4. 猫を被る妹

ファウシーは俺の妹ではあるが、血の繋がりは一切ない。


俺を産んだ母は病で亡くなった。なので父は2人目の妻を迎え入れた。これ自体は別にない話では無いが、俺にとっての2人目の母には貴族の未婚の女性でありながらもすでに子がいた。それがファウシーだ。

何でも貴族の生活が嫌になった時があり、度々家を飛び出して男を遊び回っていたとのこと。


子を授かったと分かった時には貴族であるファウシーの母は親に叱られ、ファウシーの実の父は処刑されかけたそう。ただファウシーの母が「殺すのは止めて欲しい」と許しを乞い、その結果ファウシーの実の父は奴隷でもキツいところで働くことになった。

ファウシーが生まれてから数年は会っていたそうだが、働いていた場所で不幸にも死んでしまった。

そんな中、母代わりがほしい俺の父に見つかったから今のようになったらしい。


ファウシーは特に父の前ではおとなしかったが…


兄様あにさま!やっぱりそこにいましたのね!」


それ以外では妙にせわしい。特に俺と遊ぶ時は凄く元気だった。


「…なんでいるの?なんで来たの?」

と馬に乗っているファウシーに聞くと

「兄様に会う為です!兄様の隣にはこの私がいないといけないのです!」

いや、そんなことはないだろ。

「安心してください!馬車を無理に止めようとはしません!次の街に止まるまでスランを馬車と横並びになるように走らせます!」


ファウシーが乗っているスランと呼ばれた白い馬が「え?」と言わんばかりに首を曲げてファウシーに目を向けている。スラン、頑張れ。


====


そして俺が名前の知らない街にたどり着いた。ここ、どこの街だ?


「着きましたオブライト!母様かあさまが旨いと言っていた焼き肉がここに…」

あ、そうなんだ…というか…

「俺を連れ戻しに来た訳じゃないのか?」

自慢じゃないけど俺は妹から異常なほど好かれている。だから奴隷なり適当な扱いで連れ戻しに来たとしても不思議じゃない。


「はい?私も兄様と一緒に旅をしますけど?」


「は?誰かに言ったのか?」

「簡単な書き置きは残してきました!」


====

(三人称視点)


スラルランド家の屋敷 ファウシーの部屋


コンコン

メイドが扉をノックするが反応はない。だが、反応が無いことが普通であるかのように扉を開ける。

「失礼します。……いませんね」


メイドはファウシーがいないのを確認すると、いつも通り掃除をし始めた。



「ん?」

と机にいつもはない手紙が置いてあるのをメイドは発見した。

手紙を開けてみると…


『行ってくる!』


と一言書かれていた。


「…」


「どこに?」


====


「じゃあ、いっか。後でギルドに団体登録しに行くぞ。ファウシーは冒険者の登録はしてたっけ?」


「いえ、欲しいなら今すぐしてきます!」「時間がかかるから止めろ」

ファウシーの冒険者登録は戻ってからでいい。別に冒険者の依頼に普通の人がついて行ってはだめという規則はない。


「とりあえず俺たちはこのままゴウフトまで行くから…」

「あ、ここじゃないんですね!じゃあ、行きますよ!スラン!」

ヘロヘロで、木の大きな器に入れられた水を飲んでいたスランが後ずさりする。そりゃそうだろな。


「スランに無理させんな。休みながら来い。俺はゴウフトから逃げはしないから」

とファウシーに言うと

「…分かりました。スランを十分に休ませて、私もちゃんと準備をしてからゴウフトに向かいます!」


====


「…なんというか…すごい人」

「妹は俺の前ではああいうやつだからな」

あれで頭はそこそこ良いからな。学園ではおとなしくて真面目な人と思われているらしいが、俺からしてみれば何の冗談だと思う。屋敷でろくに勉強してないんだぞ。


ガタン!ガラガラガタン


俺たちはそのまま馬車に乗り、ゴウフトの隣街であるシュベールで馬車から降り、そこからゴウフトに歩いてむかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る