第4話 B8ダンジョン

 蛍光石を準備してきたのだが、実は夜遠し歩いていてあるものを見つけていた。

 それがツチボタルという蛾だかハエだかの幼虫だ。

 5mmほどの虫で、蛍よりも淡い光を放っている。

 早速吸収して”発光”のスキルを手に入れてある。


「さて、どこを光らせるかな……。」


 少し考えて左手の親指を光らせておくことにした。

 左手親指に意識を集中してスキルを発動する。

 淡く頼りない光だが、暗視のスキルを持つ俺には問題ない。

 エコーロケーションも発動し、動くものを片っ端から吸収していく。


 少し濡れた岩もあるため、触手で壁に手をつくイメージで上下左右を固定しながらダンジョンを降りてゆく。

 当然だが、こんなところにいる虫は、毒を持つものも多い。

 麻痺毒・神経毒・出血毒、俺は次々と新しい毒のスキルを入手していった。

 こんなの、使う機会あるのかな……。


 自然のダンジョンに階段などありえない。

 階層と呼んでいるのは、単に高低差の大きな場所を便宜上切り分けるために使っているにすぎない。

 そのような場所には、先人により梯子が設置されていたり、ロープが張られていたりする。

 そして、全体的に緩やかな下り勾配であるため、滑りやすくなっている。


 触手で体を固定する俺には段差も関係なく、どんどん下っていく。


 ここで俺は気が付いた。

 倒した魔物から魔石を抜いて吸収していたのだが、鉱物は吸収できないのだ。

 だから、吸収してから残った魔石を籠にいれていけばいい。

 ここから、俺の狩りは速度があがった。


 地下3階層。

 ここで、前方に淡い光を発見した。

 人間のパーティーだろうか……。


 少し広い場所で3人の男女が座って休んでいるようだ。


「こんにちわ。」

「えっ、ソロなんですか?」

「はい。コミュ障なので……。」

「それに、指が光っている……。」

「ライトボールじゃないですよね。」

「ええ。”発光”っていうスキルを持っているんですよ。」

「聞いたことがないスキルですね。」

「それよりも、そちらの方、苦しそうですが大丈夫ですか?」


 短パンとブーツの間に見える女性の足が、紫色に腫れあがっている。

 

「多分サソリの毒だと思います。毒消しを飲ませたので、少し休んでいれば……。」


 いや、これは浸食性のタタラ毒だ。俺の中にあるタタラ毒のスキルがそう告げている。


「ちょっと待ってくださいね。」


 俺は籠の中に入れておいたガラスビンに指を突っ込み、”抽出”する。

 籠の中でビンにふたをして、中に入れてあったように偽装して取り出す。


「多分、タタラ毒ですね。」

「タ、タタラ毒って……。」

「効くかどうか分かりませんが、これ万能薬なんですよ。塗ってもいいですか?」

「お、お願いします!」


 毒に侵されて苦しそうな女性が言ってくる。

 俺は、薬を紫色の部分に指で塗っていった。

 少し様子を見ていると、紫色の部分が薄くなってきた。


「うん。タタラ毒にも効いたみたいだ。」

「ありがとうございます!痺れるような痛みが消えました。」

「まだ腫れているので、休養が必要ですね。あっ、ちょっと手のひらを広げてください。」

「こ、こうですか。」


 俺はその上に数滴緑色の薬を垂らした。


「イヤでなかったら、指でなめてみてください。」

「……はい。」


 女性が薬をなめると、赤く残っていた腫れが消えて、心なしか全身が活性化したように見える。

 つまり、見るからに元気になった。


「お、お前……。」

「これ、凄いです!多分、魔力も全回復してます!」

「……そんな薬、聞いたことが……。」

「嘘じゃないって!ほら舐めてみなよ。」


 女性が残った液体を指ですくって男たちに舐めさせる。


「……!」

「これ!すげえ!」

「ねっ、全回復みたいでしょ!」

「あ、ああ、信じられねえが、体力どころか、気力も漲ってるぜ!」

「あ、あんた、これをどこで手に入れたんだ!」

「いろんな薬草を調合して作ったんですよ。」

「そうか、助かったよ。」

「じゃ、僕は先に行きますので。」

「うん。本当にありがとうな。」

「今度、町であったらお礼するから、名前教えてよ。あっ、あたしはダリアよ。」

「レオと言います。じゃあ、これで。」


 ダリアさんは、金髪ショートのかわいい女性だった。マントを羽織っていたので魔法使い系だろう。

 回復薬の効果が確認できたのは、俺としてもありがたかった。


 B8ダンジョンにはサイクロプスもオーガも出なかった。

 収穫は魔石と吸収で得たスキルだけだ。


 ダンジョンの中で、3組のパーティーと遭遇したが、他の2組は簡単な挨拶を交わしただけだった。

 最奥まで攻略して4日で帰還した俺は、ギルドの分署で魔石を処分しようとしたのだが、レオだと名乗った途端に万能薬の所有者かと聞かれ、肯定したところで拘束されてしまった。

 万能薬に残量があることを確認された俺は、早馬車でノルの町に強制送還されてしまった。


「急に来てもらってすまんね。薬事ギルドが、万能薬の効能を確認したいというのでな。」


 冒険者ギルドのギルドマスターから薬事ギルドのギルドマスターを紹介された。


「薬事ギルドマスターのジョディーです。タタラ毒に効果のある薬と聞いたので来たのだが、本当なのですか。」

「……多分。」

「多分では困るのですよ。」

「急に連れてこられて何言ってるんですか。初めて使ったんだから、多分としか答えようがないでしょ。」

「こ、これは失礼しました。ですが、タタラ毒は致死性の高い毒です。多くの薬師が挑みながら、いまだに効果のある薬は見つかっていません。」

「はあ。」

「もし、効果が確認されれば、とんでもないニュースになります。ノルの町が一躍有名になるんですよ!」

「そこかよ……。そういうのに興味ないんで、帰りまーす。」

「何言ってるの!忙しい私が、時間を割いているんですよ!」

「はいはい。俺は暇なので、またダンジョンにでも行ってきます。」


 俺は立ち上がって応接室から出た。

 冒険者ギルドのマスターは笑いを堪えてたみたいだから大丈夫だろう。

 だが、応接から出たところで、腕をつかまれた。

 今度は30代くらいの男性だった。


「すみません。医師をしているノエルといいます。私のところに、タタラ毒に冒された患者さんがいるのですが……。」

「ああ、そういう事なら協力しますよ。」


 ノエル医師の診療所に行き、患者にあわせてもらう。

 患者は5才くらいの女の子で、紫色の腫れが下半身全体に広がっていた。


「この薬を、患部に薄く塗ってください。」

「はい。」


 ノエル医師は、綿に薬をしみこませて優しく患部にあてていく。


「凄い!本当に毒が消えていく!」


 10分ほどかけて紫色の部分を消してくれた。

 ダリアの時と同じように、まだ赤い腫れが残っているが苦しそうだった少女の顔から痛みが消えたことが伺える。


「ああ、苦しそうだった表情が穏やかに……。」

「一滴、飲ませてください。」

「飲み薬でもあるんですか!」


 指示通り、スポイトで口の中に垂らすと、飲み込む様子がうかがえた。


「ま、まさか……こんな!」


 少女の顔に生気が戻り、目を開いた。

 赤い腫れも消えていく。


「お、とうさま……。」

「アイリ……よかった……本当に……。」


 どうやら自分の娘だったようだ。

 まあ、助かってよかった。



【あとがき】

 万能薬……ほしい

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