第39話『大異変の始まり』

 この王都をお守りくださっております我らが神『シーモニザ様』へ、今日も礼拝をする。


(本日もどうか、この街をお見守りください……)


 女神像からの神力がこの王都を包み、魔獣の発生を抑え込んでくださっている。

 本当に、シーモニザ様には頭が上がらない。


 いつも通りに感謝を伝えていた。

 そんな時。爆発音が鳴り響き、天井の一部が崩れ落ちてきた。


「!? なんですか!?」


 聖堂にいた人たちが一斉に立ち上がり、一般の方の避難を誘導したり、魔法結界を張る。


「この程度の結界か? 舐められたもんだな」


 上から女性の声でそう聞こえた。

 その方角に注目すると、結界の上に立って斧を振り上げている女性がいた。

 振り下ろされた斧は結界をいとも簡単に貫き、粉砕させた。


「嘘っ!? 結界が……!」

「ほう? 神官なんて大したことがないんだな。まぁいい。お前らなんて正直どうでもいい。私の目的は……コイツだからなっ!」


 女神像に詰め寄り、首の辺りを一瞬で掻っ切ってしまった。


「なんて非道ひどいことを……!!」

「罰当たりなっ!?」

「ククッ……神の力を利用するだけのお前らが、バチだのなんだのほざくんじゃねぇぞ? 用も済んだ。お前らはさっさと逃げたらどうだ?」


 その女性は腰からチョークを取り出し、地面に魔法陣を描いてこちらを見る。

 その表情は笑っており、まるで格下を見るような目をしていた。


「お前らの死なんて、私からしたらどうでもいい」


 そう言うと、女性は魔法陣を発動させてこの場から消えた。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


「何事だ?」

「教会の方が騒がしいぞ!?」

「屋根が燃えてますね。穴も空いているように見えますが……」

「ひぃ!? リーちゃん、もう始まっちゃったの!? ミドリナが沈んじゃうの!?」

「ラムム。落ち着いて。まだそうと決まったわけじゃない」


 爆発音、悲鳴、荒れる人の流れ。

 爆発地点から離れるように人々は走り、逆に冒険者の類が事態の沈静化のため爆発地点に駆け寄る。


「セトラさん、あれ……!」

「……デグルベア? なんで街中に……」

「ミナセ! なんか屋根の上にも魔獣がいるぞ!?」

「うわぁん! スタンなんちゃらだぁ〜!」

「ラムム。これは多分スタンピードじゃない。魔獣に統一性がない」

「そうですね。デグルの森に生息する魔獣、リフテリオ平原に生息する魔獣、さらにはマグゾート山の魔獣までいます……。王都が沈むと言うのも納得です……っ!」


 納得しちゃいかんだろアデンさんよ……。

 しかし、種類もそうだが数が多い。普通の冒険者では歯が立たないようで、ギルドの広場から飛び出した勇敢な冒険者たちが次々と退却してゆく。


「僕たちも行きましょうか! 腕がなりますね!」

「バカやめろ戦闘狂!? デグルベアに歯が立たなかったことを忘れたのか!?」

「あの頃のままではないでしょう? あの日は狩りの帰りでしたし、今は絶好調です。ね? リベンジするチャンスですよ!」


 アデンさんが嬉々として盾を構えた。そう言えばこの人盾しか持ってないのにどうやって戦うんだ!?

 と思っていたら盾を地面と水平に構えてデグルベアの腹に直接殴り込んだ。


「の、脳筋だ……。あんな丁寧な喋り方で脳筋だ……!!」

「お、恐ろしいですね。普通の冒険者がやってたら正気を疑いますね……」


 アイリスも引いている。でも盾役が崩しに入るならあの行動も妥当か?

 いや、それより周辺の魔獣をどうにかしないと……!

 ナイフを引き抜いた途端、俺の視界にあるものが映った。

 赤い刃の片手斧。フードを被った人間が、この惨事の中でゆっくりと屋根の上を歩いていた。

 ポケットに手を突っ込んだかと思うと、魔石を取り出してそれを斧で砕く。

 それと同時にあの不審者はその場を離れる。

 女性のいた場所にはデグルウルフが現れていた。


「アイリス、どうやら召喚魔法を使っている奴がいるらしい。俺はそいつを追いかけるから、街のみんなを避難させといてくれ」

「わ、わかりました! どうかご無事で!!」


 路地を駆け抜け、隣の大通りへと飛び出す。

 周辺を見まわし、目的の不審者を探す。


「(この大通りじゃない……向こうか?)」


 魔獣がちらほら飛びかかってくるが、全て避けるなり切りつけるなりしてミドリナを駆ける。

 屋根の上ばかりを見ていたのが迂闊だった。

 地面に魔法陣が描かれていることを忘れていた。


「嘘だろ!?」


 なんだ? 攻撃系じゃないならなんでもいい! 欲を言うならば転送魔法はごめんだ。時間の無駄……。


 今日の俺は、本当に運が悪いらしい……。

 踏んでしまった魔法陣は転送魔法だった。


「のわっ!?」

「何っ!?」


 飛ばされた場所にはなんと人がいた。

 故意ではないとはいえ、謝ろうとしたところで気づく。

 ぶつかった人はフードを被っており、斧を片手に持っていた。

 迷わずベレッタを引き抜き、相手に突きつける。


 今日の俺は、本当に運が良いらしい。

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