第31話『ぷかぷか……』
メーベルさん曰く、サーミス湖で今まで発見されている魔獣は、なんとたったの五種類だそうだ。
「水に溶けるように姿をくらます『スライム』、サハギンの中でも特に顎の力が強い半魚人の『サーミスサハギン』、群れを作って大物ですら喰い殺す肉食魚『サーミスレモラ』、一番厄介なのが毒性のある液体を吐き飛ばしてくる『サーミストード』ですぅ。僕がこの湖の研究についてから三年が経ちますがぁ、この五種類以外は見たことないですぅ」
「てことは……サーミス湖でのモンスター出現条件は変わっていないってことですか?」
メーベルさんが言っていたことを思い出し、そう言葉にする。
「おぉ〜! この研究の読み取り方が素晴らしいですぅ! その通りでして、目立った変化がなければ『スタンピード』の発生確率は低いと予想できますぅ!」
「スタンピード?」
どっかで聞いたことがあるような単語だが、意味はさっぱりわからないので問い返した。
「スタンピード、聞き覚えないですかぁ? 冒険者界隈で言えば……確か『魔獣大行進』でしたっけぇ? 数種類の魔獣が、突如変化した空気中の魔素に酔っ払ったように暴れ回る現象ですぅ。運が悪いと王都の方で魔獣騒ぎとなってしまいますぅ。それを防ぐことを目的とした研究が、僕たちの研究する魔獣調査ですぅ」
地盤を調べて地震を予知しておくような感じだろうか?
地震が起こることがわかっているのなら防災グッズを買うなりして対策が出来るのと同じように、危険がないかを先に調べに来ると言うことだな。
「これをいっぱい仕掛けておきますぅ! ミナセさんも手伝ってくださいますかぁ?」
折りたたみ式の格子籠を組み立て、紐を結んで湖に放り投げる。
籠の中には色々入れた。
サハギンの好む小魚。レモラの好む牛肉のカケラ。サーミストードの好む芋虫っぽい何か。
籠に入ったことを確認すれば逃すなり倒すなりして良いようだ。
「なんと言うかこう……原始的ですね?」
「そぉですねぇ。でも、一番安全ですからぁ。それと、ここ以外にも調べたい場所がありますしぃアイリスさんが起きたら皆んなでいきましょうかぁ!」
そっか、罠だと放置していても良いもんな。
調査依頼もこんな感じなのだろうか。時間がかかるが、結構平和だな。討伐依頼以外にも、気が向いたらやってみるのも良いかもしれない。
のんびりと湖を眺めること一時間。
「おはようございますセトラさん! あとメーベルさんも」
「おはようアイリス」
「……なんだか僕はついでにって感じがしますねぇ」
寝起きのアイリスは結構元気な子だった。俺は寝て起きたら真っ先に二度寝へ移行するからな。
そんなお目覚め万全のアイリスと、メーベルさんが調査したいと言っていたポイントまでの移動を開始する。
湖から一本だけ伸びる河を登って滝壺まで移動した。
「来てもらった理由はぁ、ここに魔獣がいないからですぅ!」
「魔獣がいない?」
「はいぃ! なんとぉ、水の中に入れちゃうんですぅ!」
「!! セトラさん、水着ありますよ!」
そう言ってアイリスが小袋から黒いサーフパンツを取り出した。
「なんで男物の水着持ってるんだよ」
「サーミス湖に来たら着てもらえる機会もあるかと思いまして!」
だから依頼受ける時に嬉しそうにしてたのか。
「さぁてぇ……僕は着替えてきますねぇ〜」
メーベルさんは茂みへと消えた。
アイリスもワクワクとこちらを見つめている。
「投げ銭コメントだと思って一緒に受け取ってください!」
水着とさらにお金を渡された。
「お、お金はいいよ……着替えてくるから」
流石にお金まで受け取るといけないことをしている気分になる。まあメーベルさんだけ泳いでいるより皆んなで泳ぐか。
俺も茂みに姿を消し、服を脱ぐ。
途中、違和感があった。骸灰の衣を脱いだ瞬間、体が重くなった。
気にせず着替え、再び滝壺へやってきた。
「——ッ! セトラさんの水着! これ本当に無料ですか!?」
「別に俺の服装に課金要素ないからな?」
「おぉ〜、ミナセさんも泳げるんですねぇ〜。あの『ワビサビ』? と言うものがないと普通にイケメンですねぇ〜!」
ワビサビってあれか。骸灰の衣のことか? あれあった方がカッコいいだろ!!
俺も入水し、この世界で初めての水泳を果たす。
なんと、ぷかーっと浮くことに成功した。言っておくが、俺は泳げない。
「泳げないんじゃないですかぁ……。その状態で滝下まで行くと死んじゃいますよぉ」
「なんだか最近運動神経良くなったし、泳げると思ったんですけどね……」
口以外動かせない。下手に動くと沈んじまう。
メーベルさんが足を引っ張って岸まで送ってくれている。
「ぷかぷかセトラさん……!」
「変なことに喜ぶな」
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