第34話『助太刀一閃』
「【ヴェントス・テンペスト・トールボ……】」
私の妹、メレグが詠唱する。
私はメレグを背に、水龍の首を見つめながら刀を構える。
「【……ヴェントスアドフィーネム】!」
強く背を押され、足が宙に浮くにたる力で浮き上がり、水龍に向かって吹き飛ぶ。
錐揉みになって飛ぶ私は重心を整え、刀を引き抜いて一気に振るう。
刀身は首を捉え、何の抵抗もなく切り裂いた。
水龍はこれで絶命した……のだが……。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
今噛み付かんとする牙を向けるドラゴンは、寸のところで止まり、首を落とした。
それと同時に、何かが勢いよく水面に叩きつけられていた。
「うわぁん〜! 今度こそ終わりですぅ!!」
「……メーベルさん、助かりましたよ」
飲み込めていない現状を、錯乱したメーベルさんに告げる。
「助かるわけがありませんんんん! 僕ですら見たことない魔獣がぁ! ……およぉ?」
首の落ちたドラゴンの死骸を見て呆けた。
いや、俺としてはそれより何かの存在の方が気になってる。
段々と上がってくる何かは、着物を着た綺麗で大人びた風貌の女性だった。
「ぷはっ! うむ、久しぶりに大物を斬ったのぅ! ……助けに参ったぞ、少年たち!」
水面に浮かぶ刀を浮きにしがみつく女性は、何だか今にも溺れてゆきそうだ。
「えっと……助かりました。あの、大丈夫です?」
「うむ、全く大丈夫ではない。正直に話すと私はカナヅチじゃ」
アフエラにしがみつくカナヅチと、刀にしがみつくカナヅチ。この広い湖でまともに泳げるのがメーベルさんだけと言う。
「メーベルさん、俺らはバタ足で帰ってみますので、泳いでもらえますか? ちゃんと援護はしますので……」
「そ、それなんですがぁ……僕は着衣泳なんてできないですぅ……」
やべぇ……泳げない三人が湖の真ん中に……。
どうやって帰ろう……。周辺には魔物もある程度いるだろうし、バタ足で泳ぎつつ、メーベルさんを護衛しながら魔物を迎撃する。うん無理だね。
「安心せい。私の妹が助けてくれるじゃろう。ちと寒くなるであろうが、我慢してくりゃれ」
寒くなる……ってまさか。
岸の方でアイリスともう一人、ドレスのような服を着た女性が何か行動し始めた。
アイリスは手を前に掲げて詠唱し始め、ドレスを着た女性は傘?を水面に向けている。
数秒後、一瞬にして湖の大半が凍った。……俺たちの下半身も含めて凍ってしまった。
「おぉ〜! 凄いですぅ! こんな範囲を一気に凍らすなんて、大魔法ですよぉ!」
「うむ、流石は私の妹さね。力加減を間違えている以外は完璧じゃ」
「肩の方まで凍っちゃってますけど……大丈夫ですか?」
しばらくするとメーベルたちが走って来て、俺たちを救出してくれた。
「た、助かりました。ありがとうございます」
「命の恩人がいっぱいですぅ……! どうお礼をしたらいいかわからないですぅ……」
「私たちだけだとどうなっていたことか……。手助けありがとうございます!」
各々感謝を伝える。
ドラゴンの首を斬った女性は、刀を身につけた着物姿の黒髪。着物の帯に刀を
もう片方の妹と見られる女性は、黒と白のメイド服みたいな服を着ており、同配色の日傘と黒い眼帯をつけていた。
命の恩人にこんなことを思うのもどうかと思うが、コスプレが好きなのだろうか?
「ふふふ、よいよい。水の音と濃い匂いがしたから駆けつけただけじゃ。私としても良いものを見つけられたからのぅ?」
「良いもの?」
「うむ、お主じゃ。その個性的な被り衣、私と趣味が合いそうではないか!」
個性的な被り衣……? 骸灰の衣のことか!?
「僕からしたらアイリスさん以外は全員個性的な服を着ていると思いますがぁ……」
「ふむ、君も女装が似合いそうじゃ」
「ふぇ!?」
メーベルさんにまで飛び火した!
その後、女装への断りを入れながら、話題を逸らすために名乗り合うことにした。
「私は『ワノ・ディサスキア』じゃ。これから王都ミドリナに向かおうとする旅人さね」
「同じくディサスキア家の次女『メレグ』です」
和服がワノさん、ゴスロリ服がメレグさんだな。覚えたぞ。
「俺は水瀬虎寅です。改めて先ほどはありがとうございます」
「ほほぉ? 日本の者であったか! 同じ巣の者同士仲良くしようではないか!」
えぇこの人も転生者!? まぁ刀とか和服とか見る限りおかしくはないか。と言うことはメレグさんも……。
「私は普通の人間です。前世の記憶はございません」
心を読んできた!?
その後、『日本』や『前世』と言う言葉に疑問を持ったメーベルさんの質問をやんわりと誤魔化し、アイリスとメーベルさんの自己紹介をしてこの場を解散することにした。
「さらば〜また会う日まで〜」
歌うような口調の言葉を残し、ワノさんたちはこの場を去っていった。
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