第2話 初めて町に来た

 そうか、これから人に会うかもしれないってことは、外見も気にしないといけないな。

 年齢は15才だろ。

 黒髪に黒目……これが現在の見た目か。じゃあ、人生初の茶髪にして、ブルーアイズ。

 15才なら身長は172cmで体重63kg。まあ、適度だろう。

 切れ長のクールアイで、美形はいらないからフツメンでOK。

 下は皮の短パンに皮のサンダルか。

 どこかで服を買いたいな……。


 金は持っていないが、一年貯めた魔石がある。

 できればナイフなんかも欲しいところだ。


 家を出て5日。

 周囲は山間部から平地に移っている。


 吸収で腹は満たされているので、適当に歩いていたら煙が見えた。

 人が住んでいるかもしれない。


 煙が出ていたのは5軒ほどの小さな集落だった。

 外に出ていたオヤジさんに声をかける。


「こんにちわ。」

「ん、珍しいな。どっからきた。」

「北西の山に住んでいたんですが、一緒に暮らしていた爺さんと婆さんが亡くなったので山から降りてきたんですよ。」

「そうか、大変だったな。だが、ここには御覧の通り何もないからな。西に一日ほど行けばノルって町がある。そこなら宿屋や店とギルドもあるから行ってみな。」

「ありがとうございます。」


 西に一日か。

 30kmくらいなら、夜も歩けば朝にはつくだろう。


 月が出ているので、エコーロケーションを使わなくても夜目だけで歩くことができた。

 西に伸びる道に出たので、ゆっくりと歩いていく。


 町に行ったら、魔石を売って服とナイフを買って……。ちょっと楽しみだった。

 途中で山犬に遭遇したが、もんだいなく触手で片づけて吸収しておいた。


 夜明け前に町に到着したが、門が閉まっていたので、周辺を探索して時間をつぶした。

 周囲がぼんやりと明るくなったころ、門が開いたので入ろうとしたら門番に止められた。


「身分証は持ってないのか?」

「初めて山から降りてきたので、何もないんですが……。」

「それじゃあ、通行料銅貨3枚必要なんだが。」

「お金もないです……。」

「金になるようなものは持ってないのか?」

「ゴブリンからとった魔石ならありますけど。」

「ゴブリンの魔石じゃあ、銅貨1枚にしかならねえが、3個持っているかい。」

「はい、大丈夫です。」


 門番に魔石を3個渡して町に入ることができた。

 冒険者ギルドの発行する登録証があれば、通行は自由にできると教わったので、早速冒険者ギルドにいった。


「すみません、冒険者登録したいんですけど。」

「登録には銀貨一枚必要ですが、お持ちですか?」

「あっ、ゴブリンの魔石があるので、買い取ってほしいんですけど。」


 ゴブリンとツノウサギの魔石を全部買い取ってもらい、金貨5枚と銀貨3枚を手に入れた。

 これは、ギルドの新人職員の一か月分の収入らしい。


 冒険者申請書に記入するのだが、名前と年齢しか書けなかった。

 

「出身地は北西の山なんですが……。」

「あっ、山でいいですよ。」

「職業って……。」

「これまで職についたことは?」

「ありません。」

「家では何をしていたんですか?」

「主に狩りです。」

「じゃあ、狩人で。」


 こんな具合だった。

 

「最初はFランクからスタートしていただきます。」

「はい。」

「Fランクの依頼を30件こなすとEランクに昇格できます。」

「はい。」

「依頼は、毎朝5時にあそこの掲示板に張り出されますが、Fランクで受注できる依頼はほとんどありませんので、こちらの常設依頼をやっていただく方が確実です。」

「この薬草や毒消しのサンプルってありますか?」

「そこの鉢植えにあるのが実物ですから、よく覚えてくださいね。」

「ありがとうございます。」


 鉢植えを確認すると、種類・名前・採集単位・採集方法・報奨額が記載されていた。

 俺はそれぞれの匂いを鼻に叩き込んだ。

 周りの冒険者からは奇異の目で見られたが、俺にはオオカミの嗅覚があるのだ。

 ともかく、依頼をこなして収入を得なければ暮らしていけない。

 俺は道具屋で背負い籠とスコップを買って町の外に出た。


 薬草と毒消し草は森の周辺に生え、魔力ポーションの原料となるマナ草は森の中。傷薬の原料であるハリタ草は岩山に生えるという。

 一番単価が高いのはマナ草なので、俺は森の中に入っていった。

 ハリタ草以外は根が材料となるため、傷つけないよう慎重に掘り出す必要がある。

 薬草と毒消し草は簡単に見つけることができる。

 ここで俺は失敗に気が付いた。

 背負い籠にむき出しだと、その匂いで生えているものが認識できないのだ。

 仕方なく籠をおろして匂いを確認して掘り出すという無駄な手間が増えてしまった。


 それでも、籠いっぱいのマナ草を採集してギルドに戻った。


「すごいですね。見つけにくいマナ草をこんなに沢山。」


 マナ草は2本で1依頼単位となるため、俺は初日で15の依頼達成となった。

 報奨金は銀貨15枚である。

 そして、初日の失敗から、籠の外側に皮を張り、フタを自作して匂い対策をした。

 この成果で、翌日にはマナ草を56本採集し、無事にEランクへと昇格した。


 次のDランクには、依頼を50回達成する必要がある。

 薬草と毒消し草・マナ草については依頼単位が2倍になる。

 さらに、山犬などが討伐対象に加わったが、獲物の運搬が大変になるため、荷車がないと効率が悪いらしい。

 俺は引き続きマナ草の採集を選択した。


 そして5日後、俺はDランクに昇格した。

 ここまでは、多くの冒険者が容易に到達できるらしい。

 ここからは薬草類の採集が外れ、討伐だけになってしまう。

 そのため、ここで足止めされている冒険者が大勢いるのだ。


「可能ならば、他の冒険者とパーティーを組んだほうが良いですよ。」

「パーティーですか。」

「はい。報酬やポイントは人数で分割されてしまいますが、大勢ならば受けられる依頼も増えますし、上位ランクの冒険者と組めば上の依頼を受けることもできますしね。」

「あー、でも一人が性に合っているのでいいです。」


 他の人と組んだら、触手とかのスキルが使えなくなってしまう。

 何より、食事代わりに吸収で腹を満たすことができなくなってしまうじゃないか。

 俺はソロでやっていくことを選んだ。


 魔物を討伐した証拠として、討伐証明部位というものが設定されている。

 簡単な覚え方としては、左耳・左前足・左手だ。

 食用にできるものは全身を持ち帰ることが推奨されているが、証明部位ならば運搬も楽にすむ。

 耳が部位にせっていされているものは少なく、ゴブリンのほか数種類しかない。

 これは匂いが強烈に臭く、腐敗が早い魔物に限られている。


 Dランクの常設依頼として一般的なのはゴブリン10体だが、ゴブリン討伐でCランクに昇格するためには、1000匹の討伐が必要となる。

 それならば、オークや山犬3匹の方が現実的かもしれない。

 オークは肉の買取も魅力的で、だいたい金貨1枚で買いとってくれるらしい。

 肉目的ならば、月に5匹も倒せば十分に生活できる報酬になる。

 オーク狙いの冒険者は、荷車を引いていることが多いので分かりやすいと聞く。


 だが俺は、山犬を討伐することにした。

 理由は、群れでいることが多く、数を見込めるからだ。



【あとがき】

 冒険者活動スタートです。

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