第28話『レベル』

 サーミス湖までは徒歩で移動した。

 目的地まではなんと半日かかるとメーベルさんは言う。

 まだ四時間しか歩いていないが、既に足が痛い。と言うかペースが速い。


「は、速くないか? このペースで半日も保つのか?」


 二人して不思議そうな顔をした後、アイリスは可愛いものを見たような表情になり、メーベルさんは不安そうな顔をした。


「本当に大丈夫ですかねぇ? もしかして、僕より『レベル』が低いとか言わないですよねぇ?」

「れ、レベル? ちょっとアイリス、いいか? (この世界ってレベルの概念があるのか?)」

「(ありますよ? ちなみに私は73です)」


 経験値によって上がるレベルは、ただの戦闘経験をどれだけ積んだかと言う目安の数だけでなく、身体能力の補正がかかる数値らしい。


「僕はモンスターを倒していませんのでぇ、18ですがぁ……流石に僕より低いことは無いですよねぇ?」

「モンスターを倒さなくてもレベルって上がるんだな。そりゃそうか。『経験値』だもんな」


 経験を重ねればレベルも上がるか。研究者なら尚更か。


「言いにくいんですけど、自分のレベル知らないんです」

「ほほぉ? 冒険者なら結構気にする数値だと思っていたのですがぁ? では僕が見てあげましょうかぁ! 実は僕ぅ、『スキル持ち』なんですぅ」


 スキル持ちってなんぞやとアイリスに聞いたら、この世界で稀に『スキル』という、他人とは違う能力のことを指すらしい。


「僕のスキルは『解析』ですぅ。研究に役に立つのですよぉ! ミナセさんのステータスを見ても良いですかぁ?」

「良いですよ。と言うかお願いします」


 自分のレベルとか気になって仕方がないもんな。

 そこそこモンスターを倒してきたし、まぁランクもCだし? アイリス程ではなくとも期待して良い数値なはず……。


「ふむふむ。……ふむぅ? レベル……1……ですねぇ?」

「「えっ」」


 アイリスと共に俺らは声に出して驚いた。

 え? 全く上がってないなんてことある? あれだけのモンスターから何一つ学んでないなんてことある?


「の、伸びしろですよ! セトラさん、諦めちゃダメです! 落ち込まないでください!」

「お、落ち込んでないぞ……。れ、レベル1……」


 正直ショックではあった。『異世界に転生したらずっとレベル1でした』だなんて……。


〔ピロン♪〕


 アフエラが鳴ったので、骸灰の衣に隠しているアフエラをコソッと取り出す。

 そこに書いてあったのは『骸灰の衣のせいです』と書いてあった。


「うぅむ……今回の依頼は辞めておきましょうかぁ……。流石に僕も心配ですぅ」

「大丈夫です! 人はレベルだけではないですよ! セトラさんはすごい人ですから!」

「えぇ……? ではぁ、あちらに見えるリフテリオタイガーを討伐してもらえますかぁ?」


 メーベルさんが指す方向にいるのは緑と紫の毛色をしたトラがいた。いや、名前的にはタイガーなのだろう。

 ……あれ? トラってタイガーだっけな? ヒョウだったか?

 そんなことはどうでもいい。


「わかりました。……行きます」


 ナイフをわざとらしく、メーベルさんに見えるよう引き抜いてタイガーに詰め寄る。

 この世界の『魔獣』と呼ばれる存在は基本、凶暴化した地球の野生動物。そうとなれば相手の動きはイメージ通りと見ていいだろう。

 俺の中でのトラは直線移動が素早く、のしかかってから首元を噛みちぎると言うイメージだ。

 タイガーもこちらに気付き、俺の進行方向と垂直になるように体を向け、戦闘体制へと入った。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


「レベル1とは思えない動きですねぇ? 足は速いですし、迷いが無いですぅ」

「……そういえばそうですね? セトラさんは配信でもリアルでは運動神経悪いって言ってましたし……」

「はいしん?」


 ナイフを片手に駆けるセトラさんはタイガーにまっすぐ詰め寄る。

 セトラさんとタイガーの間合いが十分となった時、斬りかかろうと動いたセトラさんより早くタイガーが動く。

 タイガーの特殊能力は『スピードブースト』で、自身の脚力を上げて俊敏に動くことができるようになる。

 先制の有利。なぜか抵抗をしなかったセトラさんが押し倒され首に喰らいつく。その寸前。


——パァン!


 セトラさん、銃使いましたね! タイガーが覆い被さっていて手元は見えませんが、きっとベレッタをタイガーの腹に撃ち込んでいます!


「な、なんですかぁ!? ミナセさんは大丈夫なんですかぁ!?」

「大丈夫ですよ。タイガーもおそらく死にましたし」


 タイガーの死骸を両腕で精一杯抱えて運んできたセトラさんは返り血もついていなかった。


「流石ですセトラさん! 素晴らしい『ナイフ捌き』でした!」

「だ、ダロー。スゴカッタダロー」

「棒読みですねぇ……」

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