22. 形の変化

(オスクリタ視点)


誰かが治癒魔法を使ったか…。

と思い砂が舞っていた、俺があの男を殴り飛ばした場所を見るが、そこには誰もいなかった。ということは…

「自分で治癒魔法を使ったか…」

偶然切り落とした腕が近くに落ちていたのだろう。


そんな考えをしている間に男は俺に向かって殴りかかってくる。

「…今度は殴り合いか。良いだろう」

とそれに俺も応じ、重い闇を拳に纏い殴りかかるが…


ドッ!ドガ!ガガガッ!

「…」

何度も拳が打ち合う。何度も。それほど向こうの力は自分の重い闇に負けないものだった。


…いや、それはおかしい。


もしそうであったなら最初から俺に近づき、殴る、といった事を起こすはず。俺の力はこの世で最も強いといっても過言ではない。それと同じ力を持つなら魔法で戦う事はない。むしろ先ほどの魔法が限界であればなおさらだ。


何かがおかしい


「どうした?汗が出ているようだが…苦しいのか?」

「…」

目の前の男の顔や拳には汗が流れており、苦しいのは明らかだ。

先ほどの女もどこかに行ってしまった。力の差を感じ、逃げたか?少なくともこの男が来るまでの時間稼ぎは出来ていた。…惜しいな。壊し損ねた。


そうしてしばらく殴り合っていたが…

「もう良いだろう。つまらなくなってきた」

と思い、少し男から離れ、腕の闇を剣の形に変えた。


「ただの殴り合い。魔法を使わない、おまけにしゃべりもしない。まださっきの美しい女の話を聞いている方が面白かった」

と言って、腕の刃を男に向かって思いっきり振り下ろした。



おかしい



「…僕は魔法が使えないからね。それにだからこれで良いんだよ」

俺の刃は確実に目の前の男を壊す、殺すはずだった。

防がれた訳ではない。しっかりと目の前の男に刃を入っていた。…がには入っていなかった。


「僕はする。何者にも何物にも」

男の身体は俺の刃を避けるように変わっていた。服も何もかもが、俺の刃を避けていた。


気づくべきだった。男の腕を切り落としたのに、目の前の男の服には事に。


「チッ!」

俺は刃を男の身体を切り刻もうと動かすが、男の身体は俺の刃に合わせて変わり一向に傷をつけられない。


ズバッ!

そうしているうちに水属性魔法が俺の肩を貫いた。思わず目の前の男から離れた。


そして魔法が飛んで来た方向を見ると…

「そこにいたか…ゴトと言ったか…」

切り落とした右の腕は治っており、服は右腕のみ破れている。そんな格好のゴトがそこにいた。


====


(少し時は戻り、ゴト視点)


危なかったぁ……


周りは砂が舞って何も見えないが、どこかの大きい岩にぶつかったんだろう。

「さて、どうしようか」

今オスクリタが何もやってこないってことは、立て直す時間が出来ているな。ただ…

「正直無理だろこれ…どう勝つんだ?」

どんな魔法も防がれる。俺、殴り合いとか剣による斬り合いとか無理だぞ。それに右腕もないからあまり長い間戦ってられない。


と思っていると

「ここにいたのか。ゴト」

「その声はスランか」

声の響きからして白髪の人型か。防御魔法を解くとスランに左腕を掴まれて身体を起こされ、別の岩の陰に移された。そこには

「ゴトさん!」

ユアさんとガラストさんがいた。

「なんでここに?」

「ユアちゃんは治癒魔法を使えるからね。怪我人を治すためにギルド員に馬で追って呼んできてもらったんだ」

と何か持っていたガラストさんが言った。何持ってるの?

「それよりも、早くやりますよ」

「何を?」

本当に何をやるの?


「何って治すんですよ。その右の腕を」


「は?」

そんな事、治癒魔法で出来たっけ?

「…何やら怪しんでいる顔をしているね。ユアちゃんの治癒魔法は国の魔導師からも一目いちもく置かれている程なんだよ。切り落とされたぐらいなら治せる」

と切られた腕を持ちながらガラストさんは答える。

「まぁ、時間はかかりますが…。その間攻撃されないように守って下さいよ。ギルド長」

「分かったよ」

とユアさんとガラストさんは話しているが


「僕が時間を稼いでくるから…心配しなくていいよ」

とスランは今の俺に変化しながらそう言った。

「じゃあ、倒してきてくれ」

と冗談交じりに言ってみると

「ハハハ、普通の相手なら倒せるけど君がこうなる敵には無理だよ。ただ、僕は絶対に倒れないよ」

と言い、舞う砂が少なくなってきた中、スランは飛び出していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る