての拠点だからこっちの名前ですね。」

「えっ、ええーっ!」

「どうしたんですか?」

「だって、医師Rって……。」

「ええ。医師として活動する場合はこの名前を使うように言われてます。」

「いいですか、このシングルスペル……一文字の称号を与えられるのは、国で最高の知識や技術を持った26人なんですよ。お客様のような若い方がもらえる称号じゃないんですよ。」

「えっ、でもこの認定証にもRって書いてありますよ。」

「……ホントだ。」


 というわけで、俺は商業エリアの一等地に住居を構えることにした。

 確かに、城と冒険者ギルドの中間で、使い勝手がよさそうだ。

 魔道具もセキュリティーも最高のものがセットされていて安心・安全の物件といえるだろう。

 俺は早速、ベッドと寝具一式を購入した。

 しかも、両隣が料理屋と雑貨屋で便利なことこの上ない。


 新品の寝具に寝転んで、俺はこれからのことを考えた。

 王都エリアにあるダンジョンはSからCまで6箇所ある。

 とりあえずは依頼をチェックしながら全ダンジョンのクリアを目指すとして、その次はどうするか……だな。

 拠点をここに残したまま、他の町のダンジョンを攻略するのもいいだろうし、今度は旅の医師として堂々と治療もできる。

 全部を踏破したらA3のワダツミにリベンジだ。

 ……だけど、あれでAクラスってことは、Sクラスのダンジョンってどんなだろう。オラ、ワクワクすっぞ!


 俺は拠点が決まったことを医師局に報告に行った。

 到着に1時間かかった。

 くそっ、何か規則性があるはずだ……。


「ああ、それは右左と交互に曲がるのよ。なんでそれくらい気づかないのかしら。」


 サクラは相変わらず俺に塩対応だ。


「うるせえ。ほらこれが拠点だ。」

「えっ、商業エリアの2番地って、一等地じゃない。あなた、お店でも開くの?」

「いや、冒険者ギルドとこことの中間地点を買っただけだ。」

「いやいや、城まで1時間かかってたら意味ないでしょ。」

「うるせえ。じゃ、帰るから、何かあったらそこに手紙でも入れといてくれ。」

「ねえ、何で常勤の医師を選ばなかったの?」

「俺はただの冒険者だ。医師は本業じゃねえ。」

「あなた、全国の受験生に失礼よ、謝罪して回りなさいよ。」

「お前こそ、全国の冒険者に失礼だろ。」


 帰りはまた1時間かかってしまった。

 くそっ、教わった通りに進んだんだが……もしかして、帰りは左からスタートするのか?


 冒険者ギルドで依頼をチェックする。


「おお、やっぱり王都は依頼件数が多いな。」

「プッ、お前地方から出てきたのが丸わかりだな。」


 金髪イケ面で、高そうな鎧に身を包んだ長身の男に声をかけられた。


「まあ、その通りだから仕方ないだろ。」

「そういう雰囲気丸出しだと、たちの悪いパーティーに勧誘されるから気を付けるんだな。」

「たちの悪いパーティー?」

「ああ、最初は甘いことを言ってパーティに入れ、実際は荷物持ちで経験値も褒賞もごくわずか。最後はおとりに使われてご臨終ってやつだ。」

「俺はソロだから大丈夫だ。だが情報をありがとう。注意しておこう。」

「まあ、狙われるのはもう少し非力そうなヤツらしいから大丈夫とは思うけどな。おっ、これを受けてみるかな。」


 男はCランクの依頼をはがしてカウンターに向かった。

 さて、面白そうなのは……。

 俺が一枚の依頼書に手を伸ばしたところ、横から手が伸びてきて持っていかれてしまった。


「おっ、悪いな早いもん勝ちだ。」

「ああ、他のを探すから問題ない。」

「……なあ、よかったら、この依頼一緒に受けねえか?」


 声をかけてきたのは、目つきの悪い男だった。

 見るからに盗賊って感じの……。



【あとがき】

 サクラさんはツンデレ?

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