第37話『R-02』

「居ない?」

「えっと……はい。只今調査依頼の方に出かけていまして……」


 私は今、ミナセトラノブという人物を訪ねてギルドにやって来ている。

 見かけないから探してみたのだが、まさかミドリナにいないとは。


「……まあいいか。(下準備でもしているか……)」


 ギルドを後にして、人目のつかない路地裏にて麻袋の中を開ける。

 中には大量の魔石。全てが未使用の新品そのもの。

 輝きが失われていないことを確認して、袋を閉じる。


「さて、次に移るか。ふむ……教会の屋根に穴でも開ければ女神像を壊すのは簡単か……。さて……」


 壁に斧を刺しながら登り、民家の屋根に登る。

 素早く移動し、教会の屋根までやってくる。

 直径一メートルの爆発魔法を発動させる魔法陣を描く。

 あぁそうだ。いろんなところにいろんな魔法陣を描きに行くか。

 木を隠すなら森の中ってな。

 さて、どんな魔法陣を描いてやろうか。

 事前に騒ぎを起こしたい訳ではないし、爆破魔法は使わなくても良いだろう。ひとまず発光魔法でいいか。

 場所はどうしようか。あまりにも目立たない場所だと効果は薄いだろうし……ふむ。考えるのは面倒だ。道の真ん中に描いてやろうか。

 お試しとして、道の真ん中に大きく【フラッシュ】の魔法陣を描く。


「ふん、こんなものか。あとはそうだな……【ヒール】の魔法陣でも描いておくか」


 これで上手いこと混乱してくれればいいだろう。

 目的はあくまで『地面に無視できない落書きがある』と思わせること。屋根に魔法陣が描かれていると悟られないために必要なことだ。

 魔法陣は合計で二十ヶ所以上に描いておいた。

 発光魔法と回復魔法だけでは芸がないと思ったので、追加で転送魔法も仕掛けておくことにした。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


◆住人A

 頭痛薬を買いに行かなければ……。

 くっそ……調子に乗って酒飲みすぎたな……。あぁ……頭が痛い……いた……い?


「……? 痛くないぞ?」


 一瞬地面が光ったかと思うと、そこには教会なんかで見る魔法陣が描かれていた。数秒経つと消滅した。


「な、何でこんなところに魔法陣が……」


◆住人B

 ママと逸れた……。

 引っ越したばかりだからおうちの方向がわかんないよぅ……。

 当てもなく歩いてママを探していると、突如地面が光出した。


「きゃっ! な、なに……?」


 魔法陣の上に立っていたみたいで、急に発動したようだ。数秒経つと消滅した。


「アミちゃん! もう、ママの手を離しちゃダメでしょう? ごめんなさいね、人が多い場所なんか通って……さっき光ってたけど何だったの?」

「わ、わかんない……」


◆住人C

 遅刻する遅刻する遅刻するーー!!

 大事な彼女との初デートだと言うのに遅刻はまずい!

 間に合わないことは覚悟の上だが、少しでも早く着かなければ!

 と、走り続けて数秒。一瞬視界がブレたかと思うと、待ち合わせ場所の十メートル程手前にいた。


「あ、あれ?」

「あ、レイくん来た来た〜! 何かあったのかと思ったよぉ〜!」

「あ、あはは……お待たせ……?」


 間に合った。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 気のせいならいいのだが、悪戯じみたあの魔法陣がいい方向に転がっている気がしてならない。

 まぁ回復魔法は別にいいのだが、発光魔法や転送魔法は迷惑なはず。

 私は誰かの幸福なんて望んでいない。望んでいないからこそ、思い通りに行かないことが気に食わないのだが……。


「妙だな。特に悲鳴が聞こえてこない」


 やはり地味だったか? たかが光ったりするだけだと人間は驚かないか。

 ……いや、別に私は悪戯を楽しむタイプではないし、目的に反した気持ちを持つはずがない。


 ……しかし悔しいものだ。

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