第49話『捕縛』

「……て、違う違う! なに和解しそうな雰囲気になってんの! ほんと、脚出すわよ!」

「あなた別に体術が得意なわけじゃないですよね? 体術なら私の方に部がありますけど……」


 蜘蛛人族だと判明した少女がニヤリと笑い、糸を使って自分の体を持ち上げた。


「確かに体術は苦手。でも、私が脚を出したらあなたたちは生きて帰ることができないわ?」

「……殺し合いになるなら容赦しないぞ。肋骨程度は覚悟しておけ」

「そ、そんな生々しいこと言わないでよ!? ……ふん、いいわ。目の前でイチャイチャされた分、派手に殺してあげる」


 言い終えたその時、その少女の背から左右二本で対になった計四本のを生やした。


「クククっ……」

「体術じゃ無かったんですね」

「あぁ、どうやら彼女は蜘蛛人族って言うらしい」

「クク……なんであまり驚かないのよ!? もう私の秘密を知ったからには、絶対に殺すって言ってるのよ!」

「そのヒョロい脚生やして何ができるんですか?」

「うーざーい———ッ!!!」


 可哀想になってきた。とは言え、こんなところで足止め食いたくは無かったからな。すぐに終わらせたいものだ。


「別に俺らは君たちをどうこうしたいわけじゃないんだ。森を抜けさせてくれればそれで十分。争う必要はない」

「うるさい! 私を馬鹿にした罪は払ってもらうから!」


 なんだか蜘蛛人族の掟に従って殺すと言う目的から私情により殺すに変わってきているような……。


「ぐるぐるのベタベタになっちゃえ!」

「言語が幼児退行している……」


 両手の指から計十本。右手左手それぞれの糸で俺とアイリスを同時に絡め取ろうとした。


「アフエラ、416を」

〔了〕


 かっこよく短く応答したアフエラは、インベントリから『HK416』と言うアサルトライフルを出し、目の前に放り投げてくれた。


 五本の糸が木漏れ日によって光ったところを撃ち抜く。なるべく根元側を狙い、糸を断ち切る。


「な、なんなのよあなたのその能力!? 何してるか全くわからないじゃない!」

「……だよな? 普通見えないよな?」


 ワノさんをはじめとしたこの世界の住人は弾丸を斬り捨てるから恐ろしい。


「隙あり!」


 糸をものともせず突撃するアイリスが斬撃を放つ。恐ろしく早いものの、その一閃は届かなかった。

 背に生やした脚を使ってグッと後退し、周辺にある糸に絡めてその身を宙に留める。


「あ、あなたたち少し強すぎない!? (……ただの人間がこんなに強いなんて大老様は教えてくれなかったわ……!)もう……こうなったら仲間を呼ばせてもらうわよ……!」

「もうなんでもいいから早くしてくれ。いくら日陰とはいえ暑くなってきた」


 出会ったのが魔獣なら躊躇いなく殺れるが、人の形をしているとどうも殺りにくい。


 そんなことを考えながら少女を見上げていると、とある糸を一本小指でピンッ……と弾く。


〔三つの生体反応を確認。気をつけてください〕

「……なんか面倒だな。(いっそ捕縛されて脱出した方が早い気がする)」

「(……そうですね。様子を見て武器を収めましょうか)」


 こっそりとアイリスに耳打ちをした数秒後、三人の蜘蛛人族と見られる少年少女がやってきた。


「ふむ、人間の侵入者か。……それよりキヌ、なぜ侵入者の前で脚を出した」

「う、うぐ……」

「後で説教だ。それより貴様ら、この地になぜ入り込んだ」

「ただちょっと近み——」

〔ポーン♪〕

 捕縛されやすそうな嘘をつきましょう。


 アフエラからアドバイスがきた。捕縛されやすそうな? ふむ、どうしようか。


「……ちょっとこの森に寄ってみたかったんだ。そしたらそこのキヌ? って子があれこれ教えてくれたんだよねー(棒)」

「……なに?」

「わわわ私何も言ってないよ!?」


 ギロリとキヌを睨む背の高い少年。

 悪いなキヌさん。利用させてもらうぞ。

 俺の意図を汲み取ったのか、アイリスも口を挟む。


「そうそう、でもいっぱい探検できたし、もう帰っちゃおうかな〜♪」


 頭の回転がお早いものだ。


と合流したいしなー」


 よし完璧だ。

 蜘蛛人族は人間社会に自分たちの存在が出回ることを嫌っている。『先に帰った仲間』といえばどの人物だか知りたがるはずだ。

 ほれサッサと捕まえて森の中心まで運んでくれ。まだ森の四分の一も進めていないんだから。


 アイコンタクトをとった蜘蛛人族三人は一斉に構えをとって敵対する意志を表した。


「待て待て……降参だ」

「こーさーん!」


 身につけていた武装を外し、手を挙げる。

 ちなみにアフエラに武器は回収してもらっているのでいざとなったら手元に出してもらう。


「……なんの真似だ」

「流石に三人を相手にできる技量はない」

「え、でもさっき私手も足も……」

「ゴホンゴホン。だから、話し合いなんてどうかなってね」

「う、嘘よ! そうやって油断させる作戦よ!」

「ゴホンゴホン」


 キヌよ、黙っててくれ。


「喉の調子でも悪いのか?」

「え? あ、あぁ。森に入ってから水を飲んでなくてね」

「そうか。水がないなら果実を食べるのがいいぞ」

「お、おう……」

「ちょっとサテンさん!? なに優しさ見せてるのよ!」


 このリーダーみたいな少年はサテンと言うのか。蜘蛛人族は基本的に温厚なのか?


「……そうだったな。とりあえず、お前たちを捕縛させてもらう」

「おーやっと! 待ってましたー!」

「……貴様、そう言う趣味か?」

「あ、いや違くて……」


 アイリスが余計なこと言って恥かいてる。

 すると、サテンの指示に従うように控えていた二人が俺らを糸で拘束する。

 思ったより縛る力がキツくない。


「……[付与術エンチャント・『耐久Ⅰ』]」


 ボソッと放ったその詠唱を聴き逃さなかった。

 そして、縛る糸にも違和感を感じた。


「(……動かない? 硬いな)」


 エンチャント……か。

 ゲーム的な知識で言えば対象の魔法強化か。今回の場合は糸に強化をしたのか?

 そうこう考えていると、サテンが背から脚を生やして近づいてきた。


「お前達には少しの間眠ってもらう」


 伸びてきた脚の先が首をチクリとした時、意識が薄れていった。

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