第5話 最強のソード&アーマー
翌日、俺はギルドに行って魔石の買取を頼んだ。
量が多かったので少し待っていたら、カウンターのお姉さんにBランク昇格だといわれた。
「いや、いくらなんでもそこまでの量じゃないでしょ。」
「はい。これが魔石の買取依頼書で、こちらがギルマスからの指名依頼と領主様からの指名依頼になります。」
「えっ、そんなの覚えがありませんけど。」
「では、ギルマスに直接確認なさってください。」
「はあ……。」
俺はまた昨日の応接に連れ込まれてしまった。
少ししてギルマスがやってきた。
「よお。昨日はスッキリしたぜ。」
「何が……ですか?」
「薬ギルのばばあだよ。あの性格がなけりゃいい薬師なんだけどな。」
「アハハハ……。」
「先に礼を言っておく。ダリヤを助けてくれてありがとう。感謝してる。」
「えっ、あの……。」
「ダリヤは俺の娘だ。」
「えええっ!」
「昨日、ここで聞いた時には半信半疑だったんだが、昨日領主に呼ばれてな。」
「領主……様?」
「お前が昨日助けたアイリな、領主の孫娘なんだよ。」
「あっ。」
「数日前から領主の様子がおかしくてな。俺も心配してたんだが、まさかアイリがタタラ毒にやられていたとはな。」
「助かってよかったです。」
「しかも、そんな貴重な万能薬をノエルにやっちまったと聞いてな。」
「ノエルさんなら、効果的に使ってくれると思いましたから。」
「ああ。で、領主からお前の行動に報いるにはどうしたらいいかって相談されてな。」
「はあ。」
「Aランクになれば、半強制的に依頼を出せるから、早く昇格させた方がいいって。まあ半分冗談で言ったんだが、領主はノリがよくてな。こうなったわけだ。」
「……そんな馬鹿な……。」
「最優先の指名依頼2件と魔石の買取。しかもB8の最深部までソロでいけるんだ。Bランクに十分値するさ。」
こうして俺はBランクに昇格した。
Bランク以上には、非常時に動員に応じる義務も生まれる。
数日間、依頼をこなしていたのだが、俺は決心した。Aクラスのダンジョンが複数ある西の町サガに行こうと。
「本当に行ってしまうのかい。」
「ええ。これ薬です。使ってください。」
「いいのかい?」
「ノエルさんなら効果的に使ってくれますから。」
「だって、薬事ギルドから出された金貨300枚の特別指名依頼を断ったって聞いてるから。」
「この薬に金貨300枚の値がついてしまうと、本当に必要としている人が使えなくなっちゃいますよ。」
「ああ、その通りかもしれない……。」
「だからノエルさんに託すんです。」
「うん。君の気持ちはわかった。これは、普通の薬として使わせてもらうよ。」
ギルドの預金は、金貨10枚残して引き出した。
引き出した金貨は150枚以上あった。
俺は西の町サガに向けて歩き出した。
移動中に1年分成長しておこう。
これで16才だ。
移動中は当然だが吸収をフルに使っている。
それと同時に。触手の制御訓練も欠かさない。
細く、硬く、早くだ。
10本を絶えず動かしているため、俺の周りはヒュンヒュンとうるさい。
サガの町までは500kmくらいだと聞いた。
順調にいけば10日くらいだ。
見かけた村や集落では必ず声をかけるようにしている。
日没後は素通りだが。
「こんにちわ。冒険者ですけど、困っていることとかありませんか?」
「ああ、間に合ってるよ。」
ほとんどこんな感じだ。
困っている人は顔や言葉に現れる。
「ああ、娘の具合が悪くて……。」
「薬師の心得もあるので診ましょうか。」
具合が悪くて寝込んでいる程度なら万能薬一滴で回復するし、外傷があれば塗ってやる。
報酬は求めないし、長居することもない。
魔物の討伐も代行してやった。
予定より少し遅れたが、13日目にサガの町に到着した。
早速冒険者ギルドに行って預金をし、依頼の掲示板を見る。
