第2話『アフエラとクラフト』

 目の前には両目を潰されたクマの亡骸。己の手にはベッタリとした鮮血。

 戦闘終了から六秒。俺は現実を疑った。

 クマを一人で殴り殺したことに? 違う。確かに現実だとあり得ないことだが、そうでは無い。

 それは、俺の手に血液がついていることだ。

 俺はVRゲーム、それも銃撃戦がメインとなるバトルロワイヤルを開いたはずだ。それなのに今闘ったのはクマだし、周辺にいる人間は剣盾槍杖。まるでファンタジーの世界のようだ。


「なんだよこれ……」

「あ、アンタ、めっちゃ強いじゃねぇか!?」

「冒険者? ねえランク教えて!」

「デグルベアを素手と枝だけで……君は何者なんだい?」


 呆然としているとあれやこれやと質問責め。剣、槍

、盾を持っていた人たちが寄ってくるため後退り。


「あ、あの……落としましたよ?」


 杖を持っていた少女が何かを渡してきた。


「タブレット端末? 君たちはこれ知ってるのか?」


 見せてみるとわからないと言った感じで、電源をつけて画面を光らせてみてもわからないと言われた。


「何これ? 魔道具の一種?」

「見たことないな。アンタの物じゃないのか?」


 剣士と槍使いはさらに問いかける。


「俺のではないが……使い方ならわかる。まパスワードがかかってたら俺でも使えないが……」


 そう言ってホームボタンらしきボタンを押すと画面が動いた。


『指紋認証。確認しました』


 なんとロックが解除された。


〔こんにちはマスター〕


 しかも喋った。


「? やっぱアンタの物だったか。アンタ、ちと記憶がこんがらがってるんじゃないか? 何にせよ、助かったぜ」

「え? あぁ、こちらこそ助かった。あのまま寝てたらクマの餌だった」


 軽く会話をした後、この場を後にしていった。

 本当に助かった。何せ、これはゲームではないことが明らかになってしまったからだ。

 手に付着した赤い液体。生臭い血の匂い。そしてさっきの四人組。

 何もかもが現実そのものだった。


「……タブレットさん?」

〔どうなさいましたか? ちなみに私は『アフエラ』といいます〕


 ちゃんと喋る……。

 機械音声で棒読み。しかし応答はしっかりしてるし、プラスアルファで名乗ってくれた。


「えぇっとアフエラさん? は何が出来るんだ?」

〔自慢ではありませんが、『クラフト』『解析』『インベントリ』『なぞなぞ』などのメイン機能とその他多数の小物機能があります〕

「……なぞなぞは小物機能じゃないのか?」

〔は?〕

「怖ぇよ」


 こんな感情的に応える機械は初めてだ。これがAIってやつか。


「えっと……解析ってあれか? カメラ検索みたいな?」

〔そのような粗末な機能は私にはありません。表面から内面まで全てわかります〕


 自己評価高いなこのタブレット!?


「く、クラフトは?」

〔素材さえあれば何でも作ることができます。レシピをご覧になりますか?〕

「え、あぁ〜。後でな。今はちょっと……これからを考えないといけないから」


 もう踏ん切りはついた。俺は異世界で生にしがみついてゆくことにした。

 足掻いて見せる。どんなに見苦しくとも、限りなく。


〔これからを考えるのであれば、クラフトの出番です〕

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