第38話『夢現』

 今日も朝がやってくる。

 顔を洗って朝食を食べ、歯を磨いて冒険者ギルドまで足を運ぶ。


「アフエラ。昨日の夜話したことなんだが……」


 昨日の夜、アフエラに話したことがある。

 それはもちろん帰り道で起きたことだ。

 斧を持った人で、おそらく道端に魔法陣を描いて巡る不審者である人物についてだ。

 何故か俺のことを標的にしていたし、銃についても知っていた。


〔解析の結果、人間でない可能性が出てきました。以降お気をつけください〕

「人間じゃない……となると亜人とか獣人か?」

〔エルフ、ドワーフ等の亜人から、ワーキャットやワーウルフ等の獣人の特徴とは当てはまりませんでした。しかし、体内に魔石の反応が見られたことから『魔族』である可能性があります〕

「この世界にもいるんだな。ゲームだけかと思っていたが……そうか、銃を手にして世界征服に近づこうとでもしたら……大変なことになってないか?」

〔めちゃんこ大変です〕


 何だよめちゃんこって。そう思いながら背の凍る思いをしていると、後ろから声をかけられた。


「ミナセ」

「? びっくりした」

「ミナセ。そんな風には見えない」


 やってきたのはタムヨスが率いるメンバーの内の一人、リリィだ。

 ちょっとした冗談を交えて話してみると、すぐに真面目な雰囲気になる。


「ミナセ。時が近い。準備して」

「時が近いって……俺が死ぬ夢を見たって話と関係してるのか?」


 以前不吉な夢を見たと報告されてからおおよそ一ヶ月だ。まじかぁ……もう命日近いのかぁ……。


「ミナセ。その悟ったような顔やめて」

「いやだって……余命宣告みたいなもんだし……」

「ミナセ。そんなこと無い。先週見た夢だと、ミナセ生きてた」

「……希望が見えたってことか?」


 コクリと頷くリリィ。しかし、その表情……ではなく雰囲気は苦い。


「ミナセ。厳しいけど、頑張ろうね。あと、ギルドには来て」

「了解。俺も今日はギルドに行こうと思ってたんだ」


 リリィと一緒にギルドに着くと、真っ先にアイリスが駆け寄ってきた。


「誰ですかその女!」

「リリィだ。そういえば話したこと無いか」

「リリィ。初めまして。あなたも話し合いに参加してほしい」

「ふぅ、セトラさんに女の影が出来たのかと思いましたよ。私はアイリスです」


 軽い自己紹介を終え、ギルド酒場に足を運ぶ。

 テーブルを囲んで真剣に話し合っているグループの元に近寄った。


「まとまるよりもバラけて戦った方が……お、ミナセ!」


 既にタムヨス達のメンバーは集まっていたようだ。

 皆んなして真剣かつ切羽詰まった表情だ。


「ミナセ聞いてくれ! リリィの見る夢が現実に現れることは知ってるよな!? もう状況が最悪なんだよ!」

「お、落ち着いてくれ。まだよくわかってないんだが、とにかく俺も加勢する。ひとまず座らせてくれ……」


 タムヨスのメンバーであるアデンとラムム、そしてリリィ。そこにアイリスと俺が加わって話し合いを始めた。


「それで、何が最悪なんだ? もう夢の段階からこの王都が沈むようなこと言っていただろう? これ以上どん底があるのか?」

「それは結果の話だ。俺らが危惧してるのは『王国騎士団の過半数がいない』ことだ。騎士団は『魔獣大行進スタンピード』を危惧してサーミス湖に調査をしに行ったんだ。Aランク冒険者を連れてな! もう終わりだこの国〜!!」

「お、落ち着けって……でもそうか……確かにやばいか」


 タムヨスの言う大半という数は、少なくとも半分以上は指しているだろう。この国における並大抵の事件を解決できるくらいの戦力は置いているだろうが、リリィの夢では王都が沈むとも言っていたな。そんな規模の事件を解決できるほどの戦力は無いと言ってもいいだろう。


「ミーくんとアーちゃんがいれば安心じゃ無いの?」

「流石にお二人の力があっても王国騎士団には匹敵しないのでは無いのでしょうか……」


 ラムムの疑問にアデンが答える。そう言えばこの人達から見た俺は少し過大評価だったか。


「……待ってください」


 静かに、そして深刻な声でアイリスが立ち上がった。

 どうしたのだろうとみんなの視線が集まる中、アイリスの視線はラムムに向いた。


「ど、どうしたの?」

「ラムムさん、でしたね? 今セトラさんのことを『ミーくん』と言いましたよね……? あなたはセトラさんとどう言った関係ですか!?」


 そんなことかい。てっきり王国騎士団なんて超えて見せるとでも言うのかと思ったのに。


「あ、あだ名だよー!? アーちゃんもミーくんのことセトラさんって呼んでるでしょ!?」

「あ、そう言うことでしたか。アーちゃんと言うのは私を指してたのですね」


 アイリスは今日色々突っかかってるな。リリィにもラムムにも警戒しすぎだろ。


「……とにかくだな、狭い範囲を守るよりも広くを監視しておいた方がいいと俺は思ってるん……」


 タムヨスがそう言い切る前に、爆発音と誰かの悲鳴が鳴り響く。


 賑わう街から人が消えるまで、残り三十分。

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