第3話(2/4)「聖女様って男性でもなれるのかしら?」
聖女の役目。それは有事の際や年に一度の定期的な祈りであった。具体的に言えば広大な国土全てを覆う超巨大結界の要に聖属性の魔力を大量に注入する事である。
その「お役目」は今から二千年前と言われている建国時から連綿と受け継がれているとされており、当代の聖女はその七十三代目に当たる。
この「史実」はこの国で暮らす人間であれば子供でも知っている話だった。当然、テルマも知っている。
「聖属性の魔力を持つ者ならば男性であろうともお役目は行なえます」とロウセンは言ったが、
「あら。聖属性の魔力は女性にしか宿らないのではなかったかしら。だとすれば幾ら言葉で遊んでも事実上、聖女のお役目は女性にしかこなせない事になるわ」
テルマは首をひねる。
「女性にしか宿らないのではなくて『心根の優しい女性に宿りやすい』などと言われてはおりますね。ただそれも単なる社会通念と言いますか根拠の無い風評でしかありません。実際には聖属性の魔力を有した男性も相当数居るはずです」
「そうなの? 聖属性の魔力を持った男性なんて見た事も聞いた事も無いわよ? ――クラウディウスの件は置いておいて」
魔力自体は全ての人間が有しているがそれを自由に操れる者はそう多くなかった。その多くない数を更に「聖属性」「闇属性」「火属性」……といった数種類に分けるのである。「聖属性の男性を見た事が無い」と言ったテルマだったが、社会通念上は普通に居るはずの「火属性の女性」や「土属性の男性」もまた見た事が無かった。
そもそもが「何属性の誰それ」を見る機会が少ないのだ。普通に生活をしている姿を見ただけではその相手が何属性の魔力を有しているのかなんて分からない。
「聖属性の男性はとかくその事実を隠したがるのですよ」
溜め息のようなものを吐きながらロウセンは言った。
「……どうしてかしら?」
「イメージの問題でしょう。『心根の優しい女性に宿りやすい』だのと言われて『聖属性=女性』の印象は強いですからね」
「そんなの……」
「男性の多くは女性的だと言われる事を嫌うのですよ。言った側に悪気は無くとも、言われた男性にとっては――少なくとも褒め言葉とは捉えません」
ロウセンは「お嬢様もそのような機会にはお言葉に注意なさってみてください」と助言をくれたが、どのような場面で男性の女性的な一面を目の当たりに出来るのか、具体的には想像も出来ていなかった。
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