4-5
『話がしたい。そこでちゃんと謝りたい』
自分のスマホの画面に表示されているそんな一つのメッセージ。しかし送った相手である和花からの返信はない。それどころか既読すらつかない。
御調と秋那に言われた言葉が、あれからずっと真宙の頭には残っている。
確かにあのときは冷静じゃなくなっていて、今まで溜まっていた鬱憤や不満を和花に対してぶつけてしまった。そして和花の涙を見て冷静になり、自分が本当に最低なことを口走ったことを自覚した。
御調に言われるまでもなかった。秋那に言われるまでもなかった。
最低なのは自分だと、悪いのは自分だと、そんなことは真宙自身も理解していた。だからこそ和花に謝りたいと思ってこうして連絡を取ろうとしているのだが、その希望は叶わないでいた。
和花は、通話はおろかメッセージを見てくれてすらいない。完全に拒絶されていると考えるのが当たり前だろう。でもだからといってこのままでいいとは当然考えていない。ならば御調か秋那に仲介を頼んででも和花に連絡を取るべきだ。
だが真宙は和花だけではなく御調と秋那からも呆れられてしまって、なんだか二人に連絡を取ることさえ気まずくなってしまっているのが現状だ。
(でもそんなこと言ってる場合じゃないんだ)
時間が経てば経つほど話はしづらくなるし、どんどん全員と疎遠になってしまう。今までの関係が壊れてしまう。傷を修復し、元の関係に戻るのなら今しかないのだ。
窓の外を見ると雪が降っている。この時期にこれだけの降雪は珍しい。もしかしたら積もるかもしれない。そんなことを思いつつ雪を眺めると桜良のことを思い出す。いや、雪の季節だけじゃない。春夏秋冬、どの季節に至っても桜良との思い出がたくさんある。
「……ねぇ、桜良ならどうする?」
振り返り問う。
しかし返事があるどころか、そこに桜良の姿はない。
いつだって求めれば答えは返ってこないが姿だけはそこにあった。しかしあの日、公園で桜良(秋那)に「最低です」と告げられたあの日から、桜良は真宙の目の前から姿を消した。
「……怒ってるよね」
和花は真宙にとっても、そして桜良にとっても友人だ。そして桜良なら、例え自分の恋人が相手でも、悪いことは悪いと口にするし、自分が悪いのならそれをしっかりと認め、すぐにでも自分から頭を下げることができる人間だ。
そんな桜良のことを真宙は人として尊敬していた。
言葉にするのは簡単なのだ。しかしそれを認め、即座に行動に移せる人間は少ない。現に真宙はウダウダして行動に移せていない。でもだからこそ尊敬は憧れになり、憧れは好意へと変わった。
自分もこうなりたいと、こういう人間でありたいと、そう願った。
だが結果はこの有様だ。なんとも情けない限りだ。そして桜良は、そんな真宙に対して怒っている。だから姿を見せてくれない。そう、真宙は思っていた。
『――……お姉ちゃんは、もういません――』
脳裏にそんな言葉が響いた。
それは桜良の声のように聞こえた。
桜良の声が、自分は桜良じゃないという。
桜良の声が、桜良は自分の姉だという。
桜良の声が、桜良はもういないという。
それは御調にも和花にも、この三か月いろいろな相手に言われ続けてきたことだ。でも真宙は認めなかった。認められるわけなかった。
だって桜良はいつだって自分の隣に、目の前にいたのだから。
桜良はいなくなったりしない。桜良がいなくなるわけなんてない。
今だってそう、少し怒ってどこかに行ってしまっただけなんだ。
でもそれは自分自身が悪い。真宙が和花を泣かせてしまったのが悪いのだ。
だからまずは和花に謝ることだ。そして御調にも、秋那にも謝る。それがちゃんと出来たのなら、きっと桜良は帰ってきてくれる。
三か月前、突如自分の目の前からいなくなったときと同じように、いつの間にか、そしているのが当たり前であるように、桜良はきっと真宙のところへ帰ってきてくれる。
「…………そうだよね、桜良」
誰もいない空に手を伸ばす。
当然、誰からの返答もなく、その手が誰かに触れることはなかった。
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