第29話『魂を喰らう』
返り血は一つも付かなかった。
覆い被さったタイガーの腹に撃ち込んだ後からは大量の血が垂れてきたが、全て骸灰の衣によって弾かれ地面に垂れていった。
便利だと思いながらアイリスの元に戻ると、見事なナイフ捌きだったと言われた。
ソダネーと返し、メーベルさんには若干怪しまれたが、魔法を使ったと言ってその場は何もなく収まった。
「ふぅむ……レベルは1のままですねぇ?」
「そうですか。ちょっと待っててくださいね」
メーベルさんから少し離れ、アフエラを取り出す。
「アフエラ、どうすればレベルが上がるんだ? 骸灰の衣のせいなんだろ?」
〔骸灰の衣の特殊効果『魂食』によるものです。魂を喰らうことでしか経験値を得られません〕
「た、魂ね……。どうやったら食えるんだ?」
〔死した対象に手をかざし、『刈り取れ』と言えば魂を食べることができます〕
そう説明した後、〔お勧めは致しません〕とだけ警告した。
アフエラをしまって言われた通り手をかざす。
「『刈り取れ』」
タイガーが光の粒子となって骸灰の衣に吸い込まれてゆく。
「おぉ……これが魂食——っ!?!?」
腹が痛い。広がるように全身を駆ける激痛。次第にそれは熱となりだんだんと感覚が消え、意識が薄れて……。
「——セトラさん!!」
「っ! はぁ……はぁ……なんだ今のは……」
悪夢を見たような冷や汗を大量にかいていた。
別に腹に風穴は空いていないし、焼けるような痛みもない。
〔ピロン♪〕
一生の中で最も深く魂に刻まれた記憶です。リフテリオタイガーの場合、死ぬ瞬間が最も深く刻まれた記憶のようです。
アフエラの説明で、なぜお勧めしないのかよくわかった。
大抵の場合、死ぬ瞬間が一番記憶に残りこの世を去る。
そんな記憶を擬似体験するのは苦しいはずだ。
「大丈夫ですかぁ? 汗もすごいですしぃ……って、レベル12ですかぁ!?」
不快感が完全に去り、体の状態を確認すると、少し動かしやすかった。
「ふぅ。もう大丈夫です。依頼続行できますよね」
「えぇ、大丈夫ですよぉ! 僕よりレベルは低いのに、動きはそこら辺の冒険者よりいいですしぃ! 僕は君が気に入りましたぁ! 行きましょ〜! 僕はとても安心ですぅ!」
その後、休むことなくサーミス湖まで歩いたが、不思議なくらいに疲労は溜まらなかった。
サーミス湖はものすごく広かった。琵琶湖ってこんな感じなのか? ※琵琶湖の方が広いです。
「さて、調査は明日からの三日間ですぅ。今日は身の回りの整備、もといテント設営といきましょうかぁ」
そう言ってメーベルさんとアイリスはそれぞれテントを建て始めた。
……待てよ? テントって持参だったのか? て言うか、小屋とかないのか!?
「……ミナセさん。もしかしてテント忘れちゃいましたかぁ? まぁ最悪僕のテントで一緒に寝ても構いませんがぁ……狭い上に僕は寝相悪いので覚悟してくださいねぇ」
「!!セトラさん私のテントも空いていますよ狭いかもしれませんけどくっつい寝てればなんの問題もありません!」
「え、えっと……夜まで待ってください。あとアイリス、句読点をちゃんと付けろ」
流石にどちらかのテントにお世話になるのは申し訳ないのでアフエラに作ってもらおう。
テントの材料になるものがあるか見てくると言って森の中に入り、魔獣の毛皮や木の枝でテントを作成する。
〔出来上がりました。それとマスター、今のうちに言っておきますがラッキーイベントを逃すのはどうかと思います〕
「……ラッキーイベントって?」
〔もちろん、アイリスとの宿泊です。あれだけマスターを愛してくれている人はそういないかと〕
「ただなぁ……なんかまだ『視聴者』って感じがあって、そう言うふうに関わるのはちょっと……」
実際、アイリスは優しい人だし、絶対浮気はしなさそうだし、あと可愛いし。俺じゃあもったいないと思っているくらいだが、視聴者と言うキーワードが引っかかる。くっ……実況者として俺は正しいはずだ……。
テントを持っていくとアイリスはガーンと言った感じに座り込み、地面に『セトラさんセトラさんセトラさん』と文字を書き続けている。怖ぇよ。
「ほほぉ、器用ですねぇ! いやぁ助かりますぅ。危うく寝相で人殺しの前科が付くところでしたぁ」
こっちもこっちで怖ぇよ。
全員がテントを建て終わり、日が沈み始めた頃。明るいうちに集めた枝を積み重ね、アイリスの魔法で火をつける。
「先程も話しました通りぃ、明日から始める調査はですねぇ、サーミス湖に出現する魔獣の種類ですぅ。ご存知の通りぃ、魔獣は魔素の集合から発生する不思議な生物ですぅ。特定の条件下で出現し、その条件に従って魔獣の種類も変わりますぅ」
そーなんだー。と聞きながら焼いたお肉を口に運ぶ。
ただ聞き流している訳ではない。ちゃんと話の内容は肉と一緒に噛み砕き、飲み込んでいる。
「今回は三日間かけての整体調査ですぅ! 皆さんは僕の安全ももちろんのこと、自分の安全もしっかりお守りくださいねぇ!」
歯磨きをして、それぞれテントに戻った。
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