第6話(1/3)「見ざる聞かざる言わざる眠りメイド(+アルカイック・スマイル)」
テルマェイチ・アムレートの瞳は青色をしていた。目頭から目尻に向かってゆるく跳ね上がって落ちる丸いアーモンド型の目をしていた。意思が強そうだという印象を与える目の形だった。
クラウディウス・アムレートの瞳は淡褐色だった。黄色に近い淡い茶色に薄っすらと緑色が混ざっていた。その目は大きくてまんまるだった。可愛らしさと同時に幼さを覚える目の形だった。
テルマェイチ・アムレートの髪は金色をしていた。太い直毛で色合いの濃いハニーブロンドだ。陽の光を反射させるというよりは吸収しているみたいな深い色だった。
クラウディウス・アムレートの髪もまた金色をしていた。一本一本は細いが毛量はあって全体的にはふわふわとしていた。陽の光に同化するようなプラチナブロンドは無垢で無邪気な雰囲気を醸し出していた。
テルマェイチ・アムレートは美しい少女だった。この年頃の女性にしては背も高く姿勢も正しかった。
クラウディウス・アムレートは可愛らしい少女だった。遠慮がちな俯き加減から、上目遣いに相手を窺い見るその仕草には誰であろうと庇護欲を掻き立てられてしまうだろう。これから伸びる可能性は十二分にあったが今はまだ背も低かった。
「え……と。あの……クラウディウス?」
「駄目です。お姉さま。目を逸らさないでください」
二人は今、学院へと走る馬車の中に居た。向かい合った形で座っていた。
公爵家所有の最高級品ながらそれでも馬車の中は狭かった。斜向いではなく完全に向かい合って座っていた場合にはどうしても膝と膝とが触れ合ってしまうような狭さだった。ただでさえそのような狭さなのに、
「お姉さま」
テルマの向かいに座ったクラウディウスは背もたれから背中を離して半歩前に出ていた。テルマにぐっと近寄っていた。
「わたしの目を見てください」
クラウディウスは真っ直ぐにテルマの目を見詰めていた。テルマは、
「いや……その……目を見てと言われても」
顔の正面はクラウディウスに向けながらも、その青い目は右に左に上に下にと逃げ回っていた。
クラウディウスはクラウディウス――わたくしの「妹」だとテルマが再確認をしたのはほんの小一時間前の事だというのに。今、テルマの目の前にはテルマが知らないクラウディウスが居た。
「お姉さま」
何でそんなに前のめり? 何か近い。下からではなくて真正面から真っ直ぐに向けられた目が強い。鼻息が荒い――と感じられるくらい近いのか。
「遠慮がちな姿に庇護欲をそそられる」の逆だ。
強気で来られると必要以上に身構えてしまう。……必要以上? 「妹」相手に何がどれくらい「必要」なのか。分からない。
だが事実、積極的なクラウディウスにテルマの心は引いていた。その身は固まってしまっていた。逃げ出してしまいたくなる。でも体は動かない。ぐるぐると忙しなく回ってはいる頭もまともには働いていなかった。
「うう……」
逃げられない。狭い馬車内、妹の手前、色々な意味で。
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