第35話『護衛終了』

 ワノさんとメレグさんに別れを告げ、メーベルさんを中心にアイリスとも合流をする。


「今回の調査はここで切り上げますぅ。今までサーミス湖に現れたことのない魔獣が現れましたしぃ、ドラゴン種と見られる凶暴な種類ですぅ。大規模な調査も必要ですしぃ、至急の報告もしなければなりませんしぃ」


 俺ら三人での調査は危険と判断し、一旦ミドリナに帰ることにした。

 さらっとアフエラがドラゴンの死骸の一部を回収しており、そのことに俺以外は気づいていなかった。

 アイツ何してんだよ……。下手に手出すなって。


「くぬぬ……っ! セトラさんとのお泊まり兼護衛依頼が……!!」

「護衛依頼がメインだからな? ……最後の最後まですみません、メーベルさん……」


 失礼だろ今の発言! 依頼主の前でそんなこと冗談でも言っちゃまずいって!


「いいですよぉ〜。あなた達が依頼を引き受けてくれなかったら僕の人生はここまででしたぁ。本当にありがとうございますぅ! 今度何かしらお礼の品を贈りますねぇ?」

「貢ぎライバル!!」


 メーベルさんが優しい人でよかった。あと勝手にライバル認定やめい。


「お礼はいいですよ。代わりに約束してもらいたいことがあるんです」

「ほほぉ? 何でしょぉ?」

「僕らが戦った瞬間を、言いふらしたりはしないでください。特に、これです」


 俺はベレッタを見せてすぐにしまう。


「ふむ。魔道具の類でしょうがぁ……何か事情がありそうですねぇ。爆音を鳴らしながら遠距離攻撃をする道具に見えますがぁ……いえ、これ以上考えるのはやめておきましょうかぁ」

「助かります」


 この人、考察しただけで再現できそうで怖いな……。

 上には上がいると言うように、メーベルさん以上に頭が冴える人もいるだろう。本当に迂闊に見せてはいけないな。

 キャンプセット等々を片付け、ミドリナを目指して帰路につく。

 途中の魔物も、一応ナイフで片付け、何のトラブルなくミドリナに着いた。


「何だかこぅ……大冒険をした気分ですぅ! 長かったようですがぁ、一泊二日だったんですねぇ……」

「確かに長かったっすね……」


 俺は苦笑いで返すと、メーベルさんも苦笑いで返して来た。


「もう少し長くいてもよかったですよね〜! せっかくのセトラさんとのお泊まりでしたし、あと二回は夜を過ごしたかったです……!!」

「お前だけ趣旨が違うんだよなぁ……」


 ギルドで報酬金の一〇〇〇〇〇Gを受け取り、メーベルさんを見送……十万!?


「アイリス、これ桁数間違えてないか……?」

「? そんなこと無いですよ? 基本的に依頼は高い料金を払いますし、そうで無いと請けてくれる冒険者もいませんし」


 そっか、安いお金じゃ冒険者は釣れないと。

 普段、魔物を無差別に倒しては素材を売るだけだったから依頼の相場なんてわからなかった。

 お金に困ったら依頼でも請けてみるか。


「アイリスさん、ミナセさん、ちょっといいですか?」

「え? あ、はい。何でしょうか?」

「ギルドマスターから少しお話があるようで……」


 いつもの受付のお姉さんに呼び止められ、またもやギルドマスターの部屋に。

 また校長室ですか……そうですか……。

 黙ってお姉さんの後について行く。まぁ今から行く場には全員が銃の存在を知っているから変な心配はしなくても大丈夫なのだろう。


「ギルドマスター、アイリス様およびミナセ様が話し合いに応じてくれました」

「入ってくれ」


 あ、あれ? なんかいつもと雰囲気違くないか?

 扉を開けて入ると、ギルドマスターのツマアガンと、見知らぬ男性がいた。

 ギルドマスターとチェスっぽいボードゲームをしている。


「し、失礼します〜……」

「ギルマスさん、何のようでしょうか?」


 アイリスはギルマスと略しているようだ。一般的にはそんな感じなのだろうか。


「ミナセ君、そしてアイリス君。久しぶりだね。またもや呼び止めてすまないね」

「あ、いえ……そちらの方は……?」


 しっかりとした服装を纏った男性に視線を移し、純粋な疑問を投げる。

 ギルドマスターが答えるのではなく、その男性から答えてくれた。


「初めまして。お二人の噂はよく聞いております。私はミドリナ王都の中心部に位置する城の遣いの者です。名前は『ハーヴ・ローデス』、ハーヴとお呼びください」


 背筋が凍った。

 国と関係の近い人……? それに噂って……!?


「アイリスさんのお話は昔から聞いております。たったお一人で冒険者を務めながらAランクまで上り詰める実力があるとか……そしてミナセさん。あなたも相当な実力者のようですね?」

「……そうなんでしょうかね?」

「ご謙遜なさらずに。いきなりCランクまで上り詰める実力は聞き及んでおります。ナイフ一本で華麗に立ち回るその姿はお手本そのものの動きだとか」


 お姉さんの方をチラリとみると、お姉さんはウィンクをしてみせた。いい感じに報告してくれたのだろう。ほっとした。


「長期依頼を請けに行ったとおっしゃるものですから、会えるとは思っておりませんでしたな。定期調査ついでにチェスでサボりを入れておいてよかったですぞ!」


 はっはっはと笑うハーヴさん。

 王様、この人サボってるらしいですよ……。

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