一件、気になる依頼があった。
Bランクの依頼で、トリネリ草の採集依頼だ。
トリネリ草なんて聞いたこともないし、薬草の類に関する依頼なら万能薬でなんとかできるかのしれない。
「すみません、この依頼について確認したいのですが。」
「ああ、イグリ医師からの依頼ですね。実は1カ月以上前から出ている依頼なんですが、達成者が出ていないんですよ。」
「それはどうしてですか。」
「トリネリ草というのを誰も見たことがなくて、それらしい草を持ち帰ってもみんな拒否されてしまうのです。」
「それなのに依頼が出続けているのは?」
「必要としている患者さんが貴族のお嬢様で、その……。」
「そういうことですか。関与しない方がいいみたいですね。」
「私の口からはなんとも……。」
ほかに興味のある依頼はなかったので、俺はダンジョンに挑戦することにした。
町の北にあるA-5ダンジョンと西にあるA-3ダンジョンだ。
最初はA5に決めて北に向かう。
ダンジョンの横にはギルドの分署があり、一通りの設備が揃っている。
ここでも銀貨3枚の入場料を払い地図をもらった。
前回と同じように左手親指を”発光”させて、触手で支えながら地下へ降りていく。
Aクラスといっても、それほど変わったことはない。
「ほう、こいつは手ごたえがありそうだ。」
出現したのはソード&アーマーという物質系の魔物で、フルアーマーの重装備に鉄を断ち切る剣を持っている。
分署のお姉さんによる説明でも、動きは遅いので逃げることをすすめられた。
ふう、触手による攻撃じゃあ全然効かないか。じゃあ、突きならどうだ。
鎧の継ぎ目を狙って触手で突きを入れる。
効果はありそうだが、ダメージと言えるほどではない。
触手を使って転倒させようとしても、重くてびくともしない。
剣に触れれば、触手は簡単に切られてしまう。
じゃあ、毒攻撃はどうよ。
鎧部分には効かなかったが、隙間からの攻撃は効果があるようだ。
特に腐食系が効くようだ。
何度も繰り返し腐食を叩き込むと、目に見えて動きが落ちてきた。
やがて倒れて動かなくなる。
剣と鎧は吸収できなかったが、内側のモノには効果があった。
ソード&アーマーが残したものは質の良さそうな魔石と剣と鎧。
どうしようか悩んだが、一度戻ることにした。
入場料は5日間有効なので、一度戻っても二度目を払う必要はない。
「た、倒しちゃってんですか!」
分署内がざわつく。
「ああ、俺は使わないんだが、買い取ってもらえりのか?」
「もちろんです!久しぶりのソード&アーマーフルセット。しかも傷が少ないですね。はぁ、これなら金貨10枚で私が買い取りましょう。」
「「「おい!」」」
周囲の人間から突っ込みが入る。
買い取りカウンターにはソード&アーマー最低金貨20枚で買い取りと書かれていた。
結局金貨30枚で引き取ってもらった。
だが、今回一番の収穫は、”斬撃”と”超硬化”と”強化”だった。
”超硬化”と”強化”を施した触手の”斬撃”は、簡単に岩を切り裂いた。
ソード&アーマー以外の敵は一撃で屠ることができるのだ。
まさに無双状態。
戻る途中で二匹目のソード&アーマーに遭遇した。
アーマーに斬撃は効かないが、中のヤツには有効だった。
首の隙間から糸状の触手を差し込んで切ると、アーマーはガラガラと音を立てて崩れた。
2体目のソード&アーマーは、カウンターのお姉さんに金貨20枚で譲ってあげた。多分、こいつはソード&アーマーフェチだ。
こんな鎧にスリスリするような奴に、結婚は無理だろう……、と思ったのだが、左手の薬指には指輪が……。
解せん。
【あとがき】
ソード&アーマー。中に誰か入ってるんですね。怖いですね。
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