第30話『アフエラの子守唄』

 眠れない。


 俺が前半四時間、アイリスが後半四時間。魔獣がテントに寄ってこないように見張をする時間だ。

 みんなが寝てから四時間半、少し多めに見張をして、アイリスと交代してから寝袋についた。


 眠れない……。


 今日使用した『魂食』が原因だ。

 怖い。改めて、怖い。

 今まで俺は、この世界で生きている感覚というものをしっかりと認識していなかったのかもしれない。

 銃火器なんて、日本では持ったことなかった。

 興味本位で買ったエアガンも、鉛玉の重さは知らなかった。

 そんな、非現実がまるで現実であるように錯覚した日常が、さほど変わらないような異世界に飛ばされ、錯覚のままの感性が今の俺を逆流させた。

 HPバーなんて見えないし、レベル差は技術と油断で簡単に埋まる。


 そう、命なんて簡単に吹き飛ぶ。


 この世界はハードモードだ。

 俺は銃火器とアフエラ、そしてアイリスに頼らなければ生き延びるなんてハードコアとも言える。

 生き返りリスポーンは無い上に、ダメージは身体に響いてゆく。


 今まで、ゲーム感覚で生きていたのだろう。


〔マスター、寝付けませんか?〕

「アフエラ? そうだな。ちょっと……怖くてな」

〔しかし、眠らなければ、明日からの仕事に支障をきたします〕

「そうなんだけどな……」

〔では、私からの提案です。眠くなるまで、私の『なぞなぞ』を解きませんか?〕

「……またそれかよ。でもそうだな、今日はやってみるか……」


 音量も小さめに、アフエラはなぞなぞを誘ってきた。

 いつもなら断っていたが、今日はまぁ……乗ろう。


〔問題です。今まで頑なになぞなぞ機能を使わなかったマスターは誰でしょう?〕

「……わ、悪かったって。いや悪かったのかな俺?」

〔答えをどうぞ〕

「……水瀬虎寅」

〔正解です。私のメイン機能を使わないだなんて損な人ですね〕

「これなぞなぞか?」

〔次の問題です〕


 流された。ちゃんとなぞなぞを楽しんでやろうと思ったのに、なんか違うのが始まりそうだ。


〔昨日までレベルが1だったにも関わらず、主に実力とアフエラのおかげで異世界を生き延びた方は誰ですか?〕


 じ、実力? 銃火器に頼っただけだったのでは……。


「み、水瀬虎寅?」

〔正解です。決して骸灰の衣のおかげではありません〕

「お前、まだレアリティ気にしてんのか?」

〔……次の問題です〕


 気にしてそうだ……そっとしておいてあげよう。


〔最強タブレット端末と、前世の記憶と技術を併せ持つ、この世界で最強に近い人間は誰でしょう?〕


 コイツ、励まそうとしてくれているのか? だとしたら褒めるところを間違えてるな。俺は最強じゃないだろう?


「アフエラと一緒にいるのは俺だが……水瀬虎寅……なんだろ?」

〔そうです。ちゃんと自信を持ってください〕

「……お前、気遣ってくれてるんだろ?」

〔違います。なぞなぞを出しているだけです。勘違いしないでください〕


 ツンデレかよご馳走様です。


「でも俺に生き残るための実力なんて……」

〔……そうですね。マスターには、アフエラと銃火器とプラスアルファのボロ布が無ければ無力です。マスターの持つ武器は射撃能力と12のレベルです〕

「しゃ、射撃能力なんてみんな同じくらい……」

〔問題です〕


 口論に痺れを切らしたようにアフエラが話を変える。


〔マスター、水瀬虎寅様の持つ武器はなんでしょうか? ①アフエラ。②銃火器。③世界をゲームと捉えることのできるほどの実力。答えは主に③ですが、全て正解です〕

「こ、答える時間も無しかよ。でも……そうか」


 そう言えば俺、本気で焦ったことは無いな。

 全部、なんとかなるだなんて軽い気持ちで乗り越えられていた。

 生きるか死ぬか。突き詰めた二択の天秤では、いつも生きるに傾いていた。


「ありがとな。アフエラ。もう寝れそうだ」

〔そうですか。おやすみなさい、マスター。良い夢を〕


 俺はアフエラの画面がすぅっと暗くなるのを見て、眠りについた。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


——wake up

 ——full connect……complete

 ——full active……fail

  ——retry……fail

  ——retry……fail

      :

      :

  ——retry……fail

  ——retry……cancel

——set time 04:00 {wake up}

 ——| shut down


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 翌日、日の登った時刻に皆んなで朝食を食べる。


「ふぁぁ……皆さん、おはようございますぅ。昨夜は寝ずの番をありがとうございますぅ。有事以外は休んでもらっても構いません!」

「了解しました! ではちょっとおやすみなさい!」


 アイリスは元気に返事をするや否や、サッとテントから枕を取り出して、葉っぱの上で寝始めた。

 苦笑で見守る俺とメーベルさんは調査の準備を始めた。

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