二章【魔獣騒動編】

第27話『依頼』

 異世界に転生だか転移だかを果たして一ヶ月。

 オーパーツを名乗る異世界に似合わないタブレット端末『アフエラ』と共に生活をし、今では銃を主力武器にアイリスと冒険者をしている。


 つい最近、余命宣告さながらの予告をされた。

 リリィというタムヨス達のパーティメンバーの一人から「ミナセが死ぬ夢を見た」と言った。彼女の見た夢というのは半分程度正夢となるそうで、現実に現れるのが一ヶ月後。

 ほんとなんでこうなった。


 そんなショッキングなこともあったが、だからと言って何もしないでいるわけにもいかないし、リリィの正夢を防ぐ術はないので日常変わらず冒険者をする。

 今日はアイリスと冒険者ギルドで待ち合わせ。

 いつもみたいにのんびり殺伐と狩りをするのも良いが、たまにはギルドの依頼を受けてみようとなった。

 ギルドのに着くと、既にアイリスが待っていた。


「おはよう、アイリス。待ったか?」

「いえいえ! たったの一時間です!」


 めっちゃ待ってるじゃん。とは言わない。数日前まで三時間ほど前から待っていることもあったのだ。感覚も狂うだろう?


「さあ一緒に依頼を見に行きましょう! 私、今日が楽しみで羊は八千まで数えちゃいました!」

「八千まで数えてちゃんと寝たんだな? それならまぁ……良いのか?」


 ちゃんと寝れて健康なら良しとする。

 アイリスと共に掲示板の前までやってくる。

 ギルドには、一般の方から冒険者への依頼を申請することができる。目的と報酬を提示し、この掲示板に紙で貼り付ける。


「サーミス湖の調査護衛……リフテリオオークの肉収集……マグゾート山への宝石採集……。オーク肉くらいしか討伐が無くないか?」

「そんなこと無いですよ? サーミス湖もマグゾート山もモンスターの巣窟ですし、何より割と難易度が高いです」


 あ、冒険者じゃ無いと危ない場所での仕事なんだな。アイリスがいなかったら適当に選んで大変なことになりそうだ。


「アイリスはどこに行きたい?」

「えぇっと……オーク狩りやマグゾート山に行くよりサーミス湖に行きたいです」

「じゃあこれにするか」


 依頼書を掲示板から剥がし、カウンターまで持って行く。

 いつものお姉さんに提出すると驚いた顔をしていた。


「珍しいですね? 依頼を請けるなんて……というか、この依頼ですか? (チャカについて秘密にしたいって言ってたじゃ無いですか)」

「気になったから受けてみたんですが……(アイリスには秘密にしていないですよ?)」


 銃について知った原因は、確か俺らの後をつけたからではなかっただろうか? アイリスと一緒に狩りをしていたはずだし、変な心配はいらないだろう。


「えぇっと……この依頼は護衛です。……護衛対象もいます……」

「……なんてこった。アイリス、この依頼はちょっと……」


 と思って振り向いたが、アイリスが嬉しそうな顔をしていた。

 ……断りずらい……。


「ナイフで頑張りますので、こちらの依頼を請けさせてください」

「あはは……頑張ってください……」


 依頼書にハンコを押したお姉さんは、ギルドの奥から鳥籠を持ってきて、中にいる鳩の足に依頼書を括りつけた。


「メーベル、東」

「クルルル!」


 ギルドから勢いよく鳩が飛び立つ。


「なんですかあれ」

「伝書鳩です。依頼主の元に飛んでいたはずです」


 そんな曖昧な連絡手段で平気なのか?

 これ鳩が届けてくれなかったら依頼遂行なんてできないのか。スマホやらパソコンやらは改めて便利だったと思う。

 そんなことを考えながら鳩の飛んでいった方向を見ていると、全速力でこちらに走ってくる人が見えた。

 白衣を着て、眼鏡をかけた小柄な男性。もしかして……。

 俺の横を通り過ぎるとカウンターのお姉さんのもとで息を切らしながら何か言っている。


「ぜぇ、ぜぇ。依頼……請けてくれた方がいるんですねぇ!?」

「は、はいぃ! そ、そちらのお二人です……」


 お姉さんが俺らを指してそう言った。

 つい目を逸らしてしまった。やだこの依頼主。なんか怖い。


「ほほぉ……君たちですかぁ? お嬢さんはまともそうですがぁ……羽織る布買い替えてあげましょうか?」

「この布の良さがわからないんですか! ボロボロの中にある『侘び寂び』と言うものが……!」


 つい熱くなってしまった。危ない危ない。オタクがバレる。


「ふぅむ? ワビサビというものは良くわかりませんが……愛のある良い人ですねぇ! 申し遅れましたぁ。僕は『メーベル・ファルオート』ですぅ! 魔獣を調査する研究者ですよぉ!」


 こ、この人……侘び寂びがわからないだと……。


「アイリス・フェトミアです。しっかり護衛しますので、任せてください!」

「み、水瀬虎寅です……」


 放心しているところにアイリスが自己紹介をしてくれたので正気に戻った。

 メーベルさんを護衛するサーミス湖の調査護衛が始まった。

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