第6話 A3ダンジョン

 A5ダンジョンでは、5日で金貨100枚弱を手に入れた。

 俺は意気揚々と西にあるA3ダンジョンに向かった。

 触手のたてる音が、ヒュンヒュンからシュンシュンに変わっている。

 こうして移動しながらも、薬草類の採集は続けていた。


 触手の訓練も精度をあげていく。

 例えば、頭上の葉を一枚切り落とし、地上につくまでに粉状になるまで切り刻むのだ。


 当然だが、人家があれば御用伺いも続けている。

 こうした辺境では、特に医師や薬師の需要は高い。

 何日も高熱の続いている幼児や大けがを負った猟師など、万能薬の需要はうなぎ上りだ。


 普通に移動すれば2日で着けるはずだったが、A3ダンジョンに着いたのは5日目になってしまった。

 まあ、急ぐ旅でもない。問題なしだ。


「ようこそA3ダンジョンへ。」


 いつものように案内嬢のアナウンスを聞いてダンジョンに挑戦する。

 ここは今までのダンジョンに比べて格段に広く深かった。

 一般的な冒険者パーティーは一か月程度を目安として挑戦しているらしい。

 持ち込む食料も増えて、重装備多人数のパーティーが挑むダンジョンだという。

 ソロで挑むなど、狂気の沙汰だと言われてしまったが、入場料を払えば問題なく入ることができた。


 地下1階層で出会ったパーティーは15人編成だった。

 単体で現れた魔物を、前衛の5人が取り囲んでボコる姿は、滑稽ですらあった。

 ライトボール持ちの魔法使いが二人もいて、明るく楽しそうに進んでいる。

 少しだけ羨ましかった。


 ただ、広いだけで、出現する魔物にそれほどの違いはない。

 ここが人気なのは、洞窟タイプではなく、空洞タイプなので、多人数のパーティーに向いていることだろう。

 そして、ここの地下4階層にはギルドの運営する中継所がある。

 十分な明るさがあり、宿泊施設や食堂。格安の野営地まで備わっている。

 ここを拠点にして数か月滞在するパーティもいた。

 俺も、ここまでに得た魔石や戦利品を買い取ってもらい、身軽になって先に進んだ。


 地下10階層。

 ここまで来ると、魔物の質が変わってきた。

 ドラゴンタイプの魔物も増えて、魔石の質がかなり高い。

 普通のドラゴンタイプは斬撃で簡単に処理できるのだが、ラプドラという1mほどの小型ドラゴンは素早く、頭がいいのだ。

 しかも群れを作っていて、10匹ほどで波状攻撃を仕掛けてくる。

 多人数のパーティーでも苦戦し、全滅することもあるという。


 俺はエコーロケーションを最大限活用して、全方位を警戒する。

 しかし、奴らは簡単には仕掛けてこない。

 高速で移動しながら、尻尾を地面に叩きつけて石や砂を飛ばしてくる。

 おかげで、エコーロケーションも十分には機能しなくなる。

 そして、そのスキをついて鋭いカギ爪で襲ってくるのだ。


 俺も、2撃3撃と攻撃を受け、腹やモモに傷を負っていた。

 警戒しつつ、傷だけ塞ぐのだが、わざとふらついてスキを見せてみた。

 その瞬間にとびかかってきた一匹を両断し、吸収した。

 

