第7話(2/3)「『傲慢』は貴族の義務である」
「おはようございます。テルマェイチ様」
「おはようございます。アムレート公爵令嬢」
「おはようございます」
テルマ達が道の真ん中で立ち止まっている間中、その道の端を通り過ぎる生徒達に挨拶をされ続けていた。通学路であるアプローチは広い。真ん中と端でこれだけ離れていれば「通り過ぎる」事も出来ようがそれでも一部の気を回し過ぎるきらいのある家の子供達はテルマの後方――校門の辺りで立ち止まっていたりもしていた。
「クラウディウス。行きますよ」
歩き出そうとしたテルマに「あの……」とクラウディウスが声を掛けてきた。
「大丈夫ですか? お姉さま。歩いても。その、まだ体調が」
「クラウディウス様」
クラウディウスがまだ喋っている途中で、その専属メイドであるキルテンがそっと耳打ちをする。侍従の行動としては中々にありえないものだった。
「貴族は他人に弱みを見せません。人前で御家族のネガティブな話はお控え下さい」
キルテンに言われてクラウディウスは「あ」と声を漏らした。
それはルールでもマナーでもなく高位貴族としての心構えの話だった。
また理不尽に急な後出しで叱られているわけでもない。クラウディウスは事前に勉強させられていた。その事を忘れてしまっていたのだ。失態だった。
「あの。ごめんなさい。お姉さま」
クラウディウスは眉を曲げながらとててと小走りで、少しばかり先を歩くテルマを追い掛ける。
「クラウディウス。走らないの」
横に並んだ妹にテルマは軽く苦い微笑みを掛ける。
「あの。はい。ええと」
クラウディウスは言葉を選びながら、
「言いませんし他の方には分からないようにしますから。……お手を」
テルマの手を取った。
「く、クラウディウス?」とテルマは驚く。
「姉妹でも人前で手を繋いだまま歩く事は、その、ダメでしょうか? 貴族は」
俯き加減からの上目遣いでクラウディウスはテルマの事を見る。……カワイイ。
「魔力ちりょ……ええと『アレ』は別に光ったりとかするわけでもないので。他の人からは手を繋いでいるだけに見えますし」
並んで歩きながら喋りながらも、クラウディウスに握られているテルマの左手には聖属性の魔力がどんどんと流し込まれていた。
馬車の中ではクラウディウスに手を握られているという大きな事実に気を取られてしまっていて、他の事には全く気が回っていなかったが、なるほど、聖属性の魔力を流し込まれるとはこういった感覚なのか。涼しい日に手を適温の湯の中に突っ込んでいるかのように――じんわりと温かさが体の芯まで伝わっていく。
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