第11話『助けた少女』
間に合え。
間に合え間に合え間に合え!
距離およそ百。疾走中の射撃は精度が落ちるためこの距離での発砲はダメだ。せめて確実に当てられる距離、三十メートルは必要だ。
デグルベアはそこまで動きが速く無かったはずだ。今ならまだ間に合う。デグルベアの前で棒立ちの少女。その少女に突進をかますデグルベアの硬直に一発発砲する。
ヘッドショット。続け様に地面を蹴って勢いをつける。
頭めがけて必殺の(必ず殺せるとは言ってない)『セトラちゃんドロップキック』(本当にドロップキックをしたとは言ってない)を食らわせる。
実際は跳び膝蹴りに近い。
確実に絶命させるために至近距離からもう一発頭に食らわせる。
「大丈夫か!? 怪我は無いみたいだな?」
少女はぼーっと俺を見つめると、涙ぐんでしまった。
そりゃそうだ。怖かっただろうし、危うく死ぬところだったのだから。
「ごめんなざい……っ!!!! セトラさん……っ!!!!」
嗚咽が出るほど泣きながら、謝ってきた。
待てよ? 今俺の名前、しかもセトラって言ったか?
「どどどどどうしたんだ!?」
〔鑑定の結果、この方は元日本人の転生者のようです〕
「日本人で俺の名前を知ってるってことは……リスナー!?」
てか凄い深いところまで見えるんだなアフエラって。
五分ほど泣き続けた少女を慰めて、デグルベアの素材を回収してから、場所を移動しながら話をする。
「君は……セトラのゲーム実況チャンネルを見たことがある?」
「はい。……その……覚えてくれているかわからないですけど、シロップです……今はアイリスという名前ですけど……」
「シロップさん!? シロップさんって……いつも真っ先に配信来てくれてる人だろ?」
「えへへ……生き甲斐でした……」
異世界に来る前、配信を始めるとわずか数秒で入室してくる酔狂なファンがいた。それがシロップというアカウント名の人だ。
なぜ彼女がここにいるのか。その経緯を聞いて土下座したくなった。
「君は悪く無いんだ。確かにゴーグルの不良ではあったが、それは運が悪かったとしか言えない。元々、俺が中古を買うなんて選択をしなければ死ななかったんだ。あと死んだ瞬間全くわからなかった。それで負い目を感じてしまったのなら、本当に申し訳ない」
後追い自殺をしたなんて言われたらもうどうしようもなく申し訳ないが、それと同時にそんなにもあのチャンネルを愛してくれていたことに感謝もしている。
そっかぁ……この子もきっとボロのロマンがわかる人だな。
「えへへ……セトラさんは相変わらずそのボロボロの布を着てるんですね。私、セトラさんのセンス面白くて大好きです♡」
あれ? これ「ダサいけどそれも愛せるよ」的なやつ?
「えっと……ボロ布はかっこいいよね?」
「……セトラさん大好きです♡」
おっと……?
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