第40話『助太刀一閃・再』
「いたた……。まさか自分が巻いたタネが悪さをするとは思わなかったよ」
「それは残念だったな。そのまま大人しくしろ。今なら死刑手前で済むんじゃ無いか?」
「それは済んでいるとは言わないね」
斧を持った女性はニタリと笑いながら、右手でクルクルと斧を回す。
対する俺はベレッタを構えてしっかりと狙う。
「本当ならもっと時間をかけるつもりだったんだけどねぇ? 君が魔獣を殺す姿をもっと見たかったんだよ?」
「へぇ? それは銃の仕組みを見て学ぼうとでも?」
「そうさ。私に銃の知識はこれっぽっちも無いからねぇ。どうやって動いているんだか知らないんだよね。電動かい?」
「教えるとでも?」
「そう言うと思ったさ」
銃の存在を知っていながらも、向けられている銃口に全く怯える様子はない。故に、変な憶測が巡り引き金を引くことができない。
「どうしたんだ? 撃ってみてくれよ。あぁ、私から仕掛けた方がいいかい?」
「……遠慮なくいかせてもらうぞ!」
引き金を引くと、乾いた破裂音が響き石製の銃弾が飛び出す。狙いを違えることはなく銃弾は腹に目掛けて襲いかかる。
そんな銃弾を、まるでハエを見るような目で見つめ、余裕の笑みを浮かべながら斧を振り下ろして斬り伏せる。
「……ククッ、こんな斬りやすい位置に撃って何になるんだぁ?」
斬る方がおかしいけどね!?
前傾姿勢になって詰め寄る女性の斧をよく見て間合いを管理する。
相手は斧の背をこちらに向けている。
振るわれるそれは殺傷能力こそないものの、避けない理由はない。
相手は俺を殺すつもりは無いようだが、俺は殺すつもりで発砲する。でなければ当たらないし、こっちがやられる。
「ふむ、飛んできているのは鉛じゃないな? これは……石か? よくもまあ砕けないな」
「チッ……よく見える……なッ!」
近づかれたため、蹴りを叩き込む。しかしその蹴りは斧の腹で受け止められ、そのまま距離を取る。
「刃物相手に蹴りを入れるとは正気か? まぁ私も差し出された脚を斬るほどつまらない女じゃないんだけどねぇ?」
「……質問だ。お前は人間か?」
「私の質問には答えてくれないのに、お前は質問をするのか? まあいいが、そうさ。私は人間じゃない。元人間の魔人だよ」
「なぜ銃を狙うんだ? 現状お前は銃無しでも充分強いだろ?」
「ククッ……足りないからさぁ!! 確かに私は強い。タイマンで負けると思ったことはないさ? しかしなぁ、一騎当千とは言えないんだよ。この世界の連中は、強い奴は強いからなぁ?」
斧を持った方の腕をだらんと下げて、完全にお喋りモードだ。
なぜ俺が話しかけたかと言うと、疲れたからだ。
相手に悟られないようにしているが、攻撃を避けるだけでかなり疲れてしまった。
「なぜそこまで強さを求めているんだ? 戦争でも起こすつもりか?」
「戦争? カブトムシ同士の争いに興味は無いさ? ただねぇ……私は強さを求めているだけなんだよ! 私は最強になって、『魔王』になるのさ!!」
人間を辞めて魔族の王になろうとしている訳か。ならここで負かさなければ不味いだろう。
「さて、休めたかぁ? そろそろ続きをしようぜぇ!!」
休憩の目的がバレてたか。でもそんなことはどうでもいい。
もし負けようとも、腕の一本は取ってやる!
肩を狙って弾丸を放つ。
キャッチボールやドッヂボールでもそうだが、肩に向かって飛んできたものは捉えづらい。
しかし、それは威力を相殺する際の話だ。キャッチボールで例えるなら、肩の辺りは取りにくいだけで、避けること自体は簡単だ。
その理屈通り、相手は斬り伏せるのではなく避ける選択を取った。
そこには女性が立っていた。
逃げ遅れた人か、それとも冒険者なのか。
避けて! と言うには遅すぎる。流れ弾とはいえ誰かを殺めてしまうことは許されない。
しかし、俺の心配も杞憂に終わった。
その女性は剣を引き抜くと、甲高い金属音を奏でながら銃弾を斬り伏せてしまったのだ。
この金属音を予想していなかった相手も一度攻めの手を止めて振り返った。
「……? 君の仲間か? 正直、一対一を望んでいるんだがねぇ?」
斬り伏せた弾丸が、どの方角から飛んできたのかを確認するようにこちらに視線を向けた女性は、猛スピードでこちらに走ってきた。
やば!? 怒らせたか!? 謝罪は後でするから今は敵にならないで!?
と思っていたら、その女性は敵である方の女性に刀を振るった。……女性女性ってややこしいなこれ。
て言うか、刀って。
「あぁ? 誰だ小娘。私はねぇ、今忙しいんだよ」
「ふむ、私も忙しいのじゃ。お前を殺して地の下に送るまではの!」
ワノさん!? 何でここに……ってそうか。ミドリナに行くって言ってたか。
ワノさんの一閃を斧一つで受け止める。ワノさんが弾かれた瞬間にベレッタを唸らせる。
「……チッ。復讐だか何だか知らないけどねぇ、小娘に構ってる暇は無いんだよ!!」
距離を取った女性は、腰巾着から魔石を取り出すと全て砕いた。
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