第4話(1/2)「お姉さまは見目麗しい妹の夢を見る」
時間は少しばかり遡り――気を失ったテルマが専属メイドのロウセンに連れられて出て行った後の風呂場には、その二人と入れ替わるようにして入ってきたクラウディウスの専属メイドのキルテンと彼女にこの世の終わりのような顔を向けるクラウディウスの姿があった。このキルテン、年齢は三十一歳でメイド歴は十年。ロウセンから見れば「年上の後輩」となる。
「お、お姉さま……、お姉さまが……」
腰にタオルの一枚も巻いていないクラウディウス。倒れた血の繋がらない姉。姉の年齢は十五歳――キルテンは「ああ。なるほど」と一人で頷いた。
「落ち着いてください。クラウディウス様。テルマェイチ様なら大丈夫です」
テルマお嬢様は知らなかったのだ。クラウディウス様が男性であった事を――キルテンはそのように理解した。
肩書上は「姉妹」だが実際は血も繋がっていない異性と一緒にお風呂に入ろうだなんて。十五歳にもなって無邪気が過ぎるのかそれとも逆に邪な事でも考えているのかとその提案を聞いた時には驚き呆れたが真相はそのどちらでもなかった。
「でも……」と小刻みに体を揺らし続けているクラウディウスの両肩に手を置いて、
「テルマ様は湯あたりを起こされただけですから」
キルテンは適当な事を言う。
「湯あたり……?」
「少し休まれればすぐに目も覚まされます。クラウディウス様と御一緒なされる事が楽しみで少しだけ早くから長く湯船に入られていたのでしょう」
「あ……。……わたしの準備が遅かったから……?」
クラウディウスが公爵家の養子となってまだ半年しか経っていなかった。それまでの彼女は清貧というよりは赤貧に近い孤児院に居たのだ。半年前から急に着させられ始めた凝ったデザインのドレスを一人きりでスムーズに脱ぎ着するのはまだまだ難しかった。
普段なら専属メイドのキルテンがドレスの脱ぎ着を手伝うのだが今回は姉のテルマェイチから「メイドも入れずに二人っきりで」と何度も重ねて言われていた為、クラウディウスは馬鹿正直にキルテンの「脱衣所までならメイドの私が御一緒しても構わないのでは」という申し出を固辞してたったの一人でドレスを相手に悪戦苦闘してしまった。そのせいで当初の予定よりも多少、脱衣所から風呂場へと移動するのが遅くなってしまっていたという事実は確かにあった。それでもクラウディウスが気に病むような長い時間ではない。本当に「多少」の時間だ。
「クラウディウス様」
キルテンは、
「いつまでも立ち尽くしていらっしゃらないで。まずはお体をお洗いしましょうか」
慰める事は諦めて話題を変えた。
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