じゃがいも饅頭

 じゃがいもは万能だ。


 炒めればシャキシャキ、蒸せばホクホク、煮ればトロトロ、揚げればカリカリ……。そんな数多に使いようのあるじゃがいもだが、僕の大好物は『じゃがいも饅頭』である。


 まずは蒸し器に皮を剥いたじゃがいもを入れて、柔らかくなるまで蒸す。

 これは量と大きさにもよるが、大体20分ぐらいが目安だ。


 蒸し上がったら素早く手鍋に移して潰し、そこに少しのバターを入れて焦げないように混ぜながら水分を飛ばすため、弱火にかける。水っぽいじゃがいもがバターの甘い香りを乗せてホクホクになったら火を止め、ボウルに移す。そこに牛乳を少しづつ入れ、じゃがいもが滑らかなペーストになるまで混ぜる。


 じゃがいもの生地が出来上がったら、小粒のモッツァレラチーズを一粒入れて団子を作る。この時に欲張って大きい団子にすると、後で油に入れた時に後悔するので、僕は大体ゴルフボールぐらいを目安に包んでゆく。


 そのまま黙々と団子を作りバットに並べると、バットごと冷蔵庫に入れて放置した。これはクリームコロッケを作る時にも言える事だが、こういった温めると柔らかくなる生地はそのまま油に入れると油の中で爆発して厄介なので、この一手間がかなり重要になる。


 団子を冷やしている間に僕は別の手鍋に水、昆布、醤油、酒少々と砂糖をひとつまみ入れて火にかける。これはじゃがいも饅頭に掛ける餡なので、味付けは少し濃いめにしたほうがいい。

 昆布が開いて出汁にとろみが出た頃に火を止め、水溶き片栗粉を回し入れてとろりとするまでよく混ぜる。


 火をつけたままにしたり、ちゃんと混ぜてやらないと片栗粉がダマになる。せっかく口当たりよく作ったじゃがいもが台無しになっては申し訳ないので、これも必須科目だ。


 餡が完成し、あれこれ仕事やら昼寝やらをこなした後、思い出したかのように油の入った鍋を火にかけた僕は、180℃に温度を設定して温める。


 僕の家のガスコンロは優秀なので、温度を設定するだけで自動で温めてその温度を保持してくれるが、「そんなもんねぇよ!」という方は乾いた菜箸を油に突っ込んで、泡の出方を確認して頂きたい。


 中温である180℃は、菜箸を入れたとき全体から少し大きめの泡が絶え間なく上がるので、そのサインが出たら冷やした団子を水溶き小麦粉の衣に潜らせて油に投入する。細かい泡が出て少し団子が沈み、やや暫くすると白くなって水面に上昇する。泡が少し大きくなり、菜箸で掴むと微かに震える感覚があったら素早く油から取り出す。


 熱々の饅頭の油がある程度切れたら器に盛り付け、作っておいた餡、茹でて千切りにしたエンドウを添える。


 カラリと揚がった衣、ふわふわトロトロのじゃがいもペースト、そして中からとろけるチーズと和風餡の味が絡む……。ここまでの手間を忘れるほどの美味しさを想像しながら僕は席につく。


 僕は手を合わせた。


「いただきます」

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