一章【異世界順応編】

第1話『perhedraの猛獣』

 なかなかゲームが起動しない。

 一瞬カッと光ったかと思ったら真っ暗だ。

 いつもならふざけた奴らがコメントを何かしら埋めてくれるのだが、画面には何も映っていない。右上にコメント欄が表示されるはずなのだが。

 何か変だと思った俺はゴーグルを外そうとする。しかし、俺はあることに気づく。

 手足の感覚がない。さらに言えば声も出ないし、呼吸もしていない。

 なんだ? 何がどうなっている?


——teleport @setora dimension Perhedra


 突如コメント欄(本当は違う)に英語を連ねた文が流れてきた。

 頭は良くないし、物知りではないが、内容を読み解く。


 最初のは……テレポート? 瞬間移動移動や転移的な意味だったはず。次はアットマークに自分の名前であるセトラの文字。そして……。

 ディメンション? なんだそれかっこいいな。その後ろは……ペーヘドラ?


「——て。——きて! ——起きて!!」

「ッ!!」


 何者かの声が聞こえたと思ったら目の前で二人の女の子が俺の体を揺らしていた。


「起きた……起きたよ! みんな、もう大丈夫だよ!」


 一人が安堵した様子で後ろの方にいる男二人に声をかけた。一人は大きな剣、もう一人は大きな盾を持っており、目の前にクマのようなモンスターがいた。


「君、早く逃げろ! 僕たちも後で逃げるから、早く!」


 盾を持ち、クマの突進を防ぐ男がそう言った。


「逃げる? てかそもそもここは……?」

「いいから、早く!!」


 怒りも混じったような声でそう怒鳴られた。


「なに躍起になってるんだ? たった一体だろ?」


 何を焦っているのか。たったクマ一体で。そんな俺の言葉に剣を持った男が言う。


「デグルベアだぞ!? 剣も持ってないアンタが一番危ないんだ、さっさと逃げてくれ!」


 逃げる。それはリザインしろと言うことだろうか。しかし、コメントは流れてこないが俺には視聴者がいる。失敗してもいいが、少しは挑戦しなければ配信者として失格というもの。


「枝さえあればなんとかなるだろ」


 幸いここは森の中。手を伸ばせばどこにだって枝がある。サバイバルゲームで得たスキルでこの場くらい凌いで見せる。

 長さ三十センチ太さ三センチほどの枝を左手で逆手持ちにし、クマに詰め寄る。

 当然ヘイトはこちらへ向いた。その振り向く寸前には拳を握って右手で鼻を殴る。知ってる方も多いと思うが、クマは鼻が弱い。

 しかしフィジカルの強いクマはこれだけでは一瞬怯むだけ。そこで先ほど持ってきた枝が活躍する。右手に持ち替え、左目に突き刺す。

 枝の強度も十分だし、しっかり強膜ではなく角膜を突き刺した。

 暴れるクマに払い除けられるが、このまま右目も潰して仕舞えば楽勝だろう。


「す、すげぇ……」

「枝一本で目を……あっ! 今逃げましょう!?」

「? なんで逃げるんだよ? 一緒に倒すの手伝ってくれよ」

「「「「はぁ!?」」」」


 男女四人から驚かれてしまった。見た感じ狩人に近い格好だし、クマくらい殺せるだろ。

 結局三十分くらいかけて一人で殺し切った。

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