第43話『カウンター』

 一方的、袋叩き。

 そんな言葉が似合う蹂躙。

 今まさに、人間とキメラの間に起こる劇が表している。


 向く爪も、剥く牙も。

 キメラの武器は銃弾の前で無力さに砕ける。


 キメラが体制を崩しかけた瞬間を狙って、M110の引き金を引く。

 重量のある破裂音が鳴り響き、鋭い弾丸が眼球を貫く。

 崩しかけだった体制は完全に崩れ、大きな隙が生まれる。


 スナイパーライフルM110を真上に放り投げ、アフエラが作成したであろう新しい銃を呼ぶ。

 ショットガン、スナイパーライフルと来た。次はマシンガンのはずだ。


〔RPKです〕


 そう告げられるや否や、俺はRPKを豪快に唸らせた。

 連射に特化したマシンガン。

 小刻みに肩へ伝わる振動が、キメラに浴びせる銃弾の数を知らせる。

 再生が追いつかないほどの連射力が、血肉を掻き分けて魔石を露わにする。


「おっらぁぁぁあああ!」


 腰から引き抜いたナイフを突き立てて魔石を粉砕する。


——あと七つ!


 追撃を入れるべくナイフを引き抜いたその瞬間。

 つまり、順調にキメラを追い詰めることができているという現状の油断。命の取り合いをしていると言うことが頭から抜けてしまっていた。

 『緊張ナイフ』が抜けてしまったのだ。


 気づいた時にはもう遅かった。

 からだを犠牲にしての反撃カウンターが、俺の腹へと鋭く打ち込まれた。


 骸灰の衣には特殊効果として『衝撃受け流し』がついている。

 なかなかのチート効果で、受け流すことでダメージを無効化にすることができるのだ。

 しかし、それはで効果を発揮する。

 無効化できない具体的な例を挙げるとしたら、サーミス湖に上空から落下した際の水面に叩きつけられた際に発生した衝撃。

 受け流せる先がない場合、体には痛覚の代わりに大きな負荷がかかる。


 あの時は……肺から空気が押し出されて溺死しそうだった。


「——がは……っ!?」


 俺の体に垂直に、そして体の中央ドンピシャに薙ぎ払うように繰り出された脚は、そのままの質量を持ってして繰り出された。


 二、三回転ほど空中で揉まれ、受け身も取れないまま地面に転がされる。


「やっ……べぇ……っ! 痛すぎる……っ」


 普通であれば、骨格から内臓までぐちゃぐちゃになりかねない吹っ飛ばしようではあったが、衝撃受け流しのおかげで痛みだけで済んだ。

 しかし、強がりや根性でどうにかなるような痛みではない。


 散々とやられていたキメラも、俺に怒りをぶつけるべくこちらに走ってきている。

 対抗するべく、一緒になって吹っ飛ばされたRPKを拾い上げようとして激痛が走る。


——手が痺れてる……っ! ナイフすらまともに握れない!


 段々と近づいてくるキメラをどうしようか、どうにか対抗せねばと思考を巡らせていると、アフエラが突如、銃諸々をインベントリに仕舞い始めた。


「な、何して——」

〔なぞなぞです。上は大火事、下は洪水。なんでしょうか?〕

「五右衛門風呂だろそれ!! 今そんなことしてる場合じゃ——!」


 ……待て? 上が大火事なのか?

 アフエラは何言ってるんだ? そもそもコイツがこの場でふざけるのか? 何か意味があってのことなのか……?


〔マスター。落ち着いてください〕

「落ち……着く……」


 俺は今、何をしてる?

 持てもしない銃やナイフに手を伸ばして、ただキメラに攻撃を喰らわせることだけを考えて……。


 視野が狭い。


 対抗だ何だと言って攻撃しか考えにない脳筋か? 違うね。俺はコメントを見ながらゲームができたゲーム実況者セトラだ。


「……そう言うことか」


 俺は深呼吸をして地面に寝っ転がる。

 深く息を吸い、気持ちを落ち着かせると自分の心音が聞こえる。


 俺、だいぶ頑張ってたな。急ぎすぎてたか。


 一旦、クールタイムだ。



〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜



 姉さんの姿が見えませんが、今は目の前に集中しましょう。

 名前なんでしたっけ……。確かアイリスさんは『セトラさん』と言っていましたか。

 本名はもう少し奇妙な名前だったはずですが。


 さて、相手は見たこともない奇形の魔獣。

 今の所、セツラさんの方が優勢のようですが……あ、腹パンで吹っ飛んだ。

 滞空時間三秒ですか。これは結構な威力ですね。死んじゃいましたかね?

 あ、動いてますね。でも膝をつくのでやっとですか。これはマズイですね。


 しかし、私ならこの状況を水に流した上で優位に焚き付けることができます。


「【〈クォイッシュネム〉・イーニス・エストス・フラァマ・オーサコンボシツ】……」


 久しぶりですね、『連立魔法』は。


「【〈コンティーヌェ〉・アークア・フルーメン・オチェアノス・デグルティレモンドム】」


 大量の水が辺りを満たし、瓦礫を巻き込んで濁流と化す。

 一方、先に詠唱が完成していた火属性魔法がその上を焼く。

 使用者の私の足元は濁流が流れ込み、激しい熱風で肌が焼けるような感覚を味わう。

 ごっそりと魔力が削られたが、立ちくらみが起こる程ではない。


 起点は作りましたよ、セスラさん。


 一緒に畳み掛けましょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る