第3話 冒険者としてスタートする

 山犬の討伐証明部位は左前脚だ。

 山へ向かう途中で薬草や毒消し草・マナ草を見つけると、つい採集してしまう。無駄な作業だと自覚して少し落ち込む。

 もったいないので吸収してみたら、抽出というスキルが増えた。

 別に薬草にそういうスキルがあるわけではないため、俺の意識から生まれたスキルだろう。

 毒消し草も同じだ。

 あれっ、そういえば3種類吸収したけど、特に種類を指定するようなスキルではないよな……。

 試しに”抽出”して指先から液体にして出し、なめてみた。

 ……特に何も変わらなかった。


 山犬には遭遇したことがあるので、匂いは覚えている。

 匂いを追跡して、触手で左前脚だけ残して吸収していく。


「うん、これは楽かもしれない。」


 時々、腐敗防止のために籠の中をクリーンできれいにしていくのだが、それ以外は追跡していく。

 それ以外の魔物に遭遇した時も、基本的には左前脚だけ残して吸収していく。

 吸収で栄養を補給しているので特に疲れは感じない。

 睡眠も、一日一時間程度で十分だった。


 一週間ほどで籠がいっぱいになったので町へ戻る。

 数を確認してもらうと180匹分だった。

 これだけで金貨60枚になった。


 冒険者ギルドには、預金というシステムがあり、月に銀貨1枚の手数料で金貨を預けておけると案内され、俺は持っていた金をすべて預けることにした。

 利息というシステムがないのは、投資など金を増やす仕組みがないからだろう。なんにしても、手ぶらで狩りにいけるのはありがたい。


 俺はまた、別の山に籠った。

 適度に薬草やマナ草を吸収しながらひたすら匂いを辿って山道を歩く。

 時々休憩するのは、体力の回復ではなく、傷を確認して修復するためだ。

 俺には痛覚がないため、岩にぶつけたり折れた枝が刺さったりすることがあるのだ。

 

 触手は本当に便利だ。

 木に巻きつけて枝に飛び乗ったり、崖を登ったりするのが簡単にできる。

 基本的には手や足の指を伸ばして触手にし、先端を風呂敷のように広げて吸収に使うこともあった。


 そういえば、昔読んだ小説で、特殊な糸を使って無双する主人公があたっけ。

 触手をあんなふうに使って、ものを切断したりできないだろうか。


 俺は早速試してみた。

 ピターン!……もっと硬く!

 ピターン!……もっと早く!

 ピタン!……もっと強く!

 ピシッ!……もっと細く!


 限界だった。

 小枝程度ならへし折ることもできたが、もっと鋭利に細くできなければ無理だろう。

 何かスキルを見つけないと、この先には進めそうになかった。

 だが、この訓練のおかげで、突きの威力はあがった。


 山にはいろいろな生物がいる。

 キツネ・タヌキ・クマ・シカ。

 昆虫に爬虫類に鳥類。

 それから魔物。


 俺は目についたものすべてを吸収していく。

 キラークラブというカニ型の魔物からは、シザーハンズというハサミで切るスキルを得ることができた。

 このスキルは毛皮を剥ぐ時に重宝した。

 獲得した毛皮は、木に吊るして日陰干ししておく。

 籠が山犬の足でいっぱいになった頃には、クマやキツネの毛皮が10枚以上たまっていた。

 それを折りたたんで、ツタで縛って町に帰った。


「山犬討伐数156匹ですね。これでレオさんはCランクに昇格です。」


 Cランクからは、受注できる依頼が倍増する。

 毛皮の売値も含めると今回も金貨60枚以上になった。

 今回はすぐに預けないで、買い物をすることにした。


 まずはブーツだ。

 革のサンダルでは、特につま先が傷ついやすいのだ。

 俺が買ったのは、底とつま先に鉄板が入っている頑丈な黒色のブーツだ。

 重たくなるが問題ないだろう。

 そして、皮の足首まであるパンツだ。

 黒に近い灰色のパンツで、それほどピッタリしていない。動きやすそうだ。

 それに、黒いベルトを巻き、サック付きのナイフをぶら下げる。


 タンクトップは、黒い皮で少し大きいサイズのものを作ってもらう。

 それから手甲だ。指の出る手袋みたいなもので、少し長めに手首まで覆ってくれる。

 今回買ったのは黒い革製のもので、これで、なんとなく冒険者っぽくなった。


 その日、俺は初めて宿屋に宿泊した。

 夕食と朝食がついて銀貨6枚だった。


「兄さん、女はいいのかい?」

「……、ああ要らない。」


 そういえば、性欲がわかない。

 というか、俺は人間なのだろうか……。

 生殖機能があるのかさえも分からなかった。

 勃起はまだしたことがない。

 実年齢は3才くらいなのだから、これからなのかもしれない。


 ちゃんとした料理を食べるのはこの世界では初めてだった。

 焼いた肉に、多分フルーツを煮込んだソースがかかっており、まあ、普通に食えた。

 堅焼きのパンに肉汁をつけて食い、食後にはお茶が出た。

 多分ハーブティーなのだろう。香りはまあまあだった。


 Cランクの常設依頼はサイクロプスとオーガなのだが、特に生息域が固定されているわけではない。

 行き当たりばったりの討伐行に出るか、依頼を受けるか迷ったが、俺はダンジョンに挑戦してみることにした。

 

 ノルの町から西に50kmいったところにあるダンジョンは、Bランクで攻略可能なレベルだと説明された。

 このダンジョンで出現する魔物からとれる魔石は、だいたい銀貨1枚から金貨5枚くらいまで様々で、下層にいくほど良質な魔石がとれるらしい。

 ここの魔物には常設依頼以外にポイント加算されることはないのだが、魔石の買取というクエストがあり、売却した魔石でポイント加算されるシステムらしい。


 通常の冒険者がダンジョンに潜る場合、蛍光石という光る石を手に入れるか、ライトボールという魔法を覚える必要がある。

 というのも、ダンジョンには可燃性のガスが発生している場合があり、火の使用は厳禁といわれているからだ。

 そういえば、コンサートなんかで使われるポキッと折ると光るやつが作れたらいいんだけど、そんな知識はない。


 蛍光石というのは、衝撃を与えると1時間程度光る石で、普通は2個を交互に光らせて使うらしい。

 非常にレアな鉱石で、大きな鉱石を発見できれば、一生遊んで暮らせるといわれている。

 だから、こんな5cm程度の欠片が金貨5枚もするのだ。


 蛍光石を手に入れた俺は、早速B-8ダンジョンに向かう。

 ダンジョン名は推奨ランクと見つかった順で表現されているのだ。


 丸一日歩いて50km踏破した俺は、ダンジョンの入口に設置された冒険者ギルドのB8分署で手続きを終え、簡易休憩室を借りて睡眠をとる。


「本当にソロで挑戦されるんですか?」

「ええ。大丈夫ですよ。」

「蛍光石はお持ちですか?」

「はい、ここにあります。」

「食料は?」

「5日分持っています。」

「では、こちらに署名をお願いします。」


 これは、十分な説明を受けたので、トラブルが起きても自分の責任だというサインである。


「地下3階のこの部分で崩落が発生しています。近づかないようにしてください。」

「了解しました。」


 ここでは、入場料として銀貨3枚を支払う代わりに、地下8階までを網羅した地図をもらえた。

 崩落とか、最新の情報をもらえるのはありがたい。


「では、幸運を。」

「ありがとう。」


 俺は、人生初のダンジョンに足を踏み入れた。



【あとがき】

 ダンジョン編の開始です。

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