第7話(3/3)「『傲慢』は貴族の義務である」
通学路である校門から校舎までのアプローチには現在、多くの生徒達が居た。皆、登校途中であった。公爵家の令嬢であるテルマェイチ・アムレートはただ歩いているだけで皆の視線を集めていた。特にテルマが何をしているわけではない。服装も皆と同じ制服だ。ただテルマは皆から敬われる立場の人間だった。一人が気付いて挨拶をすればその声に気が付いた別の人間がまた挨拶をするといった感じでいわば連鎖的にその存在が広まってしまっていた。
またそれは日常茶飯事でもあった。高位貴族の令嬢として見られる事にはテルマも慣れていた。人目に怯む事はない。むしろ他人に見られていると思えば自然と背筋も伸びる。口許にも余裕ありげな微笑みが浮かぶ。足運びは余計に優雅になる。
多くの他人の目があったこの場でならクラウディウスに手を握られても、テルマは平静でいられた――平静を上手に装えていた。
「クラウディウス。もう大丈夫だから。手を離しなさい」
「でも」
「あなたも疲れてしまうでしょう。今日は入学式なのよ。式が終われば実技のクラス分け試験もあるわ」
テルマが今朝に思い付いた作戦――聖女候補と目されるくらいに才能溢れるクラウディウスには申し訳ないけれども試験で少しだけ手を抜いてもらって、今後の実技はわたくしと一緒に中の上ランクの授業に参加しましょうとは、朝食の時間に伝え済みだった。
「覚えていますわよね? クラウディウス。朝食の席でしたお話は」
前を向いたままテルマは小さな声で囁いた。
「え……あ、はいっ。覚えてます。もちろんです」
「離しなさい」と言われたその手を未だに握っているままクラウディウスは頷いた。
「お姉さまと同じ授業を受けられるようにがんばりますっ!」
「声が大きいですわよ」
冷静に注意しながらテルマはクラウディウスに握られていた手をさっと引き抜く。上手に逃れた。……流石に限界だった。他人の目が多くあろうとも。優しく強く手を握られたまま、あんな事を言われてしまっては。分かってる。でも。テルマはクラウディウスが口にした言葉の意味を勘違いしてしまいそうになる。
どくんどくんと胸から広がり伝わってくるその熱を、テルマは「公爵令嬢」の顔でやり過ごす。熱くなり掛かる頬や頭を意識の外に置く。……いいえ。わたくしは熱くなんてなっておりませんけれども? と自己暗示を掛けて熱を逃がす。
「まあ。まあ。『お姉さまと同じ授業を受けられますように』なんて可愛らしい」
「お顔を拝見するのは初めてですが。あちらが例の養子となられた方では」
「お名前は確か……クラウディウス様だったかと。お姉さまがお好きなのね」
「でも。テルマェイチ様は今、クラウディウス様の手をお払いになったような……」
ざわめきにも至っていない周囲の囁き声など、今のテルマには聞こえているはずもなかった――が、
「健気な事だな」
不意に現れたその男性はわざわざテルマとクラウディウスの前に立ち塞がってから言い放った。ふんッ――と鼻息のオマケまで付けて。
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