スノーボール
晴天の日に降る雪は、幻想的で綺麗だ。
唐突にそんなことが浮かんだのは、スノーボールを食べたせい。スノーボールと言うのは、真っ白な粉砂糖に覆われた焼き菓子である。
昔、彼女に手取り足取り教えてもらいながら作ったのだ。
材料は無塩バター、胡桃、アーモンドパウダーと小麦粉、それから粉砂糖。まずバターは常温に戻す……と、言っても出しっぱなしにして柔らかくするだけで、技術なんてものは要らないのだが。
バターが柔らかくなるまでには少し時間がかかるので、トースターに銀紙を敷いて、焦げない様に胡桃を低温で乾煎りする。元来ナッツ類は油分が多いので、こうやって火を通すだけでかなり味が変わる。特にカシューナッツとかはじんわりと甘味が出るので、家にナッツが余っている人は試してみると良い。胡桃がナッツ特有の甘く香ばしい香りになったらトースターを止め、粗熱を取る。
柔らかくなったバターをボウルに入れ、白くペーストになるまで泡立て器で混ぜる。ここで硬いバターを使うと泡立て器の溝に入り、出てこなくなってイライラするので要注意である。
その後測っておいた粉砂糖を入れて、空気を包む様に再度混ぜる。白さが一段と増してきた頃、ザルで振るっておいた小麦粉を入れて、今度はゴムベラでサックリ混ぜる。
お菓子作りは面倒だから省略することも多々あるけれど、粉を振るう行程をとばすと本当にダマになって後悔したのでちゃんと振るう事にしている。
もう少し言うと小麦粉はグルテンの塊なので、練り混ぜると食感が悪くなるらしく、小麦粉を入れた後は必ずサックリと混ぜるらしい。
まぁ、全て元カノの受け売りだが。
その後も続いてアーモンドパウダーを入れ、これまたサックリと混ぜる。大体この流れで作業すると、乾煎りした胡桃が冷めているので包丁で粗く刻んで混ぜ合わせる。
ここまで来れば、後は小さく丸めて焼くだけ。
水分が少ないせいでボロボロと崩れやすい生地なので、手の小さい彼女の様に上手く丸められない僕は握って玉を形成した。
オーブンで20分。室内が手作りクッキーの香ばしい香りに包まれたら、オーブンから出して粗熱を取る。
バットに粉砂糖を入れて粗熱が取れたら転がしてまぶすのだが、あの時の僕は早く食べたくて熱々のクッキーを粉砂糖の上に転がして叱られていた。
──『それじゃあ砂糖が溶けちゃうでしょ!』
今でも彼女の声が耳に残っている。
──はいはい、分かってますよ。
僕は人肌程度に冷めたクッキーを、純白の雪みたいな粉砂糖の上で丁寧に転がした。口の中で淡く甘く、噛むとサクッと崩れてしまう食感に彼女との日々を重ね、僕は苦笑いする。
甘いクッキーに苦い思い出を乗せた僕は、バットを手に持ったまま席につく。
僕は手を合わせた。
「いただきます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます