第7話 領主は太っ腹
「言っておきますが、領主だっていうだけで頭を下げるつもりはありませんよ。」
「領主様に無礼な振る舞いがあれば、お前の登録を抹消する。」
「そんな横暴が通るのなら勝手にしてくださいよ。俺は王都にでも行って、Fランクからやりなおしますから。」
「つべこべ言わずに付いてこい!」
俺はギルマスに連れられて領主邸へいき、領主の前に連れていかれた。
小太りで脂ぎった中年オヤジが目の前にいた。
訳のわからない異質な香料が、俺を更に不機嫌にさせる。
「レオとやら、よくぞまいった。」
「……。」
「馬鹿者、挨拶せんか!」
「よいよい。用件は一つだ。お前の持つ万能薬のレシピをよこせ。金貨100枚で買い取ってやろう。」
「き、金貨100枚……。」
何も知らないのだろう、ギルマスが驚いている。
「ノルの商業ギルドで一瓶金貨300枚の値をつけられましたが、お断りしています。」
「ふん、強欲なヤツめ。ならば金貨500枚だそう。それで異論はないな。」
「お断りします。万能薬に高値をつけられたら、必要な者が使えません。それに、レシピといわれても、俺以外に作れませんから。」
「お前よりも優秀な薬師はいくらでもいるのだぞ。断るのなら、お前の体に聞いてもよいのだぞ。」
「ギルマス。こんな理不尽な要求に従えと?」
「薬のレシピくらい問題なかろう。」
「それがタタラ毒すら治せる薬でも?」
「何!」
「この領主様は、それを独占したいと言っているのですよ。」
「……。」
「ええい、黙れ!衛兵、こやつを捉えろ!」
駆け寄ってくる兵士の足をすくって転ばせ、俺は悠々と部屋を出る。
「王都にでも行って、ここの所業を広めてきますよ。では、失礼しますよ。」
俺はギルドに行って預金を全額引き出し、徒歩で王都に向かった。
途中で一度、領主の差し向けたらしい集団に襲われたが、高速移動などの複合スキルを上乗せした”斬撃”は、襲撃者たちの装備を簡単に断ち切ることができた。
剣も細切れにしてやった。
これまでと同じように、人家では御用聞きをして、必要があれば万能薬を使った。
王都の冒険者ギルドに顔を出して、余計な金貨を預けたところ、手が空いていたら城の医師局へ来てほしいと伝言が届いていた。
まあ、病人とかがいるのなら手を貸してもいい。
「城って、普通に行って入れるものなんですか?」
「大丈夫ですよ。門番に医師局に呼ばれたと伝えれば案内してくれるはずです。」
「そうなんですか、ありがとうございます。」
特に用事もないので、俺は城へ向かった。当然だが城は大きく、町のどこからでも見えるサイズだった。
だが、城への道のりは、それほど楽ではなかった。
冒険者ギルドは外周の壁から入ってすぐの場所に位置していたのだが、その内側に一般の住居がある。
そして、その内側に産業エリアというのか商店や工房が並び、次に出てきたのは貴族街で、一直線に抜けられない構造になっていた。
この貴族街というのが曲者で、一軒が広いうえに城に向かう道がなかなか見当たらない。
路地を入っていったら、いつの間にか貴族屋敷の中庭に出たりして、とんでもなく期間を浪費してしまい、城についたのは夕方になっていた。
門番に要件を伝えると、丁寧にも2階の医師局フロアまで案内してくれた。
「すみません。こちらに来るように、冒険者ギルドに伝言があったんですけど。」
一番近くにいた小柄な女性が応じてくれた。
「もしかして、冒険者のレオ様でいらっしゃいますか?」
「様って呼ばれるモノじゃないですけど、レオです。」
「プッ、面白いお方ですね。課長と局長を呼びますので、こちらでお待ちください。」
俺は応接に案内された。
冒険者ギルドの応接とは大違いで、花が飾ってあったり、絵画があったりして落ち着ける雰囲気だった。
「やあ、わざわざすまないね。」
入ってきたのは、40代と50代に見える男性で、二人とも黒のパンツと白の襟付きシャツ。グレーのチョッキといったいで立ちで、40代の課長がタレット、50代の局長がシバと名乗った。
俺は肩書もないので名前だけ名乗った。
座って雑談をしていると、先ほどの女性がお茶を持ってきてくれた。
「いい香りのお茶ですね。レギンをベースにライトキキとカーラをブレンドして……、もう二つは知らないリーフですね。」
「ふむ、植物に関する知識は広いようだね。」
「レギンベースのお茶というのは分かるんですけどね。」
女性も同席してくれたのだが、クスリと微笑んでいる。
「ノル町の医師、ノエルから連絡があってね、タタラ毒の治療薬が見つかったとね。」
「はあ。」
「乗り気ではないようだね。」
「……金儲けのネタにされたくないんですよ。治療に必要だというのなら提供しますけど。」
「あはは、ノエルの手紙にあったとおりだ。」
「こちらに入っている情報では、ノルからサガへの道中で、旅の薬師という男が無償で治療をしているとね。」
「……まずかったですか……。」
いわれてみれば、医師や調剤師などは国家試験だったな。
この世界でもそうだったのか……。
「そうだね。治療行為は、資格をもった者が行う。これが基本なんだけど、無償の場合は実質上黙認といったところかな。」
「あっ、じゃあセーフで……。」
「そうはいきません。」
女性が口をはさんできた。
「薬事局が今回の件で声を荒げています。無許可の治療行為だといって。」
「薬事局……そんなのが。」
「そこで本題だ。一番目は万能薬が本物なのかどうか。そして本物だった場合、量産が可能かどうか。三番目だが、君に医師もしくは薬師になる気があるのかどうか。」
「一番目は、検証の数が少ないので万能かどうかは分かりませんが、少なくともタタラ毒には2回使って両方とも解毒できたこと。そして飲むことで効果の高いポーションのように回復効果があったこと。」
「そのへんは成分にもよりのだろうが興味深いところだね。」
「量産はできません。僕のスキルで作っているので、単純に調合で作れるものではありません。」
「作るところを見せてもらう事は可能なのかね?」
「いいですよ。材料さえあればいつでもお見せできます。それから僕の意思なんですが……、困っている人がいるなら助けたい。それだけです。商売にするつもりはありません。」
「局長、今の発言は偽善です。」
「偽善かね?」
「年間、何千人もが国家試験に挑み勉強をしています。そういった努力もなしに、人を治療するなど、許されることではありません。」
「サクラ君の答えは、医師局のスタッフとして満点の回答だね。だが……、彼がスキルで万能薬を作れるとしたらどうする?」
「それは……。」
「資格を持った医師や薬師のために一生万能薬を作れと拘束するのかね。」
「……。」
「あははっ、そしたら僕は毒薬ばかり作るかもしれないですね。」
「そうだろうね。スキルは本人の意思や感情に左右されるからね。」
「局長、仮定の話はひとまず保留して、レオ殿にご協力をお願いして検証しようではありませんか。」
「ああ、そうだね。レオ君、お願いできるかい。」
「僕にできることならば、協力しますよ。」
最初は万能薬の抽出からだった。
用意してもらった薬草・毒消し草・マナ草を10株ずつ手のひらから吸収していく。
「草が手のひらに吸い込まれていくとは、どうなっているんだ……。」
「お見せするのは結構ですが、スキルの解明とかはご容赦ください。」
「そ、そうだったね。」
【あとがき】
医師局による万能薬の検証です。
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