第42話『賭け』

 フルオートでぶっ放す。魔力を枯渇させるために全弾を。

 その銃声の中、甲高い金属音が背後で聞こえた。

 振り返るとワノさんが倒れていた。


「わ、ワノさん!?」

「すまぬ。私の妖力が尽きたようじゃ……」

「嘘っ!? 一発に全て乗せたんですか!?」

「それは違うな。一発限りと言った方が正しいのぅ」

「なおさら酷い賭けですよ!?」


 なんてことだ。リロードの最中はワノさんに攻撃を続けてもらおうと思ってたのに。

 ワノさんからキメラを離すように誘導して抗戦を続ける。


「魔石が切れるか、キメラの魔力が枯れるかか……」


 勝ち筋はそれしか無い。我慢比べのような戦いだ。

 ハンデはこっちの方が背負っているだろう。

 こちらは攻撃を喰らってはいけない上、精密な射撃が求められる。

 最悪の場合、ミスリル製のナイフがあるから弾丸無しでもダメージ自体は与えられるが、俺のリスクは跳ね上がる。


「クソ……もう最悪だろ!」


 奇形の生き物は心臓部が分かりづらい。今回みたいな、出来るだけ弾丸を外してはいけない場面で頭は狙いづらい。

 さらに焦るべき事態が起こる。

 倒れているワノさんの元に、斧を持った女性が近づいた。


「お前っ!!」


 ワノさんに近づけると守りながら戦わなければいけなくなるからと、キメラをワノさんから離していたが、敵は一体じゃなかったことを忘れていた。


「何じゃ? トドメでも刺すつもりかの?」

「いいや違うな。お前みたいな邪魔者がいるとトラノブ君のパフォーマンスが落ちるからねぇ?」


 チョークを取り出した女性はワノさんの周りに魔法陣を描き、それを強く踏んだ。


「しかし、お前もなかなかの強さだった。機会があれば闘おう」

「私の目的はお主の首を取ることじゃ」


 光と共に、ワノさんは姿を消した。

 女性はと言うと、壁を蹴って屋根の上に登っていた。


 ワノさんは無事か、それが気になって俺は躍起になりそうだった。

 キメラを蹴り、自分が跳ね飛んで距離を取る。

 そのままフルオートの416を全弾ぶち込む。

 銃弾全部打ち込んで、さっさと魔力を枯らせたかった。

 銃弾全部打ち込んで……ありだな。


「アフエラ、俺を解析しろ」

〔了解しました。……マスターの意を汲み取ります〕


 そう返事したアフエラの画面には〔craft inventory full active〕と表示されていた。


〔スナイパーライフル・ショットガン・LMGライトマシンガンを各種一つずつ作成板します。状況に応じた武器への持ち替えをサポートいたします〕

「よろしく頼むよ」


 弾切れになった416を上へ放り投げ、キメラに手を向ける。

 猛スピードで迫るキメラに俺は怖気付かない。

 アフエラを信じている。

 この状況での最適解を。


『縺弱e縺√=縺ゅ≠縺ゅ≠!!』


 鋭い牙が俺の伸ばした腕を肘の辺りまで伸びてきた。


——ダンッ!


『縺弱e縺√=縺ゅ≠縺ゅ≠!?』


 口の中での炸裂音の後、ゆっくりと尻餅を着くキメラ。

 牙の奥から出てくるのは俺の腕、そして真っ白な銃。

 平さのあるショットガンが俺の手に握られている。


〔『AA-12』です。珍しいフルオートのショットガンです〕


 そう告げたアフエラが、空間からポンと吐き出すようにドラムマガジンを吐き出す。


「何発だ?」

〔三十二発です〕

「恐ろしいもんだ」


 体制を立て直そうと起き上がるキメラにフルオートのショットガン『AA-12』を叩き込む。

 装弾ショットシェルに封入された数多の小石弾強化された石片がキメラの分厚い皮膚を襲う。

 再生が追いつかないスピードで削られる皮膚は肉と骨を剥き出しにさせ、腹の内側にキラリと光る物を露わにする。

 それは俺もよくお世話になっている『魔石』だった。

 素早くベレッタに持ち替え、その魔石を撃ち抜く。

 ガシャンッ! と言う砕けた音を鳴らすと、そのまま光を失って機能を停止する。

 生きたままの魔石は、砕けると再生しないようだ。


『縺弱e縺√=縺ゅ≠縺ゅ≠!?』

〔解析結果、この魔物の体内には残り九つの魔石があると予想します。魔力を枯らすより早く潰すことができれば早期撃退ができると思われます〕

「そうか。……簡単だ」


 痛みに悶えるような様子で暴れ回るキメラにAA-12の銃口を向ける。

 暴れ回るキメラの動きを正確に予測し、頭を狙って引き金を引く。

 射出されたのは散弾ではなく、貫通性の高い弾丸。

 俺の手にあったAA-12は、細長くも力強い銃へと変わっていた。


〔『M110 SASS』セミオートのスナイパーライフルです〕


 額のど真ん中に命中した弾丸は、脳部分にあった魔石諸共貫いた。

 魔石を二つ潰しただけでだいぶ動きが鈍くなったな。


「お前が望むシーンはもうないぞ。銃の機構は銃ごとに違ってくるからな。それでもお前は観るのか?」


 M110を斧を持った女性に向けて放つと、ハエを叩き伏せるように弾丸を斬った。


「私の心配かい? 安心しな、私はショーの途中で席を立つ人間じゃない」


「そうかよ。第二幕……銃躙蹂躙だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る