第8話(2/3)「王子はつらいよ」
当代の聖女の年齢や歴代聖女の聖女としての限界を考えると、まだ三歳の第三王子には早過ぎる。聖女を第二や第三夫人とするわけにもいかず、かと言って政略結婚の要である現在の第一夫人をこちら側の勝手な都合で第二や第三夫人に降ろすわけにもいかない。隣国とは元々、上手くはいっていなかったからこその王族による政略結婚なのだ。そんな事をすれば最悪、戦争の切っ掛けとされかねない。
「聡明」と評判だったテルマェイチ少女は聖女候補クラウディウスという存在を知るもっとずっと前から「第二王子は聖女と結婚する」と知っていた。分かっていた。
そんな事は分かっていながら――。
「何だ? テルマェイチ」
オフィールはテルマの方をちらりとも見ずに返した。そのブルーの瞳はクラウディウスだけを映し続けていた。
「『聖女』とは聖女として生まれて、聖女として生きる者です。『聖女候補』などというものはありえません。それは品の無い輩が好むと言われる『一発逆転』や『下剋上』や『成り上がり』に通ずる下衆な考えです。どうかお控え下さい」
古風な詭弁だ。現実的には聖属性の魔力が高い女性を教会本部が「聖女である」と「認定」しているわけだが歴史的な建前としては「聖女」を「発見」して迎え入れるというのが教会全体としての立場だった。
平民は別としても貴族ならば下級だろうが辺境に引っ込んでいる者だろうが誰でも知っている現実だった。むしろテルマが口にした古風な建前の方こそが皆には忘れ去られようとしているくらいだった。
「クラウディウスはわたくしの妹――ただの『妹』でございます」
「クラウディウスは聖女候補ではない」と言えば嘘になってしまうが「『聖女候補』というものは無い」という建前を口にする分には何の問題も無かった。
そんな内訳を全て理解した上でだろう「――ふん」とオフィールは鼻で笑った。
テルマもクラウディウスの本当の性別を知ってしまっていなかったら、聖女クラウディウスの「未来の夫」であるオフィール第二王子のちょっかいなど放っておいた。無理にたしなめるような事はしなかった。でも。クラウディウスは男性だったのだ。
公爵家が養子にまでした聖女候補が男性だったなどとバレれば大変な事になる。
どの段階で誰にバレるかにもよるだろうがアムレート公爵家を飛び越えてこの国を揺るがすような大問題にもなりかねない。……かもしれない。
テルマはクラウディウスが男性であるという事実を隠し通すと同時に「彼女」には聖女と認定されるほどの魔力は無いのだという「設定」を押し通そうと考えていた。
だから「聖女の結婚相手」である第二王子には出来るだけ「聖女ではない」という「設定」のクラウディウスには近付いて欲しくなかったのだ。
何がキッカケでその嘘がバレてしまうか分からない。また「第二王子」は最もその嘘がバレてはいけない相手の一人だった。出来るものならばリスクは回避したい。
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