第8話(1/3)「王子はつらいよ」

 

 道の真ん中を歩く公爵令嬢の行く手を銀髪の男性――少年と言った方が適当か――が遮る。このとんでもない状況を横目に登校途中の他の生徒達は皆、


「……おい。こういう場合はどうしたら良いんだ?」


「どうしましょう。どうしましょう」


「お、お取り込み中よ。御挨拶は控えましょう? ね?」


「そ、そうか。……そうだな。そうしよう。お邪魔にならないように。早く行こう」


 どよめきながらも巻き込まれたくはないという思いからであろう足早にその場から離れようとしていた。校舎に逃げ込む。


 少年はそんな周囲のどよめきに気が付いていないわけではないが全くの無関心に、自分のしたい事をする。


「姉と同じ授業を受けたい――か。確かに。不可能ではないな。実技の授業は魔力の習熟度別に分けられる。年齢も身分も性別も何も関係無くそのレベルが同程度ならば受ける授業は同じになるぞ。だが――」


 少年は目鼻立ちの非常に整った顔をずいとクラウディウスに近付けた。


「え? あの……え?」


 クラウディウスの顔を銀髪の少年は至近距離からじっと見詰める。鮮やかなスカイブルーの瞳にはクラウディウスの戸惑う表情だけが映り続けていた。その目の色は、テルマェイチ・アムレートの瞳の青色とはまた違う「ブルー」であった。


「お前の姉の魔力ランクは『中の上』だぞ?」


「は、はいっ。頑張ってわたしも中の上にむ――ッ!?」


 話の途中でクラウディウスは変な音を漏らした。少年が指でクラウディウスの頬をつまんだのだ。……ヒヨコみたいな口になっているクラウディウスが可愛らしい。


 ――が現状はまるで可愛らしくないものとなっていた。


「隠すな。聖女候補のお前のランクは『上の上』か、もしくはそのまた上だろう?」


 遠巻きに見て見ぬ振りを決め込んでいる他の生徒達には聞こえないであろう小さな声で囁いた少年に、


「殿下」


 テルマが声を掛ける。


 そうなのである。この銀髪で鮮やかなスカイブルーの瞳を持つ、非常に整った目鼻立ちの少年こそこの国の第二王子であらせられるオフィール・エルシノアであった。


 年齢は十四歳。学年で言うとテルマの一つ下でクラウディウスの一つ上の第二学年生となる。


 オフィールの兄である第一王子は現在二十五歳で隣国の高位貴族を第一夫人に迎えていた。政略結婚である。オフィールの弟である第三王子は現在三歳で、いとこには男子が居ない。もっと探せば出てくるだろうがそうなると王家の血筋としては随分と薄くなってしまう。何の話をしているのか――次代の聖女の嫁ぎ先の話だ。


 普通に考えれば。このオフィールがクラウディウスの夫になるのだ。次代の聖女の夫となれる者はこのオフィールしかいなかった。



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