第5話(1/2)「姉妹、一晩会わざれば」
――朝。昨日で春の長期休暇が終わり、本日から学院が再開される。
学院は「学院」であって固有の名詞は無かった。
古く王族によって設立され、現在は国が管理、経営をしている公的な機関である。
授業には座学と実技の二種類があり、座学では主に貴族社会に通ずる常識を学び、実技では魔力に関する全ての事を実践形式で身に付けさせられる。
学院の座学は知識を深めるというよりも貴族間の共通認識を図る為にあった。こういった行為は失礼にあたるだとか、こういった態度は敬っている証であるとかを学ぶのだ。簡単に言えば、毒見役の使用人に対して「主人よりも先に食べるとは何事か」と間違った怒りを理不尽にぶつけてしまったりしないようにといった勉強だった。
学年別に分かれて順に学び進める座学とは違って、実技は年齢も身分も度外視した習熟度別授業となる。何故ならば「魔力自体は全ての人間が有しているがそれを自由に操れる者はそう多くない」からであった。多少でもすでに魔力を操れる者やその素質を認められた者は魔力行使の上達を目的に、そうでない大多数はいつか訪れるかもしれない非常事態時に自身の魔力を暴走させないよう、教師の魔力に触れて体を慣れさせるといった荒療治に近い方法で学ぶ。厳しい授業だった。……もしかしたら精神鍛錬の意味合いもあるのかもしれない。
就学の対象となる生徒は貴族の子息・息女で十二歳になった年から十七歳になる年までの五年間が在籍の期間となる。
例外的に交流のある諸外国から留学生が招かれる事もあるが、それも他国の貴族であって平民が学院に通う事はなかった。
クラウディウスのように平民から見出された聖女候補は、聖女と認定された場合、必然的に王家を始めとする上級貴族社会との関わりが深くなる為、学院での座学講習は必須となっていた。重要であった。
その為、平民から見出された聖女候補は、見出した貴族が養子に迎えるという形で責任を持ってこの学院に通わせる事が習わしとなっていた。
だからと言って「養子だから聖女候補」と短絡的に決め付けられてしまうわけでもなかった。
聖女云々とは無関係に子供が居ない貴族が他家の子供を養子に迎える事自体はよくある話で、クラウディウスがアムレート公爵家に迎えられた養子という事は聖女候補なのだなと即座に連想される事はなかった。
実子のテルマェイチが居るなかで新たに養子を迎えるという行為も、それが男児であれば跡継ぎ候補であろうと思われるだけ、また女児ならば養子とした後で他家へと嫁がせる事でそちらとの縁を深めようという政略結婚的な観点から、それもまたよくある話と思われるだけであろう。
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