第6話(2/3)「見ざる聞かざる言わざる眠りメイド(+アルカイック・スマイル)」
助けを求めるように目をやったが隣の席のロウセンは我関せずといった感じに目を閉じていた。……確実にわざとだ。何のつもりか、どんな意味でかは知らないが。
藁にもすがる思いで斜向いの席のキルテンにも視線を投げたが彼女は彼女で非常に穏やかな――中身の無さそうな微笑みをたたえてこちらの方を眺めていた。
……流石は公爵家の令嬢に仕える専属メイド達だ。片や厳格、片や放任とそれぞれの主人に見合った態度を見せ付けてくれた。よくできた方達ですこと……。
助けが望めないのであれば自分でどうにかするしかない。
テルマは息を吸い込んだ。
「とりッ、とりあえず手を」
「放しません」
言葉の途中でクラウディウスが拒否を示した。ありえない。あのクラウディウスが「話の途中」で「拒否」するなんて。
二人が馬車に乗り込んですぐから、テルマの右手はクラウディウスの手に捕まってしまっていた。クラウディウスは皿にした左手にテルマの手を乗せると右手でふたをしてきた。強くはない力ながらそれでもしっかりとサンドされてしまった。
どうしてそんな事をされたのか。してきたのか。それは、
「駄目です。お姉さま。お顔がまだまだ赤いです。汗もかかれています。むぅ……、気のせいでしょうか。呼吸なんかは最初よりも荒くなってきてるような……」
昨夜に風呂場で倒れて以降、翌朝の挨拶時から朝食の段になってもまだ本調子には見受けられなかった姉のテルマに聖属性の魔力を流し込む為であった。孤児院時代の幼少期からクラウディウスが得意としていた魔力治療である。
「でも大丈夫ですから」
クラウディウスの表情は自信に満ちていた。テルマはどきりとしてしまう。それはまたテルマの知らない顔だった。
「お姉さまは治ります。わたしが治しますから。わたしに任せてください」
「……ええ。その……ありがとうございます」
ふと彼女が公爵家にやってきた半年よりも前――クラウディウスがまだ「クロウ」だった頃の顔なのかもしれないとテルマは感じた。
その顔が治療中の患者を安心させる為に作られた癖のようなものなのかそれとも、自身の能力を発揮している現状でにじみ得る自己肯定感から自然と浮かべられた表情なのかまでは分からないが。
強気な慈愛とでも言おうか。頼りがいのありそうな優しさ。安心感を与える大きな表情。一年半前に母親を亡くしたばかりのテルマが思うに。それは母性というよりも父性的な顔だった。
テルマの右手を包み込むクラウディウスの両手に柔らかな力が込められる。
――うひゃッ。
何だろうか。くすぐったいともまた違う感覚だった。
テルマの緊張が増す。
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