 ラプドラから得られたスキルは”高速移動”と”攪乱”だった。

 この瞬間、形勢は逆転した。


 複合的なスキルでラプドラの速度を凌駕した俺は、一匹づつラプドラを始末していった。


「ああ、町に戻ったら。服を買いなおさないといけないな。」


 婆さんの遺品から、針と糸を取り出して、腹の部分を縫い合わせる。

 モモの部分は小さい傷なので、そのままでいいだろう。


 地下13階層より下は、良質な魔石の宝庫だった。

 アークドラゴンや巨人のアトラス。悪魔系のグロスデーモン。サラマンダーにダークジュエル。

 ここで俺は、魔法系のスキルも手に入れた。

 炎と氷のアロー・ランス・ピラーと、上級魔法といわれるスキルだ。

 さらに、物理攻撃をブロックするシールドと、魔法攻撃をブロックするマギシールド。

 そして、タランチュラからは、粘着性の糸を張り巡らせるスパイダーネットと、直接敵に巻きつける糸車だ。


 俺は、崖のくぼみに腰をおろして仮眠することにした。

 スパイダーネットを張っておけば、振動で接近がわかる優れモノだ。

 ここまで、多分4日ほど、不眠不休できた。

 そろそろ、仮眠をとっておかないと、判断力が鈍ってしまう。


 地下15階層。地図ではここが最下層となっている巨大な地底湖だ。

 そしてここの主は驚異の再生力を持つというワダツミ。

 そして厄介なコールドブレスは防ぐ手段が見つかっていないという。

 魔法系のシールドでは防げないというのだ。


 そのワダツミが出現した。

 氷のような輝きを放つ姿は、龍そのものだった。

 全長40m以上と思われる圧倒的な存在感。

 ブレス対策に巻きつけたスパイダーネットも簡単に破られてしまうし、斬撃も鱗を傷つけるのが関の山だ。

 高速移動でブレスを避けつつ、あらゆる部位に斬撃や溶解液を浴びせるが効果はなかった。

 30分ほど頑張ってみたが有効打は打てなかった。

 お手上げである。


 地底湖を離れるとワダツミは水の中に戻っていった。

 俺の得たものは、一枚の鱗だけだった。


 鱗を吸収した俺が得たスキルは、”完全防御装甲”と”コールドブレス”だ。

 そして俺は、戦闘中に地底湖の奥へ伸びる洞窟を発見していた。

 いつかリベンジだ。

 

 地上へ戻ると、10日経っていた。

 得られた魔石の査定額は、金貨253枚。やはり質の良い魔石が多かったようだ。


「地下15階層まで行かれたんですか?」

「ええ。ワダツミには歯が経ちませんでしたよ。」

「えっ、主と遭遇したんですか?」


 周囲がざわつく。


「へっ、ソロで15階層とか、虚言癖でもあるんだろうぜ。」

「まったくだ。ソロじゃ10階層のラプドラだって無理だろ。」

「でも、これだけ質の良い魔石は、12階層より下でないと手に入りませんわ。」

「そりゃあ、よっぽどついてたんだろうぜ。」

「あっ、ほらコレ。一枚しかないけど主のウロコ。」


「「「あっ……。」」」


 主の姿を見たものでさえ、現役の冒険者で数名だという。

 ましてや、交戦したという記録は150年前しかないらしい。

 そのパーティーも壊滅状態で、生還できたのは魔法使い一人だったという。

 当然、無傷でウロコまで持ち帰ったものなどいるはずもない。

 ニセモノだとか散々言われたが、別に信じてもらう必要はない。

 ただ、鑑定士によれば、間違いなく魔物のウロコで、10cmもある光るウロコなど記録がないため、ヌシだろうと結論付けられた。

 ギルドは、金貨300枚を提示して買取を希望したが、売るつもりはなかった。


 俺はサガの町に戻って、タンクトップとパンツを仕立ててもらう。

 ほとんど同じものだ。


 そして仕立てのできる数日間はブラブラして過ごした。

 服が出来上がったその日、俺は町で声をかけられた。


「もしや、旅の薬師レオ様ではありませんか?」

「レオですけど。」

「突然申し訳ございません、私エチゼン商会の……。」

「あっ、そういうの間に合っていますから。」


 なんだか知らないが、商売に加担するつもりはないので、その場から逃げ出した。

 そのあとも、いろいろな場所で呼び止められ、ついにはギルドでマスターに引き合わされた。


「領主様が面会を希望されている。俺に同行してもらおう。」

「俺には領主に会う理由はないんですけど。」

「つべこべ言わずについてこい。」


 ノルのギルマスとは大分違うようだ。



【あとがき】

 水龍ワダツミ。どう使おう……。

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