第21話(影)『R-01』

「Wer reitet so spät durch Nacht und Wind?」


 片手斧をくるくると回し、魔物に歩み寄る。

 当然、相手は警戒し、牙を剥く。


「Es ist der Vater mit seinem Kind」


 私の大好きな歌だ。

 狩りの時は大抵歌っている。


「Er hat den Knaben wohl in dem Arm」


 いい歌だ。この詩に込められた真意は知らないが、良いストーリーを持っている。


「Er faßt ihn sicher, er hält ihn warm」


 デグルベアの喉元に斧の刃を当てるよう肩を組み、体を固定させる。


「Mein Sohn, was birgst du so bang dein Gesicht?」


 私を振り払おうと踠くデグルベアに、絡めた腕の力をさらに強める。


「Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?」


 デグルベアを固定していた腕を解放して目を斬りつける。斧から繰り出す一撃は重たい。


「Den Erlenkönig mit Kron und Schweif? Mein Sohn, es ist ein Nebelstreif」


 生存本能だけが働くデグルベアはバタバタと暴れ、抵抗し続ける。もう死ぬと言うのにな。


「Du liebes Kind, komm, geh mit mir! Gar schöne Spiele spiel ich mit dir」


 暴れるデグルベアを眺めながら歌い続ける。

 コイツには少し長引かされてしまったな。サビで殺そう。


「Manch bunte Blumen sind an dem Strand,

Meine Mutter hat manch gülden Gewand」


 さあサビだ。

 斧を回して近づく。

 光栄に思え。いずれ世界の頂点に立つ者の糧になることに。


「Mein Vater——」


——パァァアアン!!


 ……なんの音だ?

 今からサビだと言うのに。空気の読めない魔法使いどもめ。森の中で爆破魔法を撃つ奴がいるか?

 舌打ちをして斧を一振りし首を落とす。

 音がする方向へ向かって歩みを進める。


——パァンパァンパァン!


 三発も連発出来るのか? 爆破魔法は他の基本属性魔法と比べて多少魔力の消費が激しいはずだ。

 もしや、魔法使いではなく魔道具使いか? 金持ちめ。


——パァン!


 これで五発目か。相当高位な魔法使い……いや、あれだけ連射できるなら魔術師か。どちらにせよ、私の脅威になるなら殺さなければ。


——ダダダダダダダダッ!!


 なんだと? この連射速度はなんだ? まさか魔法ではない?

 音の元に辿り着くと、そこにはデグルサーペントに416をフルオートで撃ち込む男の姿があった。

 衝撃でしばらく立ち尽くしてしまった。

 そうしている間に、銃を撃っていた男はすでにこの場を去っている。


「ふふ……くははは! 見つけたぞ……『魔王』への鍵!!」


 銃だ。416だった。なぜか真っ白だったが。

 アイツは異世界転生者か転移者で間違いないが、なんとも変な格好だ。次見つけたら聞き出してやろう。


 どんな手を使っても……だ。


「私は、あの銃を手に入れて……世界を支配する魔王となる」


 ゲーテの描いた詩の通り、お前坊やは誰知らずのうちに死ぬんだよ。

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